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肥料も農薬も与えないで育つ「仙人のすもも」の話

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Byほんたべ

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仙人の後ろ姿。畑は草ぼうぼう。「草はさあ、若いうちに刈り取るより
大きくしてから倒した方が炭素の供給になるじゃんね」と前に言われた時は、
何の事だかさっぱりわからなかった私。今なら立派に理屈を答えられます。

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「味はさあ、前、肥料入れてた時の方が甘かったような気がするね。
糖度は高かったと思うなあ」と古郡さんは言う。肥料が入らんとおいしくならんと。
うーん、そうかなあ。いつも夢のようにどのすもももおいしいけど。



山梨に行って仙人のすももを収穫してきた。
仙人とは、大地を守る会の産地担当が、山梨県のすもも農家、古郡正さんにつけたあだ名だ。

なぜ仙人かというと、住んでる家、その風体や、基本的に自給自足という生活スタイルもあるが、
産地担当とする話が、まるで禅問答のようで非常にむずかしいからだ。
産地担当になった当時は「すんません。フツーに話してください」とか思っていたが、なぜか
退社してからもおつきあいは続き、なんと20年近くもわたくしは仙人の家と畑に通っている。

今年も古郡さんのすももは、肥料も農薬も与えず、粛々と育っていた。
無肥料・無農薬で栽培することを一般的に「自然栽培」とか「自然農法」とか言うが、
わたくしは古郡さんの栽培スタイルをその言葉でくくりたくないと最近強く思うようになった。

「自然ナントカ」というイメージ先行の言葉で、彼のすももは表現できない、
というか、したくない。
彼のすももはわたくしにとって、唯一無二のものだからだ。

さて、この全く肥料分を与えていない、剪定すらされていないすももは、
下草の炭素分と雨によるチッソ分の天然供給だけで大きくなっているらしい。
夏に行くと毛虫はいるし、病気の果実があちこちにあるし、
フツーのすもも畑では、絶対に見られない光景だ。

「剪定ってのは施肥だからね」と古郡さんは言う。

剪定が施肥だという彼の言葉をそのときは理解してなかったが、今はわかる。
剪定をすると木の生理が変わるのだ。

切り上げ剪定という道法正徳さんが指導している技術がある。
これは、無肥料の果樹栽培の技術の一つだが、剪定をして上向きの枝を伸ばすことで
優位になるホルモンを利用し、剪定によって施肥をしなくていい状況を作り出す技術とも言える。

が、剪定をしない古郡さんのすももは「そこにあるもの」だけで大きくなる。
外部から施肥も、木をいじることで生まれるよぶんな肥料分もなく、
おひさまと雨、土のなかのなにかの力だけで大きくなっている。

一般的な果樹栽培を知っている人間には、それはとてもむずかしいことのように思える。

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すももにも桃にも感染する灰星病。こんなふうに畑で見ることはまずないが、
古郡さんの畑にはけっこうあちこちで見ることができる。慣行栽培では灰星病防除で
4回ほど殺菌剤をまく。菌は樹皮などで越冬し、春先に花から果実に移行、梅雨でぐわっと広がる。
菌の総体数が減らないといつまでも出続ける。



すももの木はボロボロで、中には枯れるものもある。
20年前は大きな木がそこにあったはずなのに知らない間に無くなっていたり、
生き残っている唯一の枝から収穫ができていたりする。

灰星菌でぽつんぽつんと穴があいた葉は小さいが、厚みがあってしっかりしている。
葉は大きさではなく厚みで機能が変わる。
古郡さんのすももの葉は、効率よく光合成をしているのだろう。

剪定をしない&肥料分がないせいで、新しい枝がびゅうっと伸びることもなく、
木自体が全体的にこぢんまりと生育している。
新しく植えた木はのんびりじっくりと大きくなり、10年以上経つのにまだ5年くらいの大きさしかない。

遠くから見ても青々とした他のすもも畑と葉っぱや木の様子が違うことがわかる。

奇跡のリンゴの木村さんのように、チッソ分供給の大豆などは植えてないから、
すももたちは本当に「そこにあるナニカ」で毎年実をならせている。
これこそ「奇跡」ではあるまいか、とわたくしは思う。

古郡さんのすももには、農薬をやめてしばらくの間、カイガラムシが果実についていた。
カイガラムシがあんまりついてるのは出荷しないで、と当初よく連絡したものだった。
しかし、ある年から急に少なくなり、最近ではほとんどつかなくなったらしい。

「生態系が安定したのかもね」と古郡さんは言う。

カイガラムシと違って灰星病は根絶できないが、相変わらず農薬はまかない。
なぜそうするのか、産地担当になったころよく話した。
「あるがままが大事だから」と、古郡さんは毎回言った。

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一般栽培のすももの木。葉っぱが大きくてだらっとしてるのは、
チッソがまだ効いてるせい。肥料をちゃんとやってるから枝も太くて元気がいい。

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古郡さんちのすももの枝は細く、木自体がこぢんまりしている。
葉がV字型になってるのはチッソが切れて炭水化物が果実に移行している証拠と栄養周期の人は言う。
ということは、甘くておいしいすももになってるってことでもある。

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植えたときから肥料ゼロ・農薬ゼロ・剪定なしで大きくなった10年生の木。
10年もするともっともっと大きくなるのに、肥料がないからとても小さい。
ここまで大きくなれなかった木は全部コスカシバという害虫が入って枯れた。
この畑にあるものだけで大きくなったということが奇跡のよう。



一般的な果樹栽培では、年に数回肥料を与え、余った肥料分が徒長枝という形で初夏にびゅっと出てくる。
徒長枝の分、肥料が余分なんじゃないかと皆言うが、無肥料にする人はあんまりいない。
毎年徒長枝が出て、それを切り、肥料を入れる。この繰り返しだ。

