◆ダメだったところ(ストーリー関連)基本的に仮面ライダーセイバーのストーリーは、
面白い・面白くない以前に理解に苦しむ点が多すぎて、話に全くついていけませんでした。
この項目では、ストーリーを構成する4本の大きな柱に着目して掘り下げ、何がどう問題だったのかを掘り下げていきます。
◇全知全能の書本作における黒幕の皆さんは、往々にして
「全知全能の書」と呼ばれる本を狙っており、
その本に宿った大いなる力を使って、私利私欲の目的を達成しようと企んでいました。
この全知全能の書がストーリーにおける最重要アイテムであることに疑いはないでしょう。
ですがこの全知全能の書、話の中心にあるわりには明かされた設定がどれも曖昧なものばかりで、
結局概要が何一つ具体化されないまま話が進んでしまいました。
作中で明かされた設定を列挙していくと下記の通りになります。
・読んだら大いなる力が手に入るらしい
・目次録と呼ばれるページ(要するに目次)があり、そこに大いなる力が宿ってるらしい
・第一発見者たちによって一部のページを破かれた
・悪用されないために、残ったページをバラバラにした。バラバラになったページは後にワンダーライドブックになった
・さらに悪用されないために残ったページを3分割して別々の場所で保管した(バラバラになったんじゃないのかよ)
・全知全能の書を復活させるには、全てのワンダーライドブックと覚醒した聖剣と世界をつなぐ存在が必要らしい
・一応模造品のアルターライドブックでも復活可能らしい
・肝心の内容については、世界の始まりから終焉に至るまでの全てが書かれている(所謂アカシックレコード)以上です。皆様、上記を読んで全知全能の書の全貌が掴めましたでしょうか? 私には理解できませんでした。
手にすれば大いなる力を入手できると一言にいっても、完全復活した本を読めばいいのか、
それとも目次録と呼ばれるページだけ入手すればいいのかハッキリしていません。
劇中でも両者の存在を混合していると思しき描写がいくつも散見されました。
ついでに完全復活させるには、原本ではなくなぜか模造品でもOKというルールが存在するのは謎でしかありません。
では実際に全知全能の書を手にして読破した人物はいるのかと聞かれれば、少なくとも最低2人は確実に存在します。
1人目は最初に全知全能の書を手にしたビクトール、もう1人がその本の内容を本編で明かしたストリウスです。
読破してるなら大いなる力を手に入れて最強の存在へと進化しているはずだな! と言いたいところなのですが、
前者はストリウスの手によってアッサリ死亡し、後者も最終的には仮面ライダー達によって倒されています。
ついでに言うと、彼らが入手したであろう大いなる力の概要もハッキリ明かされていません。
力を手に入れる方法も不明瞭だし、その大いなる力とやらが何を指しているのかも分からない。
ここまでくると、
「全知全能の書を手にすれば大いなる力が手に入る」という根幹設定ですら眉唾物になってしまいます。
その力を求めて多くの人間やメギド達が戦いに明け暮れた歴史があったというのに、
根底の部分に疑問が湧いてしまうのは最早ストーリーの崩壊とかそういうレベルではないと思いました。
◇ワンダーワールド本作の敵勢力であるメギドは、ワンダーワールドを支配するために怪物たちを動かし、侵略行為を働いていました。
そんなことをしてまで手に入れたいワンダーワールドとは一体どのような世界だったのか?
作中で明かされた設定というか事実を列挙すると下記の通りになります。
・ワンダーワールドとは全知全能の書によって生み出された異世界
・知識の源から創造された以上、現実世界にない空想の生物や、不可思議現象が発生している
・直接訪れる方法は不明。そもそも主要キャラクターの殆どが行ったことない
・メギドの力によって一部のワンダーワールドが現実世界に出現し、そこでメギドが破壊活動をすることで浸食が始まる
・ワンダーワールドが崩壊すると現実世界と融合して一緒に崩壊する以上です。皆様、今度こそ納得していただけましたでしょうか? 私にはやっぱり全然分かりません。
訪れる方法の分からない場所を侵略して何になるのかとか、何で浸食すると現実世界も巻き添え食らうんだとか色々言いたいことはありますが、
結局ここまで事実を列挙しても、
メギド側がワンダーワールドを手に入れるメリットらしきものが見当たらないんですよね。
強引に解釈するなら
「全知全能の書の力が宿る場所を抑えておきたい」とも考えられますが、
それなら力の根源である全知全能の書を狙う方が筋だと思います。
…というか、実際に2クール目以降からはそっち方面で舵を切り直していました。
するとワンダーワールドの侵略とは一体何のことだったのでしょうね?
