ポルシェ911とは、金持ちの下駄であり、カーマニアの憧れであり、安いレースカーである。
356の後継車種として生まれ、リアエンジン、水平対向型6気筒というレイアウトを守り続け、世界中のスポーツカーのベンチマークとして君臨しつづける偉大なるスポーツカーであるが、それを維持し続けているのはポルシェ社の絶え間ない努力があるからということは言うまでも無い。最初に一般の目に触れたのが1963年であるから、2013年でちょうど50周年を迎える。
世の中の大半の人にとってはフェラーリと同じく成功の証であり、一部の金持ちにとっては壊れなくて荷物が適度に入る丁度いい下駄である。また、車に詳しくない人でも「カエルみたいな顔の車」だけである程度意思疎通が図れる便利な車である。
911デビュー前後の自動車事情を振り返ってみる。1940~50年代はリアエンジン・リアドライブ(RR)の黄金期と言えた。特に小型車においてこのレイアウトは合理的であったため、戦前から生産されているVWビートル、「ヌオバ」フィアット500、日本では軽自動車のスバル360など名車が産み出された。同様に軽量なスポーツカーがRRで作られることもそれなりにあることだった。911の先代である356(1948年デビュー)もそんななかで生まれた1台だった。
しかし、革命的なフロントエンジン車であるBMCミニの登場に代表されるように、そうした時代も徐々に終わりへ向かう。911の開発がスタートしたのはそんな時期のことであった。
「時代はモアパワー。新設計の6気筒エンジンを搭載する」
「356の4シーターはいかにも狭かった。今度はちゃんと最初から4人乗りを想定して作ろう。となると必然的にミッドシップは除外だ」
「356を作ったノウハウもあるし」
そんなわけで911はより「重い」6気筒エンジンをリアに搭載することになったが、これがここまで911という車の運命を決定づけることになろうとはポルシェの中の人も考えなかったかもしれない。さて、RRという駆動方式には数々の欠点がある(リアエンジン・リアドライブの記事参照)わけだが、特に重いエンジンになるとその傾向は顕著である。911も例外ではなく、操縦安定性に重大な問題を抱えることになった。結局911は1965年に量産されてから、一応の問題解決をみるまで4年の歳月を要した。時は間もなく1970年代を迎えようとしていた。911の属するハイクラスのスポーツカーで、リアにエンジンを搭載しているものはほとんどなくなっていた。
歴史のifであるが、もしポルシェが911の操縦安定性問題を解決しなかったら?あるいは、さっさと911を諦め新型のフロントエンジン車に切り替えてしまっていたら?911は失敗作として歴史の中に置き去りになったことだろう。だが、911は今もエンジンを背負って生きている。もちろん平坦な道ではなく、排ガス規制でモデル廃止の危機に陥ったこともあった。しかしそれでも生き残ってこれたのは、ひとえに「リアエンジンだから」という独自性を価値として認められていたからに他ならない。市場に取り残された911は、その逆境を味方にしたのであった。
ポルシェ911の歴史は常にモータースポーツとともにあると言っても過言ではない。最初に911がモータースポーツの表舞台に立ったのは1965年1月のラリー・モンテカルロである。このとき911を駆ったのはヘルベルト・リンゲ/ペーター・ファルクのふたりで、両名ともポルシェ社内のエンジニアである。モナコ公国のレーニエ大公に新車をお披露目するという使命を負って出場したこの大会で、911は総合5位入賞という好成績を挙げた。その後の同ラリーでは68-70年の3連覇のほか、78年の優勝もある。少々意外なように思われるかもしれないが、リアエンジンで駆動輪に荷重のかけやすい911は、ラリーマシンとして高いポテンシャルを持っていたのだ。ラリー・モンテカルロに限らず様々なラリーイベントに911の姿があった。近年のラリーでも911はR-GT規定マシンとして見かけることがある。
もちろんラリーだけではなく、サーキットでのモータースポーツにも積極的に参加した。メジャーレースだけ追っていくと、歴史あるル・マン24時間に最初に出場したのは1966年で、284周を走り2L GTクラス優勝、総合14位を記録した。以降現在に至るまで911がエントリーしなかった年は、そもそもツーリングカーの出場枠が無かった年を除いて存在しない。北米のデイトナ24時間では特筆すべき活躍を挙げている。73年に911カレラRSRが総合優勝を挙げたのを皮切りに、オイルショックによる中断を挟んで75年に優勝、77年にまた優勝。78年から83年にかけては、930型911をもとに開発されたGr.5カー「935」が6連覇という偉業を成し遂げた。同じく北米のセブリング12時間でも78年から82年にかけて5連覇している。
