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名誉毀損の成立要素を、判例から考える。 (生体腎移植に関する、損害賠償請求事件) 前編(事案の概要)

『個人に対して、犯罪であると言ってしまうこと自体は違法です。 - luckdragon2009 - 日々のスケッチブック』の続きです。
実際の判決文から、裁判での問題の取り扱い方、そして実際の判断がどうなったか、を捉えたいかと思います。例によってテキストは「判例タイムズ 2012/08/01 1372」ですので、全文を参考にされたい方は書籍を参考にしてください。
なお、判決文自体に著作権は無い*1のですが、雑誌社が雑誌にレイアウトしたりする部分での編集行為は発生しているので、雑誌をスキャンした画像を掲載するのは、出版社が問題にする場合*2があります。
このため、基本的に画像の掲載も見送りました。OCR のスキャンも、認識率がいまいちなので、もっぱら手打ちですが、まあ、お付き合いください。
さて、元々の事件については細かく触れませんので、詳細はみなさんがご確認ください。
新聞記事は消えているものも多かった*3が、『病気腎移植 万波氏 学会幹部ら提訴 松山地裁 「批判発言は名誉棄損」 | 宇和島 腎移植 | 愛媛新聞ONLINE』などがあります。なお、後々重要になってくるので、提訴先の医師の主張を記事から。

被告の1人は「学会の責任として、病気腎移植の医学的判断をして説明しただけで、万波氏の人格を傷つけることを言ったつもりはない」と話した。

http://www.ehime-np.co.jp/rensai/zokibaibai/ren101200910293148.html


さて、本件は告訴中であり、判決は確定していません。
今回取り上げるのは、「松山地裁、平成23年6月29日判決*4」という、地方裁判所で出た判決です。原告の損害賠償請求を棄却しています。
この場合、判決としては「請求棄却」とされるのですが、控訴されたため、「請求棄却・控訴」となっています。
判決文を参照する場合には、このように判決が確定していないものもあるので、注意が必要です。高裁で判断が変化することもあるからです。...ただ、現時点での判断としては参考になり、特に判決理由がどうなっているか、を知ることで、類似事件の判断が可能になります。
さて。まずは判決文の文構成について触れていきます。
文を、ざっとさらうと、項目としては「主文」「事実及び理由」となっていて、それぞれ判決内容、それについての細かな説明となっています。
主文のところには「原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。」となっていて、この判決が原告の請求を完全に否定したものになっている事を示しています。気の短い人は、最初に述べられるここを読めば、判断の大勢は分かるようになっています。
...以降の「事実及び理由」、ここが長いです。
まずは損害賠償請求事件なので、請求の内容が書かれます。次に事件の事実関係が書かれます。...ただし、ここで述べられる「事実」とは、本当に起きたこと、という意味合いではなく「裁判で事実として認定されたこと」です。
実は、ここの部分、非常に重要でして、よくある誤解に、裁判の当事者が語ったり、会話とかで言われる「裁判に提訴して事実を明らかにする」という話があります。
実際には、「裁判で事実を明らかにする」というのは言葉どおりの意味ではありません。これは、裁判の当事者の主張でして、「私が思っている内容*5を相手に認めさせる」という意味だ、と捉えた方が理解が早いと思います。
ここから始まる記載は、各自が提出した証拠とされるものから導き出された内容です。また、争いがない、とされるもの、相互で議論や判断を行わないとされたものについては、特に何もしないので、実際に起きたことと多少違っていても、それを訂正していない、ということもありえます*6。
刑事事件では、ここに検察提出資料などが入りますが、何れにせよ、互いに争う関係者が提出した証拠であり、裁判所が正確な判断をするために専門家を呼ぶ場合もありますが、結局のところ利害関係人が互いに持ち寄った資料ですから、真に客観的な証拠というわけでもない*7のです。
その証拠を元に判断を行うわけですから、真の意味での「事実を明らかにする」ということではないのです。
もう一度、この言葉を言い換えますが、言い換えれば「互いの当事者が持ち寄った事実と主張するものを、裁判所が判断して出てきたもの」で、つまりは「互いの持ち寄った事実で、判断が勝ったもの」という事になります。
ですので、時々、私が意見を言っているので、下記に記載しておきますが。

一応念押し。裁判は争点を裁定する場であり、事実の立証は結果であって、厳密には目的ではありません。 裁判を誤解されぬように。

http://togetter.com/li/396845

...ということなのです。


ひとまず、午前中はここまで。午後は内容に触れたいかと思います。

*1:故に裁判所が公開している文章を、全文引用することは合法。

*2:著作権の権利に関しては、申告罪のため、関係者の判決であるとか、判断基準は出版社にあると思います。また、当然ながら、出版社に許可を貰っている場合には問題は発生しません。

*3:NATROM さんが『2009-03-13』でも触れていますので、そちらでも読めます。

*4:松山地裁 平21(ワ)第738号

*5:事実とするためには、証拠が必要ですが。

*6:議論や、証拠検証などをしていない。裁判では、争点以外について、必要がなければ特に何もしない。

*7:相互の利害関係者の主張バイアスが相克している場合、違った第三者的な視点からの事実発見を逃すことがある。ここでは、そういう意味で、客観的ではない、と言っています。  裁判では弁論主義で、論理の構成は論理的になりますが、それを構成する事実情報に歪みが生じると、正しい結論が出せないことがあります。  俗に言うと、「出発点を間違える」問題です。