その後、ストーリーの終盤にて黒幕であるストリウスが再びワンダーワールドを崩壊させていましたが、
そこで必要だったのは
「ワンダーワールド崩壊による現実世界の浸食」というギミックのみで、
ワンダーワールドそのものの特異性については殆ど触れられないまま話が終わってしまいました。
全知全能の書から生み出された世界なのであれば、あの世界にいればどんな知見が得られたのか?
その世界があることによって、現実世界にどう作用していたのか? 肝心な部分は一切分からないままでした。
◇世界をつなぐ存在劇中で「世界をつなぐ存在」として説明された人物は、下記の3人がいます。
・全知全能の書を作り出したと言われている「巫女」
・↑を模して作られた、ソードオブロゴスの守護者「ソフィア」
・かつて飛羽真や賢人と関わりのあった少女「ルナ」実際にストーリー上で明確なキーマンとなったのは、3人目のルナのみです。
一体彼女はどのような存在だったのか?これも劇中で明かされた事実をピックアップしてみると…
・現実世界とワンダーワールドを繋ぐ力を持つ
・全知全能の書を作るのに必要以上。めぼしい説明はそれくらいです。
劇中で全知全能の書を作り出すために利用されていたのは確かですが、それ以外に役割らしい役割がなく、
ひたすら行方をくらましては唐突に現れ
「飛羽真に会いたい」という個人的願望を呟くだけの、
ストーリーのテンポを阻害するお邪魔虫的な存在となり果ててしまいました。
なお飛羽真に会って具体的に何をしたいのかは詳しく明かされませんでした。なのでますます邪魔者としての側面が目立つようになりました。
そんな彼女を飛羽真は必死に守り抜こうとするのですが、
そもそも彼女を失ったところで大局的にどんな悪影響が出るのか全く触れられないまま話が進んでしまったので、
結果的に彼女の存在はストーリーの大枠に絡んでいるようで全く絡んでおらず、
飛羽真の個人的なエゴを強調させるための矮小な存在に落ち着いているように見えました。
ちなみにソフィアの
「巫女を模して作られた設定」については、
本編で全く生かされないまま話が終わったので完全に無駄設定でした。
(一度ルナの身代わりになろうとしていたが、弾き返されただけ。)
◇聖剣仮面ライダーたちが使っている武器のことです。
これも本編で明かされた事実を挙げてみると…
・全知全能の書を巡る戦いに対抗するために作り出された剣
(要は人工品であり、剣自体は全知全能の書と直接関係があるわけではない)
・最初期に光の剣(光剛剣最光)と闇の剣(闇黒剣月闇)が生まれ、その後の聖剣のベースとなった
・全知全能の書復活には11本の聖剣が必要
・聖剣を使うには、聖剣に選ばれる資格が必要
・伝承があり、11本全ての剣の力を結集すると超強い聖剣(刃王剣十聖刃)が生まれる上記のように、出自そのものが全知全能の書と直接関わりのない人工品のくせに、
何故か全知全能の書復活に必要だったり、一丁前に使い手を選ぶ設定があったりと、
よくあるファンタジー系の魔法アイテムとしては設定があやふやで地に足が着いていない印象を受けました。
なお聖剣が使い手を選ぶと言っても、恐らくは正式な手続きを踏まずに借りパクして聖剣を使っていたシーンもあったので、
実質機能していない死に設定だと思われます。月闇とかどれだけ使い手が変わってきたんですかね…
個人的には、聖剣に伝承があることが謎でしかないです。
伝承を伝えたのは、火炎剣烈火を作り出した大秦寺一族だそうなのですが、
そもそも彼らは最初期に生まれた二振りの剣をベースに別の剣を作った、ただの
二次創作者でしかないので、
その二振りの剣もカウントに含めた伝承なんて作りようがないと思います。
というか、伝承として伝わっている以上、誰かしら刃王剣十聖刃を生み出したことに他ならないのですが、
それに関して劇中で誰も触れなかったのは何故なのでしょう? まさか伝承やらは全てあてずっぽうだったのでしょうか。
そんなことを考え付くぐらいには設定が不安定すぎると思いました。
結局のところ、上記の4大要素は
「概要が分からない」か
「分かったら分かったでどうでもいい」の2種類に分かれることをご理解いただけたでしょうか。
ストーリーを構成する要素がこんな有様なので、実際にテレビで放映された内容がどんなものだったはお察しください。
◆ダメだったところ(キャラクター関連)本作は総勢10人以上もの仮面ライダーが登場し、