935はFIAの世界選手権戦、ドイツのDRM(DTMの前身)、北米のIMSA、ル・マン24時間などなど、とにかく出場可能なレースには必ずと言っていいほどエントリーしており、なおかつどのレースでも非常に競争力があった。とりわけ1979年のル・マン24時間においては、上のクラスのプロトタイプカー勢が自滅したことも有り、935が総合優勝を含めて上位を独占することになった。(もっとも、総合優勝したのは純正の935ではなく、クレマー・チームの手によって大幅に魔改造モディファイされた935K3というマシンだった。とは言え、935の勝利には変わりはない。)余談だが、2位に入ったのは映画スターのポール・ニューマンが所属するチームの935だった。
現在まで続いているポルシェ・カレラカップは1986年に始まった。現在では9つの国と地域でシリーズ戦が開催されており、世界中でアマチュア~プロレベルのレーサーに舞台を与えている(かつ、結構華やかなイベントであり、見る側からの人気も結構高い)。近年ではカレラRSやGT2、GT3をベースにしたレーシングカーが世界中あらゆるサーキットを走っている。911が新型にモデルチェンジするたびに新しいレースベース車はまだかと期待されるのはもはや恒例行事である。
911のモータースポーツ全体に対する貢献度は高く、また、911自身もオータースポーツの場で磨かれ魅力的なものになってきた歴史がある。
しかし2017年にWECのLM-GTEプロクラスに登場した911RSRは空力の自由度の観点からミッドシップエンジン(公式ではリアミッドシップだと説明している)となっており、物議を醸した。
1963年9月12日、フランクフルトモーターショウ(IAA)にて発表された。このときは「901」という名前で発表されたものの、プジョーが「間に0が入る3ケタの数字」をフランス国内で全て商標登録していたため、やむなく「911」と改名せざるを得なかった。発表からちょうど1年後の1964年9月より販売開始(ちなみにポルシェのモデルイヤーは8月~翌年7月の区切りなので、一番最初の生産車でも65年式扱いである)。通称「ナロー」。最初期の911であり熱狂的なファンも多い。流麗なスタイリングは20代のフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ(ブッツィ・ポルシェ)主導のもとデザインされた。ちなみに父親のフェリー・ポルシェは先代356の設計者である。スリーサイズは4163×1610×1320mmで、ホイールベースは2211mmと、現代の自動車の基準からみると完全にコンパクトカーの領域である。
66年モデルまでは設定されたグレードはたった1種類のみであった。ただし、車名違いではあるが同一ボディの「912」が65年3月~68年7月まで設定された(先代356の1.6L水平対向4気筒OHVを搭載した廉価版)。当時は911より912の方が遥かに売れていたらしい。初期の911は直進安定性に難があり、フロントバンパーの中に補強の名目で11kgの重りが2個取り付けられていたというのはあまりにも有名である。
初期に911が搭載していたエンジンは901/01型2.0L水平対向6気筒SOHCであり、語るまでもないが空冷である。130ps/6100rpm 17.8kgm/4200rpmを発揮した。しかしこのエンジンはキャブレターに大きな問題を抱えており、発売間もなくソレックスからウェーバーの3連チョークに変更された(エンジンは901/05型に名前が変わった)。ちなみに前述した1965年ラリー・モンテカルロに出場した車両は、量産型がまだソレックスを採用している頃にもかかわらずウェーバーが装備されていた。
67年モデルで、従来より上のグレードの「911S」が設定された。エンジンは高回転化され従来の30ps増しである160psを発生した。911Sは量産車として世界初の4輪ベンチレーテッドディスクブレーキを採用した。翌68年モデルでは逆に下のグレードの「911T」が追加され、従来通りの真ん中のグレードは「911L」と名前が変更された。911Lでは911Sに続いて4輪ベンチレーテッドディスクが採用された。なお「S」はスポーツ、「T」はツーリングの意味で、「L」は諸説ありはっきりしない。911Tは事実上912の後継ということになる(暫く併売してはいたが)。またこの68年モデルでは、自動クラッチ機能付きの2ペダルMT「シュポルトマティック」がオプション選択可能になった。66年12月には911シリーズ初のオープンモデルとなる「911タルガ」が設定された。
