◆ストーリーについて◇グダグダなストーリービルドのストーリー。一言で言ってしまえば
グダグタの極地です。
前作エグゼイドもキャラクターがベストを尽くそうとせずストーリーが停滞してしまったことがありましたが、ビルドは更に悪化してます。
全編に渡って、という意味ではないですが少なくとも終盤の話の進まなさは尋常ではありませんでした。
14話くらいまでは戦兎たちにも
「戦兎の正体を探る」「龍我の冤罪を晴らす」といった目的があったため、
そこそこハイテンポに話が進んでいましたが、それ以降(主に三国戦争が始まってから)は右肩下がりでテンポが落ちていたと思います。
三国戦争をやってる時の戦兎たちは、いわば指示待ち状態であり、自分から事態解決に動こうとする姿勢があまり感じられませんでした。
ストーリーが進むのは、代表戦が設けられたり、スタークが何らかの情報を流してくれたりと、ひたすら相手側の動きによるものばかりでした。
あまつさえ戦兎たちは
「戦争はスタークが裏で手を引いている」という真実を知る数少ない派閥だというのに、殆ど気にする素振りを見せませんでした。
気にしないだけならだしも、
「分からないことがあるからアイツに聞いてみるか」というノリで連絡をとろうとする姿勢は正直トチ狂ってます。
「北都にいる人質を助けに行こう」という人道的な目的を掲げられても、
「侵略はNGなので」という正論を振りかざして梃子でも自分から動こうとしない姿勢にも呆れました。
一応、侵略云々に関しては本人も
「このままではいけない」と自覚はしていたらしいので、具体的な解決方法が明かされるのを待っていましたが、
その解決方法も
「自分は東都のライダーをやめたので他国侵略にはなりません!」という酷い詭弁というか屁理屈を主張するだけという有様でした。
上記のシーンはマジメに「スタッフは我々視聴者を馬鹿にしているのだろうか」と疑いの眼差しで見ていました。
リアル路線を突っ切りながら、肝心な部分をノリで解決する姿勢はどうかと思います。
三国戦争が終わり、エボルトがいよいよ本格的に活動し始めた際はさすがの戦兎たちも事態解決のために動き始めていましたが、
今度は逆に敵側が全然ストーリーを進めてくれないのでグダグダ進行は変わりませんでした。
散々
「パンドラボックスを開けて地球を滅亡させる!」と豪語していたエボルトは、
実はエボルトリガーがなきゃ目的が達成されないだの、気が変わったから地球滅亡はやめてやるだの、新しい目的達成には新しいボトルが必要になっただの、
自身の最初の目標である
「地球滅亡」に王手がかかった段階で妙にその目的達成を遅らせるような素振りを見せ始めたので、やっぱりウンザリしました。
それで戦兎たちヒーロー側が逆転のチャンスを掴んだり、エボルトに一矢報いたりするシーンが描写されれば良かったのですが、
大体戦兎たちはエボルトにボコボコにされてばかりで、ようやく少しは抵抗できたかと思えば「これも計画通り」と言わんばかりの態度をエボルトが取り続けていたので、やはり楽しめませんでした。
3クール目後半から最終回までは、こういった
「エボルトのターン」が延々と続いて一向に話が進まなくなってしまったのでかなり退屈でした。
毎週の感想記事を書く際も、
「いつになったら話を進めてくれるの?」という想いでいっぱいでした。
◇矮小化する設定ビルドのストーリーでは、登場直後では重要だと思われていた設定も、話が進むに連れて実はどうでもよくなっていたケースが多かったと思います。
最たる例はパンドラボックスでしょう。
「開かれたら大変なことが起きる!」と散々煽った割には、
開かれても中に入ってた敵専用強化アイテム(しかも使えない)が出てくるだけで、箱そのものは大したことありませんでした。
やがて話が進むにつれ、
「黒いパネルと白いパネル」という箱ではなく何故かパネルの方がキーアイテムと化し始めたので、
箱そのものが危険視されていた時代が凄く昔のことのように感じるな、としみじみ思いました。
他にも
「悪魔の科学者」と称されておきながら実際は父親の研究をなぞっていただけに過ぎなかった葛城巧、
1クール目ではキザなちょいワル親父的な雰囲気を醸し出しつつも、実態はただの傀儡でエボルトに操られていたに過ぎなかった石動惣一、
序盤から登場していた割には何がしたかったのかよくわからず、成果らしい成果も出せていない内海くんなど、
思わせぶりな描写はとことん
「思わせぶり」なだけで終わってしまった印象でした。
創作界隈では
「新事実発覚に伴い、過去の設定の影が薄くなる」ということはよくあるものだと思っていますが、
ビルドの場合明かされる新事実の印象が薄く、また設定同士の点と点の繋がりも弱いので、
