『中国名言集』

『中国名言集』_c0051620_14214966.jpg 言葉の力を信じています。理性を駆使して相手を説得し、あるいは説得され、協力して状況をより良い方向に動かしていく。暴力が渦巻く今だからこそ、必要なのが言葉の力ではないでしょうか。読書をして力のある言葉に出合うと、せっせと書き溜めていくのがいつしか習慣となり、「言葉の花綵」として拙ブログで上梓しています。その際、偶然の出会いを大切にしたいので、他者の基準で選ばれたいわゆる「名言集」にはあまり食指が動きません。ただ大好きな中国の名言にはなかなか出会う機会がなく、たまたま知った『中国名言集 一日一言』(井波律子 岩波現代文庫)を購入してみました。
裏表紙にあった紹介文を引用します。

 ときに英知の結晶の重みに粛然とし、ときに寸鉄人を刺す切れ味に感嘆し、ときに洒脱なユーモア感覚あふれる面白さに哄笑し、ときに鮮やかに世界を凝縮した詩句に心を酔わせる-史書、詩文、随筆、小説、俗諺等々から精選した、時代を超えて生き続ける366の名言を、一年各日に配して明晰な解説を付す。日々の暮らしを彩る、教養と実用を兼ねた一冊。

 まったくもって、その通り。いろいろな考えや思いや感情をぎゅっと凝縮して「へいお待ち」とさしだされた気持ちです。言葉の力を大切にする中国文化の底深さに脱帽です。一日一句というのもいいですね、忙しいとき、暇なとき、自分のペースに合わせて無理なく読み進めることができました。
 そしてあらためて思ったのが…人間って大昔からあまり変わっていないのですね。科学や技術の劇的な進歩に対して、それをコントロールすべき人間の理性や知性がそれほど進化していないことが、いま私たちがかかえる様々な問題の原因なのかな。
 中国の名言をいくつか選んで、いろいろな方に贈りたいと思います。


 まずは嫌中・嫌韓・嫌朝という考えをお持ちの方に贈ります。

【徳は孤ならず】

 孔子の言葉。「徳は孤ならず 必ず鄰り有り」とつづく。道徳性の高い者は孤立無援ではなく、必ず隣人(同行者、理解者)がいるという意味である。孔子は十数年間、弟子を連れ、みずからの政治理念を認めてくれる君主を求めて諸国を放浪したが、ついに理解者を得られなかった。しかし、孔子はめげることなく、「徳は孤ならず」と確信しつづけた。まさに筋金入りのオプティミズム(楽天主義)といえよう。(p.22)

 次に、日本で暮らす全ての方々に贈ります。

【水は即ち舟を載す】

 荀子の言葉。まず「君なる者は舟なり、庶人なる者は水なり」と、舟を君主、水を庶民になぞらえ、「水は即ち舟を載せ、水は即ち舟を覆す」と述べる。水たる庶民は舟たる君主が良き政治を行えば、穏やかに載せいただくが、悪しき政治を行えば、波立ち転覆させるというのである。庶民の力を軽視してはならないという君主への警告だが、さまざまな局面において、現代にも通用する鋭い指摘だといえよう。(p.60)

 有権者の方々に贈ります。次の参議院議員選挙、楽しみですね。

【腐木は以て柱と為す可からず】

 「卑人は以て主と為す可からず」とつづく。前漢第十二代の成帝がダンサー出身の美女趙飛燕を皇后に立てようとしたとき、諫大夫(君主の過失を諫める官職)の劉輔は俗諺だとしてこの言葉を引きながら強く諫めた。「腐った木(趙飛燕)は柱(皇后)にすべきではない」の意。この俗諺は『論語』公冶長編の「朽木は雕(ほ)る可からざる也」(朽ちた木に彫刻はできない)を踏まえたものである。いずれも寸鉄人を刺す痛烈な罵倒の言葉である。(『漢書』 劉輔伝) (p.145)

 次に政治家・官僚・財界の皆々様に贈ります。

【路には凍死の骨有り】

 杜甫の長篇詩「京自り奉先県に赴くときの詠懐五百字」の一句。
  朱門には酒肉臭きに
  路には凍死の骨有り
 とつづく。「富貴の朱塗りの門内では余った酒や肉が腐臭を発しているのに、道端では困窮し凍死した人々の骨が横たわっている」の意。755年の冬、「安禄山の乱」勃発の直前、唐王朝の退廃が極に達し社会不安が激化した時期の作だが、貧富の極端な差をリアルに描くこの詩句には、社会の病根をえぐりだす迫力がある。(p.376)

 「敵地攻撃能力」だの「防衛費GDP比2%」だの「核シェアリグ」だの物騒なことを言っている方々に贈ります。

【兵は死地也】

 戦国七雄の一国、趙の名将趙奢が自信家の息子趙括を評した言葉「兵は死地也、而るに括は易(たやす)く之を言う」による。「戦いは生死を賭けた危険なものだ。それを括はこともなげに言っている」の意。さらに趙奢は趙括を大将にすれば趙軍は壊滅すると予言するが、彼の死後、趙王は対秦戦の大将に趙括を起用した。結果は大敗北、趙括は戦死し数十万の趙軍は全滅した。「子を見ること親に如かず」である。(『史記』 廉頗藺相如列伝) (p.160)

 自由民主党およびそのコバンザメ公明党・維新の会の皆様に贈ります。

【多く不義を行えば 必ず自ら斃る】

 「不義を重ねれば、必ず自滅する」の意。春秋時代、鄭の荘公の弟が勝手に領地を増やすなど専横を重ね、家臣が早急に滅ぼすべきだと進言したとき、荘公はこう述べて家臣をなだめた。やがて弟の横暴が極点に達したと見るや、荘公は一気に攻勢をかけ、弟を国外に追いはらった。悪いやつほどよく眠るというが、欲望の虜になり不義を重ねた者にツケがまわる例は古代から枚挙に暇がないほどある。(『春秋左伝』 隠公元年) (p.140)

 最後に、安倍晋三氏に贈ります。

【人は以て恥ずること無かる可からず】

 孟子の言葉「人は以て恥ずること無かる可からず。恥ずること無きを之れ恥ずれば、恥ずること無からん」による。「人は恥の思いをもつべきだ。恥の思いがないことを恥じれば、恥じることはなくなるだろう」の意。自己反省することなく自己過信することこそ、実はもっとも恥ずかしいことだというのだ。孟子は「恥の人に於けるや大(おも)し」とも述べており、恥の感覚、恥の思考を人格形成の要の一つとみなしている。(p.238)


by sabasaba13 | 2022-05-17 06:16 | | Comments(0)
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