それらを取り巻くキャラクター達もそれ相応に登場する、比較的大所帯な作品だったのですが、
いずれのキャラクターも表面的な設定を軽くさらうばかりで、人格面や人物像にまともな印象を抱けませんでした。
主人公である神山飛羽真は
「剣豪にして文豪」というキャッチフレーズが備わっていましたが、
まず本業であるはずの
「文豪」要素の描写が壊滅的でした。
一応、1話目から最終話まで小説家としての仕事はこなしていたらしいのですが、
その働きぶりや小説の内容に関しては本編で全く触れられず、
「いつの間にか書き終えていた」という結果ばかりちょろっと明かされるだけでした。
小説家設定は実質機能していなかったと見て間違いありません。
精々プリミティブドラゴンに対して、
「君の友達は風とか水」というレベルの慰めを語りかけたぐらいです。
では正義の
「剣豪」としての活躍は安定していたのかと聞かれますと、これもダメでした。
これは飛羽真に限らず仮面ライダー達全般に言えることなのですが、
序盤こそコンスタントにメギドと競り合っていたものの、1クールも経てば剣士同士の内輪揉めが勃発し、
メギドとの戦いが二の次になってしまう局面が次第に目立つようになってしまいました。
飛羽真自身の方針も、
「世界を守る」というよりは
「幼馴染のルナと再会するために戦う」という方向にシフトしてしまい、
「物語の結末は俺が決める」という決め台詞を振りかざして我を通すような描写も散見されました。
そんなのバイアスかかった見方だろ! と思う方もいるかもしれませんが、
実際に東映公式サイトの後書きで、
「主人公は“世界を守る”ためじゃなく、失った幼馴染みを取り戻すために戦う。」と
ハッキリ明輝されてしまっているので、飛羽真が個人的な願望を優先して戦っていたことは公式公認になってしまいました。
たとえ私利私欲のためでも、その理由に筋が通っていればまだ良かったのですが、
飛羽真の口から出ることは一貫して
「15年前遊んだ仲だから」「必ず助ける約束をしたから」という、
本編の外で起こった事実を一切掘り下げることなく繰り返すばかりで、それほどまでにルナに執着する理由が理解できませんでした。
それでも
「15年間も大切な人のことを考えていたなんてステキ!」という同乗の逃げ道があったかもしれませんが、
実際は
本編が開始して少し経つまでルナのことを忘れていたのでその逃げ道すら封鎖されてしまいました。
上記のように、
「文豪」としての根っこの人間性も、
「剣豪」としてのヒロイックさも
どれも中途半端でまともに描かれることはなく、大筋のストーリーの意味不明さも相まって、
彼の人間性には全く感情移入することができませんでした。
他のキャラクターたちも同様です。いちいち挙げていったらキリがないので箇条書きにします。
黄色字で書かれている部分は初期設定、
→赤字は本編で実際に描かれた内容について記述しています。
・新堂倫太郎:組織の中で生まれ育った経験か、組織を家族同然の存在だと思っている。一方組織の外のことには疎い一面もある。 →「組織は僕にとっての家族」という台詞を連呼するだけで、具体的に組織のどの部分に愛着を持っているのかは不明。
世間知らず設定に関してはいつの間にかユーリに吸収された。 ・富加宮賢人:飛羽真の幼少期の友達で、同じくルナと関わりがあった。
組織を裏切った父親には憎悪とも愛情とも言えない感情を抱いている。 →中盤で月闇の使い手となり、聖剣封印botと化すが、イマイチ積極性があるのかないのか分からない行動を繰り返す。
最終的に父親(彼が迷行動に走った発端)に説得されるという謎展開で改心する。
ちなみにルナと係わりがあったわりに、ルナ自身から賢人のことについて言及する機会は皆無。 ・尾上亮:「子育て王」と銘打って初登場。 →実際は戦闘区域に子供を連れだす危険な親。実際に子供を養育する描写は皆無。
なお初登場後すぐに子育て設定は空気になり、ただの床ゴロ要員と化した。 ・大秦寺哲雄:人見知りだが戦闘になるとキャラが180度変わる。喧嘩が嫌い。 →全部最終的に空気設定となり、ただの床ゴロ要員と化した。
・緋道蓮:強さこそが正義と信じて疑わない若輩剣士。 →なぜ強くなりたいのか、強くなってどうするかは全く明かされない。 ・神代玲花:組織とマスターロゴスの使命を第一に考える忠誠心の高い剣士。 →組織なんて知るか! あたしゃ最初からお兄様一筋だよ!