結果的に各設定の印象が中途半端に残ったまま話が進んでしまっていたと思います。
(どこかで見た
「ビルドの謎解きは、伏せられていたカードをただ単に表にしただけ」という表現は結構的を得ていると思う)
◇出来の悪いSF設定ストーリーの終盤では
「遺伝子」「平行世界」といったSFチックな設定が飛び出しましたが、
どれも突貫工事の如く作り込みが浅く、都合よく話を進めるだけの存在だったと思います。
「遺伝子」について、作中で与えられた設定は下記の通りです。
・必要な部分だけ他者から奪うことができる
・頑張れば自力で作り出すことができる
・超能力に干渉できる
・その気になれば分裂させられる
・分裂した遺伝子は自由自在に形を変えられるし、喋れるし、戦闘もできるだそうです。
皆様、これが遺伝子です。理科のテストに出るかもしれないので覚えておきましょう。
「平行世界」に関しては46話の感想記事で述べた通りで、実に戦兎にとって都合の良い設定でした。
だったんですけど、最終回で
「実は融合に失敗した場合、2つの平行世界は消滅する」というこれまた都合の良い設定が飛び出す有様でした。
そして結局戦兎や龍我が最終回後のC世界に留まれていた理由も有耶無耶にされたままです。
「物理法則を超えた超常現象」だので纏めてほしくなかったです。
そして本当に恐ろしいのは、これでビルドは
物理学を真っ向から描いてきた作品だとスタッフが公言しているのですから驚きです。
彼らにとって物理学の象徴とは、
「宇宙」や「ワームホール」、「ブラックホール」なんだそうです。
裏を返せば、彼らに
「"物理"ってなんですか?」と聞いたら
「宇宙です!」「ブラックホールです!」って返答されることになります。
私は物理学に疎いので、精々
「"物理"ってなんですか?」と聞かれたら
「ニュートン?」「ジュール?」ぐらいしか答えられません。
ものの考え方は人それぞれとは言いますが、ビルドのスタッフは変わったセンスをしているなぁと感じました。
◆低品質なバトル(章ごとの編成なし)
こっちも大概酷かったです。
ストーリーの影に隠れがちかと思いますが、正直近年のライダー作品の中ではダントツで下位層です。
まず
「ボトルの特性によって強さや戦い方が変わる」という設定がありましたが、
そもそも60本あるボトルの特性をストーリー中ではロクに説明してくれず、
「何を使ってどのように戦うのか」という部分がすっぽり欠けたまま話が進んでいました。
コミックボトルの特性とは? サンタクロースボトルは?? テレビボトルって何すんの??? 結局最後まで明かされずじまいです。
また
「相性の良いボトル同士で変身すればベストマッチフォームという強力な形態に変身できる」という設定もありましたが、
作中では2つのボトルによるシナジーが全く明かされなかったので、
「何故ベストマッチだと強いのか?」という疑問への回答が提示されていませんでした。
ベストマッチフォームですらこの有様だったので、相性が異なるボトル同士で変身するトライアルフォームは何が強みなのかサッパリ分からず、序盤から殆ど息のしていない設定でした。
ストーリーも終盤になると、60本のボトルはパンドラボックスごとエボルト側に奪われて使えなくなってしまいましたが、
良くも悪くも以後の戦闘クオリティが変わり映えなかった辺り、いかにフルボトルの設定が無駄なものであったかよく分かりました。
このように、各アイテムやフォームで
「何がどう強いのか」をキッチリ線引きしてくれないと、視聴者側もバトルを楽しみきれません。
Wやオーズのような多形態へ変身可能な仮面ライダーでは、各フォームの相性や戦い方がきちんと決まっていたので
「あの敵にはこんな攻撃が有効なんじゃないか」「あのアイテム同士を使った戦いが見てみたい」など興味や期待をそそられるものがありましたが、
ビルドではそういった設定が十分に定まっていないので、バトル中の駆け引きなどの楽しむことが全然出来ませんでした。
そして1番酷かったのが、最終フォームであるジーニアスフォームです。
全てのボトルの力を持つ、という触れ込みでありながら実際に使ったのはどこから湧いて出てきたのかもわからない
「ボトル浄化機能」を使ったぐらいで、
ボトルの力なんて殆ど使ってくれませんでした。多分制作側もボトルの特性をよく理解できていなかったので使いようがなかったのかもしれませんが。
せっかくバトルを盛り上げるだけの設定が用意されているのに、どれもこれも活かされず、やったことは終始ただの殴り合い。
これでは面白くなるはずもないです。よくもこんな設定でバトルものを作ろうとしたな、と思いました。