ポルシェのホイールと言えば?と問われたら多くの人が「あの逆三角形のスポークのやつ。5本スポークの。」と答えるであろうことは想像に難くない。この「フックス」社製のアロイホイールが最初に搭載されたのが911Sであった。以後、後継の930型の最終年である1989年まで、20年以上の長きにわたってほとんどデザインを変えずに採用され続けたのは周知の通り。なおフックス社は今でも健在であり、2010年には創業100周年を迎えた。余談だが、自社で作っているわけではないのに997型911スポーツクラシックのホイールのことをHPの自社紹介に載せているあたりに911の影響力をうかがい知ることができる。
1969年モデルではホイールベースを57mm延長し安定性が向上。ただし駆動系の配置を変更することなく後輪の位置だけ後ろにずらしたため、ドライブシャフトに後退角がついてユニバーサルジョイントの信頼性を損なう結果にもなったが、これはすぐに解決された。また、エンジンのクランクケースがアルミ製からマグネシウム製に変更され、バッテリーがトランクの前端に移設されるなどして重量配分が改善した。さらにエンジンで言えばキャブレターからインジェクションに変更された。それに伴って911Lはたった1年で「911E」と改められた(Eはインジェクションのドイツ語の頭文字)。ただし、911Tはこれまで通りキャブレターが採用された。ちなみにこれ以前のショートホイールベースのものは貴重で価値が高い(外見上は変更前後でよく似ているが、ホイールアーチの有無で見分けることができる。より太いホイールを履くためにホイールアーチが設置されたのだ)。
901型はモデルが進むごとにたびたび排気量が向上した。最初に排気量アップされたのが70年モデルで、単純なボアアップにより2.2Lとなった。しかし、この時点でそのままのシリンダー構造ではボアアップは限界であり、次いで72年モデルで2.4Lとなった時にはクランクの改良によってストロークアップが図られた。後述するカレラRSではニカシルシリンダーを用いてさらなるボアアップを図った2.7Lのエンジンが登場した。74年モデルからは911Sと911(74年から「E」が取れた)にもカレラRSから2.7Lシリンダーが降りてきたが、前年の2.4Lの911Sと911Eに比べ、出力が低下してしまっている。これは新採用したボッシュのKジェトロニック・インジェクションシステムと高回転型の911のエンジンの相性が悪かったため。最終的に76年からは更にボアアップされ3.0Lまで拡大した。
1973年に発売された「カレラRS2.7」は「ナナサンカレラ」と呼ばれ、スーパーカーブームの折「サーキットの狼」に登場するなどし日本でも人気を博すことになった。市販の901型911としては究極的な存在と言える。リアスポイラー(ナナサンカレラではダックテールと呼ばれる)を装着した初めての市販911でもある。翌74年には進化版のカレラRS3.0が登場するが、こちらはわずか109台しか生産されず価格もスパルタンさも73モデルとは比較にならないものであった。要するにレースベース車であり、約半数はカレラRSRとしてレースシーンに出向いて行った。
1974年に連邦自動車安全規制(FMVSS)への適合のためいわゆる5マイルバンパーが装着されることになった。同時期に次期型の930型911ターボが発表されているが、NAモデルは引き続き901型が生産された(~1977年)。と、何気なく流しているが、さまざまな改良が加えられたとはいえデビューからすでに10年を経過し、モデルライフ的には901型は既に寿命に達していた。またこの時期のポルシェの経営状態はよくなく、フォルクスワーゲンとの協業によって生み出された914/924のセールスに頼って延命していた状態であったと言える。911には928というFRでより高級な後継モデルが計画されており、911にとっては厳しい時代であった。
76年には一時的に北米向けに912が復活した。ただしエンジンは356の4気筒ではなく、914の2.0Lエンジンである。924発売開始までのつなぎである。
1974年に5マイルバンパーの装着が義務付けられると同時に、911にターボモデルが用意されることとなった。それが930型である。通称「ビッグバンパー」。1973年にフランクフルトモーターショウ(IAA)にて試作モデルを発表し、翌年のパリ・サロンで量産型がお披露目された。1975年に販売を開始し、1976年には日本でも発売された。ちょうどスーパーカーブーム真っ只中ということもあり日本でのポルシェの知名度が向上したのもこの頃。