心境の変化についての具体的な描写はない、というか完全に黒歴史と化してる。 ・神代凌牙:組織とマスターロゴスの使命を第一に考える忠誠心の高い剣士。 →組織なんて知るか! 俺は最初から妹一筋だよ!
心境の変化についての具体的な描写はない、やっぱり完全に黒歴史と化してる。ご覧のように、大体のキャラクターが初期設定を無碍にされるか、一切掘り下げがなされないまま話が進むかのどちらかで、
感情移入に足りるキャラクターには仕上がっていなかったと思います。
唯一賢人は異なる陣営を渡り歩き、心境の変化についても一応の説明があったことから、キャラクターとして見ごたえがあったと言えます。
迷行動についてはフォローしきれませんが。
◆ダメだったところ(アクション)基本的にどのキャラクターも、右手に持った剣をぶんぶん振り回すか、
CGエフェクトを飛ばすことに終始していて、アクションそのものはわりとすぐに飽きました。
唯一小柄な体格とすばしっこさを活かした剣斬のアクションは他のライダーと一線を画していましたが、
そもそも戦う機会が殆どなかったことは本編を視聴した皆様が知っての通りです。
アクションを取り巻くアイテムの使い方も微妙でした。
序盤こそソードライバーに3冊本が挿せることを活かしたフォームチェンジギミックを多用していましたが、
ドラゴニックナイトが現れた以後は、でっかい本をベルトに1冊だけ挿すだけに簡素のギミックへと変化し、フォームの多様性は見られなくなってしまいました。
新たに登場するライダー達も、ベルトか武器に本を1冊はめ込むだけの簡素なギミックに終始しており、
「もうぶっちゃけライドブックいらなくない?」と感じるような場面も多々ありました。
せっかく数あるアイテムが用意されたのに、本編でちっとも使わないのは販促的にもマズいんじゃないかと思いました。
近年の仮面ライダーはアイテムの持て余しが本当に顕著ですね。
◆まとめ記事を書くために公式サイトや本部動画を何度か見返したりしましたが、
改めて本作が製作スタッフ達による「独り善がり」な作品にまとまっているように思いました。
「【みんなが楽しめる仮面ライダー作品】を作る自分達」に酔っている」とも言いますか。
・幼馴染の少女を守って戦う主人公
・己の信念をぶつけあって戦う剣士たち
・味方だと思っていた組織に実は黒幕が存在していたいずれも映えそうな展開ではありますが、全体的に
「この展開をやりたい!」という思いが独り歩きしすぎるあまり、
その展開に行き着くまでの流れについては自分たちの頭の中で勝手に納得してしまって、
客観的に見た際の違和感について全く気付いていなかったのだと思いました。
この記事で上げてきた問題点に関しても、スタッフからすればそんなものは存在しないのだと思いますよ。
全部当人の頭の中で完結してしまっているのですから。きっと疑問を聞いても
「何で分からないの?」って言い返されるでしょうね。
あくまでも「当人の頭の中」という水準なので、客観的に理解できるレベルではないと思いますが。
テレビの仕事やめちまえ。
過去に同じ製作スタッフが集まった『仮面ライダーゴースト』も相当に酷いクオリティだったと思っていますが、
今作に関しては最早プロの仕事とも思えません。
次回作からは、とりあえず
「分かるように説明された」作品が出てくることを望みます。
最低限、面白さとつまらなさを分解して考えられるような作品であってください…