◆武藤将吾氏について今作のシリーズ構成を務めたのは、脚本家の武藤将吾氏でした。
氏は特撮界隈での脚本経験が全くない中、ご家族や前作エグゼイドの影響から仮面ライダーシリーズに興味を示し、
脚本への参加の意思を表したとのことです。
しかしその結果は先述した通り、お世辞にも良いものとは思えませんでした。
一体何故このような仕事ぶりになってしまったのか、私は情報をかき集めてある1つの仮説を立ててみました。
・『電車男』『花ざかりの君たちへ〜イケメン♂パラダイス〜』など元々原作付きのドラマ・映画で評価を得ていた (wikipediaから引用)
・かつて「第5話でやることを第1、2話で見せ切ってしまうのがお前のスタイルだから」と周囲から評価を受けていた (
ここから引用)
・単独脚本についてはエグゼイドに影響を受けて、自分から「やりたい」という意思を出した (宇宙戦vol.161から引用)
・しかしエグセイドの高橋氏ほど速筆ではないため、脚本の納品が遅くなり周囲に迷惑を欠けてしまった (宇宙戦vol.161から引用)
これらの情報を纏めると、恐らく武藤氏は、
元々あるストーリーを要約するスキルに長けている人なんだと思いました。
そういったスキルは、1クールものの連続ドラマや2時間ものの映画など、少ない尺でスピーディにストーリーを描くことが要求される現場で活かされると思います。
確かにそういったスキルは脚本家にとって重要なものだと私は思います。
ですが仮面ライダーのような特撮作品の脚本って、玩具販促のタイミングや反響に応じたキャスト続投の判断など、
どちらかと言えば
適度に間を持たせることが要求される現場なのではないか、と私は思っているのです。
今作のストーリーの進め方を振り返ってみると、1クール目辺りまではかなりハイテンポに進めていたと思いますが、
それ以降はガス欠でも起こしたかのようにストーリーの進展が遅くなり、代表戦だの戦兎の苦悩や挫折だの、似たようなことを延々と繰り返して時間稼ぎをしている印象を受けました。
多分ストーリーに間をもたせようにも、長期的なシナリオ執筆に慣れていないせいで
「間をもたせるスキル」に欠けていたんだと思います。
そんな状況でも単独執筆に拘る姿勢を意地し続けてきたせいか、ストーリーの進行とともにテンポは劣悪化。
コレに関しては武藤氏にOKを出した上位製作スタッフにも非があるとは思いますが、人間いきなり本番で慣れないことをするもんじゃありませんね。
◆総評仮面ライダービルド。
中途半端に続いていたゲストお助けエピソードを完全に廃して連続ドラマに徹し、、
「記憶喪失」「火星に遺されたテクノロジー」など壮大なストーリーの展開が予想された本作でしたが、
箱を開けてみれば、グダグダな進行に何を目指して動いているのかよく分からないキャラクターたち、
やる気の感じられないバトル設定など、
「災い」と言わんばかりの過酷な現実が待ち受けており、
最終的には
「今の東映さんに連続ドラマを作るのは無理」としか言いようがない無慈悲な現実を突きつけられたのでした。
とまあ、駄作認定するだけなら簡単だと思いますが、私にはどうしても腑に落ちないことが1つあるのです。
「ビルド独自の良さ」とは果たして何だろうか? と。
ビルドに良さがない、と言っているのではありません。ここで言っているのはビルド
独自の良さです。
登場人物は(不毛なギャグ描写を除けば)そこまで嫌悪感を示すキャラクターはいないですし、露骨に矛盾した設定などは少なかったと思います。
ただし、そういった要素の評価って大抵
「前作エグゼイドに比べれば」という枕詞がついてしまうんです。単独では評価できてないんですよね。
「60本のフルボトル」「国家間の戦争を描いたストーリー」「地球外生命体との戦い」だの独自要素はあるにはありますが、
全部ガバガバで描ききれておらず、評価点として昇華し切れていない印象でした。
こういった議論や考察を自分の中で進めていくうちに、
「俺にビルド独自の良さを理解することは不可能」という結論に達してしまいました。
きちんと評価点と不満点を整理し切れなかったのはとても残念なことです。次回作ジオウではもう少し整理できたらと思います。
そのためにも、グダグダで進展の薄いストーリーはノーサンキューです。何かしら意欲をもって視聴に臨んでいきたいですね。
ジオウは歴代平成ライダーが総出演するから、懐かしさ有りきで視聴するだけでも意欲が湧くかな?
それではここまで記事を読んでいただいた皆様、そしてビルドを1年間視聴続けた皆様。
改めてお疲れ様でした。

(なんでエボルトに飲まれた月が復活してるんだっけ…?)