ターボモデルが用意されたきっかけは、1972年からFIAの世界選手権のGTクラスが年間生産台数500台以上の市販車で争われるようになったことによる。オイルショックの最中の開発となったが無事にデビューを果たした(ポルシェ社内でも年産500台が達成できるのか懐疑的な向きが多かったという)。930ターボをベースに開発された934(グループ4仕様)、935(グループ5仕様)は世界中のレースで空気読んでないレベルで活躍し、あらゆるタイトルを総なめにした。
量産車がデビュー当時に積んでいたエンジンは930/50型3.0L SOHCで260ps/5500rpmのパワーと35.0kgm/4000rpmのトルクを発揮した。75年のNA3.0Lモデル(901型カレラ3.0)が200psであったことを考えると、ターボによるゲインは60psほどであったと思われる。なお、この車はウェストゲート式のターボを搭載した初めての市販車である。北米向けには「ターボ・カレラ」というバッヂを付けて売っていたが、のちにカレラがNAモデルの代名詞になることを考えると変わり種であるといえる。トランスミッションは先代の5速MTから4速MTに段数が減っている。78年には排気量が3.3Lまで増やされ、インタークーラーがついて300psまで馬力が向上した。同年、NAモデルも930型にスイッチしたが、排ガス規制の煽りを食って180psのエンジンしか用意されなかった。NAモデルは911SCの名で販売した。
ターボモデルは高価であったし(なにしろあのリアフェンダーは手作りである!)排ガス規制の関係でしばしば主要国での販売が途絶えていたため、911の売り上げは全てNAモデルが握っていると言っても過言ではなかった。しかしその頼みの綱のNAは先述の180psいちグレードしかなく、しかもそれもお世辞にも魅力的とは言い難い代物だった。時のポルシェ社長エルンスト・フールマンは
「リアエンジンの911とかオワコンだから。今後は924ターボと928で行くわ。」
「911は81年までで生産終了する。開発予算も認めない。」
と直接言ったかは定かでないがそういう路線を突き進み、911は生産終了待ったなしの状況にあった。しかしエンジニアの努力によって81年にNAモデルのエンジンが204psまで改良されると、それなりに販売台数を回復した。結局911は生き残った(フールマン氏の名誉のために付け加えておくと、70年代中期からポルシェの屋台骨を支えた924を生み出したのはまさしく彼の成果であり、ポルシェにとって害をなした人物では決してない)。
1983年モデルの911SCでは、911初となる「カブリオレ」が登場した。以降の911では必ずいずれかのグレードでカブリオレが選択可能であり、定番となった(タルガは途切れている年がある)。88年と89年モデルではターボでもタルガとカブリオレが選択可能だった。
1984年モデルからのNAモデルは、名前を911SCから911カレラへと変更し、より強力な234psの3.2Lエンジンへとグレードアップした。エンジンだけでなくサスペンションもスポーツ志向が高められ、人気が高いモデルである。ちなみに、オプションで「ターボルック」にすることができた(巨大なリアフェンダーとリアウィングがつく)。このモデル以降カレラはNAモデル用の名前になった。ターボモデルも86年からは日本/北米への輸出を再開した。モデル最終年の89年のみターボモデルに5速マニュアルが用意された。また最終年のみカレラ・スピードスターなるオープンモデルが用意されていたがそれほど人気は出ず、2065台のみ生産された。
ところで先代の901や356からポルシェの内製MTは「ポルシェシンクロ」という独特の構造を持ったシンクロ機構が採用されていたが、87年モデルから普通のワーナー式シンクロに変更された。
直接ポルシェが製造したモデルではないが、930カレラには大変有名なコンプリートチューニングカーがあるので紹介する。その名もRUF・CTRという。愛称は「イエローバード」。CTRとはカレラ・ターボ・ルーフの頭文字であり、その名の通りカレラをベースにターボを搭載したものである。そのため車体が細い。3.4Lまでボアアップし、ツインターボを装着して469ps以上を発揮する。
当時Road&Track誌が企画した市販車最速決定戦はもはや伝説となっており、そこでCTRはフェラーリ288GTOやランボルギーニ・カウンタックといった格上のスーパーカーを圧倒する性能を見せつけた。ただしカレラボディには少々過ぎたるエンジンスペックだったのか、ハンドリングはかなりのじゃじゃ馬だったようだ(関連動画参照)。
