不動産小口化投資商品「みんなで大家さん」を手がける共生バンク(本社:千代田区)が法廷闘争を拡大している。

 10月3日、大阪地裁で行政機関に対する損害賠償請求訴訟(国家賠償訴訟)を起こしたのは同社グループの都市綜研インベストファンド(本社:大阪市。以下、都市綜研)。不動産特定共同事業法(不特法)上の許可権者である大阪府に対し、1億円の損害賠償を求めた。10月9日には東京地裁で、みんなで大家さん販売(本社:千代田区)が東京都を相手取り、同額の訴訟を提起した。

大阪高等・地方・簡易裁判所合同庁舎(大阪市北区西天満)
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 これらは両社が今年6月、府と都に提起した行政訴訟から派生したもので、30日間の処分期間を過ぎた後でも、法廷の場で行政処分の不当性を訴え続けることが主眼とみられる。


投資家5300人から295億円の解約請求

 今回の訴訟の背景となったのが、変わらず続く投資家からの解約請求である。最新の裁判記録によると、6月17日の行政処分から9月30日までに、解約を申し出た投資家は5318人。約3万8000人の総数に対して14%に相当する規模で、8月末頃の数字よりも1300人ほど増えた。請求総額は295億円に達している。

 前述の2社は「本件業務停止処分による風評被害によって生じたものであることは明らか」と、その矛先を監督当局である大阪府や東京都に向ける。一方の府・都は、業務停止処分の期間が7月に終了し、原告に訴えの利益がないとの立場を守る。

 証拠資料のなかで特に目を惹(ひ)くのは、都市綜研など原告側が風評被害の事例として提示した、1通の内容証明郵便の写しである。中身は成田プロジェクトに関する6項目の質問状で、みずほ銀行が7月3日、同行の顧問弁護士を通して都市綜研に送付した。

 その記載を引用すると、都市綜研は同行に対して「開発は日々ブラッシュアップされ、好調に推進されている」「遅れる遅れないは予定の範囲内」などと説明していたようだ。

 対するみずほ側は、6月の行政処分の内容が、同行規定における口座解約条件に該当することを示すと同時に、計画詳細や請負契約書、工程表など工事関係の資料一式を要求している。


ファンド間の資金流用疑惑に言及

 質問の中には、配当原資の所在や土地の資産評価に関するもののほか、シリーズ成田の各号間での資金流用を疑うような、踏み込んだ指摘も含まれる。

 「当行は恣意的に質問しているのではなく、造成工事の進捗状況等から抱かざるを得ない、合理的な懸念について払拭できるかどうかを確認している。貴社からも質問を受領したが、答える義務はない」、「行政処分は、貴社が適法に事業を行っていたのかという点について疑念を大きくさせる」などの表現からは、両者の緊張関係が垣間見える。

 なお上記の文書によると、都市綜研はみずほ銀行麹町支店に四つの普通預金口座を保有する。同社を含む共生バンクグループは、事業資金を個人投資家の投資マネーに頼り、金融機関からの借り入れがほとんどない。仮にみずほとの関係が断絶しても、どの程度のダメージとなるかは不明だ。

 ただし、訴状で同社側が自ら主張した通り「多くの取引契約について、監督官庁による営業停止が契約解除理由になって」おり、「解除権の行使は相手の裁量」によることから、今後、事業上での制約が増える可能性も否定できない。みずほ銀行は「個別の契約に関する質問には答えかねる」と本誌に回答。共生バンクは「先方からの照会には真摯に回答した。口座は解約されておらず全て存続している」と説明した。

みずほ銀行による質問状の要旨

(1)行政処分での処分理由(投資家への説明不備、誤記載など)は事実か
(2)成田プロジェクトに関わる開発会社(SPC)が、投資対象となる不動産の元所有者であることや、共生バンクの子会社であることを投資家に説明しているか
(3)配当原資となる賃料(地代)が、グループ間取引での不動産売却益を基にしていることを説明しているか
(4)造成工事の途中なのに募集、配当が続くのはなぜか。例えば、シリーズ成田18号の投資家による不動産購入代金を原資として、別のシリーズ成田ファンドに賃料が支払われていないか(開発SPCの決算書や賃貸借契約書の写しを要求)
(5)不動産売買価格の根拠(売買契約書や不動産鑑定書の写しを要求)
(6)「プロジェクトが好調に推進されている」とする根拠(計画詳細、工事請負契約書、工程表などを要求)

【注】 都市綜研インベストファンド宛、7月3日付の質問状を基に内容を要約し、適宜補足した。都市綜研側の回答は裁判資料にないため未記載

小野 悠史=フリーランス本間 純