それはおおいなるムダのように思えるが、収量を上げ、収入を得るためには必要なことだ。
しかし、肥料分が多いと、果樹は生理上、果実の味が必ず悪くなる。

慣行栽培ではいまだに化学肥料を使っていて、水っぽい大玉のすももがたくさんなる。
スーパーで買うすももの味がいまいちなのは、若いうちに収穫するということもあるが、
肥料が多すぎて味が薄い、ということもある。

しかしそういう栽培=安定的な収入なのだからしょうがない。
病気や虫は防除して、換金できる作物をつくる。あたりまえのことだ。

また、粗放栽培で結果的に「自然栽培」などと言っている人もいるが、
古郡さんに技術がないわけでない。

「栄養周期」という栽培技術を駆使し、「高品質・多収」を実現していた過去があり、
しかし、今はそれをあえて使わず、何が起こってもただ見ているだけなのだ。
そんなことができる人を、古郡さん以外にわたくしは知らない。

だからこそ、古郡さんは「仙人」と呼ばれる。

古郡さんのすももの木は、毎年こぢんまりとした小さな実をつける。

おいしいすももにするために、古郡さんはそれを摘果する。
灰星にもふくろみ病にもかからず、シンクイムシも入らず、
無事に生育できたものだけが、大地を守る会に出荷され、消費者の口に入る。

産地担当をしてた頃、この事実を見てはいたが理解していなかった。
少しずつ知識が増え、古郡さんの言ってることがわかるようになり、
今では、「ああ、すごいなあ」と思う。ただ、「すごいなあ」と。
すももの木が、そこにあるものだけでならせた果実。唯一無二のもの。

そして思う。
「自然栽培」とか「自然農法」とか言ってるけど、「自然」ってのはこういうことではないか。
「自ずと然らしめる」=「自然」なのだから。

すももの木が自分とおひさまと雨の力で実をならせる。
そしてわたくしはそれを食べる。

わたくしは、古郡さんのすももと一緒に自然の力をいただいているのだ。



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Comments 2

下川 勝  

No title

こんにちは。

罹患してもその病気が全体へと広がらないことに驚きます。
圃場の環境がそのように均衡をとるのでしょう。

カイガラムシ居なくなりますか・・・・

現在ナシマルカイガラムシの発生で、りんごの実の8割程度に赤班がでたまま5年経過です。
今年も同様です。

古木の主枝、亜主枝、結果枝、徒長枝の罹患も増え始め、園の主力である古木はあと
5年もちません。
古木は切り上げて延命しましたが・・・
苗木を植えて道法スタイルにしてますが、成長は早いとしても、ナシマルカイガラムシの
影響による赤班が樹皮表面に見られます。
これが悪化していくようですと、JAS化から無散布目指して5年、さらにここから5年で
収穫できる樹が存在しない事態もあり得ます。

グラニースミスは罹患していないので、現代品種は弱いのだろうと思われます。

1反歩、喬木20本 収穫量1.6t ~ 2t が基準として、JASでも自然栽培でも
少なくともその半分 1tの良品を安定収量としたいところです。
業として採算をとるならば。

無施肥では、苗木はなかなか成長が進みませんね。
病気・虫により淘汰もされますから、生き残る歩留まりは低下します。
生き残るものは当然強い性質で環境に適応している・・・という訳ですね。

2019/07/17 (Wed) 14:44 | EDIT | REPLY |   

ほんたべ  

Re: No title

下川さん、コメントありがとうございます。

>
> 罹患してもその病気が全体へと広がらないことに驚きます。
> 圃場の環境がそのように均衡をとるのでしょう。

そうなんじゃないかと思います。

>
> カイガラムシ居なくなりますか・・・・
>
> 現在ナシマルカイガラムシの発生で、りんごの実の8割程度に赤班がでたまま5年経過です。
> 今年も同様です。


りんごのように果実が長いこと木についてるものの無農薬・無施肥栽培は非常にむずかしいのではと思っています。
すももだからこそ、可能なんじゃないかと思います。

>
> グラニースミスは罹患していないので、現代品種は弱いのだろうと思われます。


グラニースミスは摘果もあんまりしなくていいし、大玉にするとかえってよくないし、
糖度を乗せる必要もないので、そういった栽培に向いてるかもしれませんね。
同じ酸味が強い品種でも、紅玉は病気に弱いし、性質があるのかも。


>
> 1反歩、喬木20本 収穫量1.6t ~ 2t が基準として、JASでも自然栽培でも
> 少なくともその半分 1tの良品を安定収量としたいところです。
> 業として採算をとるならば。
>


がんばってください。としか言えません。
食べていくには一定程度の収量が必要だと思います。
落葉果樹類で、とくにりんごで、無農薬・無施肥はむずかしいと思っています。

安曇野で木村さんにあこがれていきなり無農薬栽培をはじめて、
木が全部枯れちゃった畑を見たことがあります。
悲しいことだと思います。


> 無施肥では、苗木はなかなか成長が進みませんね。
> 病気・虫により淘汰もされますから、生き残る歩留まりは低下します。
> 生き残るものは当然強い性質で環境に適応している・・・という訳ですね。


無農薬ではコスカシバ・カミキリなどがバンバン入ります。
巨峰もこのようにつくってらっしゃいましたが、カミキリで全部枯れたそうです。

自分自身は、苗木は農薬をちゃんとまいて健全に成長させたほうがいいと思います。

実生で育ったものがこじんまりと健全に育っているのはすばらしいことですが、
誰でもできることじゃないよなーと思うわけで、だから「仙人」なんだと思います。

2019/07/20 (Sat) 15:25 | EDIT | REPLY |   

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