1988年には3代目の964型がデビュー、89年より発売開始する。先代の930は1973年デビューだから、実に15年ぶりのフルモデルチェンジである。それゆえ、シャシーは根本的な構造から見直され、格段に性能が向上した。全部品のうち85%が新作されたという。パワステの採用、ABSの採用など一気に現代的になったのもこのモデルから。
サスペンションにも大変更が加えられた、といっても、前:マクファーソンストラット・後:セミトレーリングアームというごく基本的な構造には変更が無い。変わったのはスプリングである。964型からはコイルスプリングを採用したのだ。930までは「トーションバー」(ねじり棒)スプリングを使用していたのだ。このサスペンションの変更には重要な目的があった。それは4WDの採用のためである。フロントまで駆動力を伝達するためにはプロペラシャフトをフロア下に通す必要があるが、リアのトーションバーが邪魔でこれまでは通せなかったのだ。
964型で一番最初に発売になったのは「カレラ4」、NAの4WDグレードである。翌90年には従来と同様リア駆動の「カレラ2」が設定された。カレラ2にはマニュアルモード付きのAT、通称「ティプトロニック」が用意された。両者のエンジンは同一で、M64/01型3.6L水平対向6気筒SOHC(250ps/6100rpm 31.6kgm/4800rpm)となった。ちなみにこのエンジンはツインプラグである。4WDの評判はというと、重量増ではあるものの重量配分が改善され、大変ドライバビリティが向上していたという。ただしカレラ2との重量差はカタログ上で100kgある。それゆえ軽快感の無さを指摘する向きもあった。4WDが真価を発揮するのはよりパワーのあるエンジンを積むようになってからと言えるかもしれない。
当然先代まで用意されていたターボモデルも準備が進められていたものの、少々遅れて90年の発表となった。しかも新型M64シリーズのエンジンではなく、930の3.3Lを320psまでパワーアップしたものが載っていた(92年には381psのターボSが限定販売)。3.6Lのターボエンジンが登場するのは93年である。ターボ3.6は360psを発揮し、ターボSと同様のブレーキ・ホイールなどが装備された。なお95年モデルはすでに次期型の993なので、964のターボ3.6は93年モデルと94年モデルしか存在しない。
964のNAグレードで忘れてはいけないのが92年に登場した「カレラRS」である。カレラ2をベースに、901型のときのナナサンカレラのごとく快適装備などを取っ払って軽量化し、クロスミッションなどがおごられたスパルタンなグレードで、今でも中古車市場で高値キープしている。その乗り心地は「カレラRSで意気揚々とドライブに出かけた大男がパーキングで腰を丸めてうずくまっていた」とかなんとか言われるほどハードなものであったとか。さらに93年には300psのカレラRS3.8が登場する。また北米限定であるが、ターボ用のリアスポイラーいわゆる「ホエール・テール」を装着した「カレラRSアメリカ」というものも存在した。
1993年登場。911としては異例に早いモデルチェンジとあってか、外観は基本的には先代の964のイメージを色濃く残している。ただし、ヘッドライトの高さが抑えられる&ボンネットの高さが増すことによって従来までの「カエル顔」感が薄れたのは911のデザインの史上重要なターニングポイントと言えるだろう。リア周りのデザインも、ワイドになったリアフェンダーを違和感なく見せるために工夫されている。テールランプは引き続き横一文字のデザインだが、少々高さが持ち上げられて視認性が向上した。
エンジンも964から多くを引き継いだものとなっている。形式もM64/05とマイナーチェンジ版であることをうかがわせる。排気量も3.6Lで共通である。94・95年モデルのカレラは272psを発生、96・97年モデルでは911シリーズ初採用となる可変吸気機構「バリオラム」が搭載され、285psまで向上した。なお、空冷式のエンジンは993型が最後となった。993型の中古車の宣伝文句には必ずと言っていいほど「最後の空冷です!」などと記載されている。
シャシーは964と外観こそ似ているが、実は幅が75mmも増やされている(カレラ同士で比較。1660mm→1735mm)。全長は先代と同じ4245mmで、高さは10mm低い1300mmである。全幅の増加はほとんどリアフェンダーである。これには背景がある。先代964でリアサスペンションに手が加えられたが、実際のところ、964の時点ではあくまで妥協の産物と言えた。現代ポルシェ911のリアサスペンションはこの993が採用したマルチリンク式サスペンションによって完成したのである。
