luckdragon2009 - 日々のスケッチブック(Archives)

luckdragon2009 - 日々のスケッチブック [過去記事]

名誉毀損の成立要素を、判例から考える。 (生体腎移植に関する、損害賠償請求事件) 後編(裁判所の認定内容)

さて、『個人に対して、犯罪であると言ってしまうこと自体は違法です。 - luckdragon2009 - 日々のスケッチブック』『名誉毀損の成立要素を、判例から考える。 (生体腎移植に関する、損害賠償請求事件) 前編(事案の概要) - luckdragon2009 - 日々のスケッチブック』の続きです。


テキストは「判例タイムズ 2012/08/01 1372」にて、「松山地裁、平成23年6月29日判決」の解説の続き。判決文の項目「事実及び理由」の各自の主張事実*1まで説明しましたので、次は「第3 当裁判所の判断」となります。
ここからが裁判所の判断、裁可です。
まず最初に、前提となる事実・証拠を記載し、2〜5で争点に関する判断を掲げ、6で結論に至っています。犯罪呼ばわり、に関する判断としては、「4 乙山発言について」が該当する。


該当部分の後半を、そのまま下記に引用する。
なお、この判断の前、「移植を受けたレシピエントのうち半数が術後4年で死亡しているという事実を前提として、原告が行った手術が犯罪に当たる」とした乙山発言について、発言の前提とした資料*2と、その発言から、一般人がこれを聞けば、「原告がレシピエントの生命に危険を生じさせる行為として、犯罪が発生しえるかのような印象を与え、原告の社会的評価を相当程度低下させるもので、名誉毀損に当たると認めるのが相当」との判断をしています。
その上で、その発言が公益目的にあたるので、違法性に欠ける、としている。
原告が主張する「修復腎移植の成果に対する被告らのねたみや嫌悪に基づくと推測される*3」については、これを退け、あくまでも公益に適うものであった、との判断を行っています。

(判決文より)

本件生体腎移植を手術がレシピエントの身体に対する侵襲を本質としてするものであり、医療行為としての相当性を欠いた場合には刑罰法規に触れる余地が全くないとはいえないことからすれば、乙山発言は、被告乙山が、医師の立場から、本件生体腎移植手術について、術後の生着率、レシピエントの生存率に関するデータを前提に、本件生体腎移植手術は他の方法によった場合と比較して有効性に乏しく、むしろレシピエントの生命に対する危険性の方が高いため、医療行為としては著しく相当性を欠き、刑罰法規に触れる可能性すらあることを指摘したものとみることができる。確かに、「これ犯罪ですよ。」との表現は、この部分だけに限れば、原告を犯罪者であると断定するかのような表現ともとり得るし、これを聞いた一般人がそのような理解をする可能性があることも否定できないところであるが、乙山発言の内容全体やそれがされた経緯等に照らして考えれば、乙山発言は、もっぱら本件生体腎移植手術自体の医学的相当性に言及したものであると解することができ、上記医学的相当性の問題を離れ、原告が犯罪者であるとか、医師としての適格性を欠く者であるといった、原告個人に対する人身攻撃に及ぶなどの内容を持つものとは認められない。
そうすると乙山発言は、意見ないし論評としての域を逸脱するものであったということまではできず、乙山発言は違法性を欠くものと認められる。したがって、被告乙山には原告に対する不法行為は成立しないと認めるのが相当である。

さて、なかなか長くて分かりにくい表現ですが、ここは単純に言うと「原告を犯罪者と言っている(人身攻撃)のではなく、生体腎移植の医学的な評価として言及したものである。よって不法行為ではない。」という事です。
ここでのポイントは、

  • 人を犯罪者と呼ぶことは、名誉毀損に相当する。
  • しかし、本件行為は、個人の犯罪性に言及したものではなく、手術の医学的妥当性に言及したものと認識された。そのような場合には、違法行為ではない。
  • なお、事実であり、公益にあたると認められる場合、違法性を棄却される。

(公共の利害に関する場合の特例)
第230条の2
前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

http://ja.wikibooks.org/wiki/%E5%88%91%E6%B3%95%E7%AC%AC230%E6%9D%A1%E3%81%AE2

ということになります。


いかがでしたでしょうか。名誉毀損という罪と、それがどういう形で認められ、その違法性が棄却されるか、理解できたでしょうか。本日は乙山発言にとどめ、他の発言についての解説や、細かな補足は後日とします。
以下に、関連リンクを置いておきます。参考としてください。

関連リンク
『個人に対して、犯罪であると言ってしまうこと自体は違法です。 - luckdragon2009 - 日々のスケッチブック』
『名誉毀損の成立要素を、判例から考える。 (生体腎移植に関する、損害賠償請求事件) 前編(事案の概要) - luckdragon2009 - 日々のスケッチブック』
『刑法第230条 - Wikibooks』
『刑法第230条の2 - Wikibooks』

『病気腎移植 万波氏 学会幹部ら提訴 松山地裁 「批判発言は名誉棄損」 | 宇和島 腎移植 | 愛媛新聞ONLINE』
『2009-03-13』
『http://sankei.jp.msn.com/life/news/110629/trd11062919230014-n1.htm』

*1:互いが事実と主張する内容

*2:過去に刑事事件にも発展した薬害問題など

*3:新聞記事にも出てきた、原告の主張。