カレラ4は95年モデルから設定された。エンジンは通常のカレラ(993型以降では「2」はつかない)と同じなのだが、なぜか日本仕様だけは例外的に3745ccに排気量アップされており、パワーも285psと高かった。4WDシステムは先代の遊星ギヤ式センターデフからビスカスカップリング式に変更されたためRRの乗り味に近づいた。もはや伝統となったターボモデルも95年から発売された。新しいツインターボシステムによってパワーはついに408psとなり、400psの大台を突破した。993ターボは4WDであり、ターボ+4WDが採用された最初の911である。
やはり993にもスペシャルなモデルが存在する。まずは95年に設定された「カレラRS」である。先代の964RSはきわめてハードなスポーツモデルだったが、993RSは幾分マイルドな特性になったという。マルチリンクになった後ろ足が良い仕事をするようになったともとれる。また、ただでさえスペシャルなターボモデルにも更にレーシーな「GT2」が設定された。こちらは当時のブリティッシュGT選手権やル・マン24時間と言ったレースのためのホモロゲモデルであり、大仰なオーバーフェンダーに巨大なリアウィングを装備している。エンジンも430psまで強化されていた。なおGT2のエンジンを通常のターボモデルに流用した911ターボSなるグレードが日本向けのみ設定された。
なおGT2はターボS以上のエンジンを二輪駆動させる、さらには電子制御が無かった故、やんちゃすると簡単に死亡事故が発生するゆえ「未亡人発生機」なる悪評が広まることに。
さらに96年からGT2より上のGT1カテゴリーの選手権に出場するために911GT1なるモデルが製作されたが、こちらは市販車との関連性は薄い。96年型と97年型はキャビンとフロントセクションを市販の911から流用していたが、リアセクションは完全に別物でありRRでなくミッドシップになっている。
1996年発表。量産モデルは98年式からとなる。ほぼすべてを新しく作り直した新世代911。実は、エンジン・シャシー全てを刷新するモデルチェンジはこの996型が初めてである。ホイールベースなど、実に901型のモデル改良以来30年ぶりに大きく延長された(2272mm→2350mm)。
デザイン面でも画期的な変化があり、ついに丸目ヘッドライトから脱却を図った(フラットノーズという例外があるが)。前半分のプラットフォームを共有するボクスターと同じヘッドライトを採用…したのが少々まずかったようだ。下位のモデルと共通のイメージが不評を呼び、のちにターボ用に設定した別デザインにカレラも統一された。996でデザインが変わったのはフロント周りだけではない。930以来の伝統となっていた横一文字のテールランプが、現代的な左右独立のものに変更された(ただしカレラ4ではつながったタイプのデザインを採用している)。
この型のトピックはデザインもそうだがエンジンが大きいだろう。ついに先代までの空冷から、現代的な水冷式へと変更になった。逆に言えば、これまで400馬力級のターボエンジンを空冷で回していたのだからすごい話だ。先代のバリオラムは引き続いて搭載し、ヘッドもSOHCからDOHCに変更された。さらに可変バルブタイミング機構の「バリオカム」(名前が似ているが内容は全然違う)が標準装備となっており、一気に時代に追いついてきた。先代993のカレラは3.6Lで285psを発生したが、新エンジンは3.4Lにダウンサイジングされながら300psまで向上していた(930型ターボ3.3と同じ出力である)。2002年以降の後期型では3.6L 320psとなった。
ターボは2000年から販売された。最初から後期顔で登場。前年にカレラ4が発売されており、993型同様4WDで販売されていた。ターボの車重は1585kgにおよび、初代の901型と比べると1.5倍ほどにもなった。パワーは420psであり901の3倍以上にも及ぶ。
ちなみにターボは最初から3.6Lであったが、996後期カレラの3.6Lとは出自が違う。さらにターボのみ連続可変バルブタイミングに加えてリフト量も変化する「バリオカムプラス」が装備された。電子制御も充実しており、PSM(Porsche stability Management)という名の姿勢制御システムが装備されたほか、ターボとしては初めてAT(ティプトロニック)が設定されている。ターボは装備てんこ盛りの重量級スポーツツアラーといった性格付けがされていることが分かる。
なお、MTはこれまでの5速から6速へ変更された。
初代901から4輪ディスクブレーキを採用していたように、911はブレーキが良く効くことが知られているが、その代表格が996ターボに初採用されたPCCB(Porsche Ceramic Composite Brake)である。セラミックコンポジット、つまり通常の鋳鉄ローターでなく複合材なわけだが、普通はレースに使うような代物であり、目ん玉飛び出るくらいお高い。その代わり魔法のように1.5tオーバーの車体を止めてくれる。
PCCBは後述する「GT3」にもオプション設定され、また後継の997型には全車オプションで装備できるようになっている。
1999年にはライナップに「GT3」が追加された。これはNAのスパルタンなグレード、つまり従来で言うところのカレラRSに当たるモデルと言える。911GT1譲りの3.6Lエンジンから360psを発生。本来は限定販売のはずだったのだが、予想外に人気が出たため急きょ増産された。911のNAの軽量グレードはどの世代でも高い人気を誇っているのである。後期モデルからはカタログに載り、限定販売ではなくなった。また、2004年にはGT3からさらに軽量化を施した「GT3RS」が設定された。後期型の出力は381psにもなる。
先代から設定されたターボのスペシャルグレード「GT2」は996ではホモロゲ専用の色が薄れ、普通にカタログに載っていた。見た目も先代が凄まじかったのに比べるとずいぶん市販車らしいおとなしい感じになっており、装備も充実しているおかげで車重は先代の1290kgから大幅増の1440kgである。ターボが4WDでGT2がRRなのは先代と同じで、後継の997でも受け継がれている。
GT3をベースとしたGTレーシングカーは世界中のありとあらゆるカテゴリーに参戦していた。それは911の伝統でもある。もちろん2013年現在でもそうである。
2004年9月から発売。型番が換わったものの、内容は996型のビッグマイナーチェンジ版である。シャシー・エンジンは基本的に先代の996を受け継いでおりいる。911という車全体として見たとき、一番大きな変化はやはりデザインだろう。先代の異形ヘッドライトはやはり不評だったのか、993以来となる丸型に戻してきた。911は丸目以外市場に受け入れられないのだろうか…。
カレラに搭載されたエンジンは先代の後期型3.6Lからわずか5ps向上した程度である。加えて、3.8Lまで排気量を向上したカレラSが設定された(355ps)。カレラ4にも同じようにカレラ4Sが用意された。ターボのエンジンはやはり先代同様カレラ系とは少々出自が異なる。ガソリンエンジンとして世界初の電子制御可変ジオメトリーターボを採用していた。480psを発生。
先代の996から導入されたPSMに加えてPASM(Porsche Active Stability Management)という可変ダンパーシステムが開発され、快適な乗り心地でありながらスポーツ走行ではしっかりした足を実現した。カレラSには標準装備であり、ベーシックモデルのカレラにもオプションで選択できた。
2008年にはマイナーチェンジを行い、エクステリアにも少々変更が加えられた。同時にカレラにポルシェ962の技術の発展系とも言える7速のPDK(Porsche Doppelkupplung)と呼ばれるセミATを搭載できるようになった。このPDKというのはいわゆるデュアル・クラッチ・トランスミッションであり、変速時間を極めて短縮できる優れものである。PDKの登場とともに従来のティプトロニックは消滅した。
マイナーチェンジといっても変更規模は比較的大きく、特にエンジンは新作となった。水冷エンジンとしては2代目となる。ブロック・クランク・ヘッドすべて前期と異なっており、排気量はほぼ据え置きながらカレラで20psアップ(345ps)、カレラSで30psアップ(385ps)を果たした。また、このエンジンから直噴となった。
GT3とGT3RSも勿論設定された。2006年ジュネーブショーで発表。前期型で3.6L 415psのエンジン、2008年からの後期型で3.8L 435psのエンジンを搭載した。カレラのエンジンが後期型になるにあたって刷新されたのと異なり、GT3系のエンジンは前期型のアップグレード版である。RSの方はカレラ4Sのボディ(通常のカレラより幅が広い)を用いて生産され、またサスペンションが少々異なるためホイールベースもわずかに延長されている。2011年GT3RS 4.0なるもう一つ上のモデルが500台限定販売された。その名の通り4.0Lまで排気量があげられたエンジンはついに500psに到達し、最も刺激的な911のうちの1台である。2010年にはGT3とカレラSの間にあたる「カレラGTS」という若干ややこしい名前のモデルが追加された。
997タイプのGT2は2008年モデルからカタログ入りした。ターボから50ps向上した530psのエンジンを搭載し、例によってRRとすることで1438kgまで軽量化している。2010年にはそれでも飽き足らずGT2RSが登場、パワーが一気に620psまで引き上げられたほか、GT2からさらに70kg軽量化されるというスーパーな性能であり、歴代で最も速い市販の911の座にしばらく君臨し続けるものと思われる。
996の時代の後半ごろから911の売り方に少々変化が見られた。それは「限定車商法」ともいうべきか、記念モデルや限定モデルが997タイプには非常に多い(ここに書いていないだけで他にもたくさんある)。そして普通のカタログモデルの種類もこれまでに比べるとずいぶん増えた。996後期で911は40周年を迎えており、ポルシェ社自体の経営も911の売れ行きも軌道に乗って生産ペースは歴代最も速くなっていたので、ある意味では必然ともいえよう。モデルチェンジの頻度がかつてよりもはるかに早いことからも分かる。
2013年現在の最新モデルはタイプ991という。新型で数字が戻った911史上初のモデルでもある。デビューは2011年の夏で、最初にカレラとその上位版のカレラSが販売された。デザインは基本的に997型を踏襲しており、何も知らない人に両方並べて前から見せたら「ちょっとしたグレード違い?」とか呼ばれてしまうであろう。
しかしデザインが大きく変化しなかった一方で、中身のコンポーネントには大幅なアップデートがかけられた。まずシャシーの刷新である。997は996のマイナーチェンジだったので、15年ぶりの新作となっている。素材の工夫で先代のシャシーより60kg軽く、なおかつ剛性は向上したという。ホイールベースは3度目の変更を受け、さらに長くなった(2350mm→2450mm)。もちろんPDKにも磨きがかかっており、変速時間はさらに短縮された。MTは6速から7速へと変更されている。このMTは7速PDKからデュアルクラッチ機構が廃止されたものである。なお7速のHパターンMTは、乗用車に限って言えば世界初である。後発で言うと、シボレー・コルベットC7で採用例がある。
先代の後期で登場した直噴の新エンジンであるが、早速中身に大きく手が加えられた。具体的にはショートストローク・高回転化であり、通常のカレラで排気量は3.4Lまで小さくなっているものの、出力は350ps/7400rpmとわずかに向上した。先代の後期型345ps/6500rpmと比べると、ずいぶん高回転よりのチューニングであることが窺い知れる。カレラSでは3.8Lで400psを発生する。
2013年に登場したGT3がMTを廃止しPDKに一本化したことについては、ずいぶん話題を呼んでいる。ジャーナリズムでは好意的な見方も多いが、今後時間が経ってどのような評価になるのか注目される。GT3にはポルシェ初のアクティブ4WSシステム「アクティブリアホイールステアリング」を採用するなど、意欲的な変更を加えてきている(パッシブ4WSならかつて928が採用したヴァイザッハ・アクスルの事例がある)。また、流行りであるフルLEDヘッドライトも装備。エンジンはカレラSの3.8Lをベースにチューンし、475psとなった。
やっぱりGT3なのにMTが無いのはアレ…ということなのか、後期型のGT3には6MTが設定されるようになった。
2013年は初代901がフランクフルトショーでお披露目されてからちょうど50年に当たるため、911 50thアニバーサリーエディションが販売された。カレラSをベースにカレラ4のワイドボディを採用し、デザインを初代901風に仕立てたもので、本来日本向けにはPDKのみの予定だったが、MTモデルを望む声が多く(そりゃそうだ)、MTも輸入されることが決まった。1963年にちなんで全世界1963台限定販売。
一番物議を醸したのが「カレラがターボ化」であった。
近年の流れである「ダウンサイジングターボ」の影響を受け、911も通常モデルは全車ターボエンジンとなった。
とはいえカレラ2でも3.0Lと、ダウンサイジングにしてはダウンサイジングされていない。ポルシェ曰く「ライトサイジングターボ」(適正な排気量+ターボ)という事である。
GT3は4.0LN/Aを保った他、前期型には無かったGT2RSが追加設定。相変わらずターボ4S以上のハイパワーエンジンなのに2輪駆動という、ドライバーを選ぶレイアウトはそのままである。
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最終更新:2024/12/23(月) 16:00
最終更新:2024/12/23(月) 15:00
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