ショートショートを書きました 面白い、つまらない、どっちでしょう? 評価、感想を下さい。 「どこへもたどり着けない道」 ジアリはロバを引き、荒野の道を歩いていた。 ロバの背には、壺や鍋、古びた椅子に布団と、家財道具一式が積まれている。 そのためジアリは自分の足で歩く他なく、住んでいた町を離れ、丸一日が経ち、その足はもう棒のようになっていた。 太陽の下、空気は焼けつくように熱い。 砂に覆われた道を歩くたび、足跡がすぐに風にさらわれていった。 「はあー。今回の旅も先が思いやられる」 ジアリは額の汗を拭い、皮の水筒に口をつけた。安住の地は遠い。 ジアリにとって先の町は、満足のいくものではなかった。その一つ前の町もそうだった。 彼は何をやっても仕事は長続きせず、店主と口論となったり、客とは掴み合いの喧嘩をしたこともあった。 その背には、根なし草という影が貼りついている。なかなか腰を据えて暮らすことが出来なかった。 旅を続けるうち、道は二手に分かれた。 疲れもピークに達し、どちらへ行くか悩んでいると、後ろから杖をついた老人がやってきた。 ジアリは、これは幸いと老人に尋ねた。 「ご老人、平坦な道はどちらかわかりますか?」 老人は黙って右の道を指差した。 礼を言って立ち去ろうとするジアリに、老人は一つ提案した。 「しかしあなたにその気があるなら、山あり谷あり左の道を行きなさい」 考えるまでもなかった。ジアリは冗談じゃない、苦労するのはまっぴらごめんだと、右の道を進んだ。 平坦な道は嘘ではなかった。 どこまでも真っすぐで、石ころ一つ落ちていない。ただいつまで歩いても、同じ景色が続いた。地平線には何も見えない。風の音だけが耳をかすめていく。 やがて空は茜色に染まり、再び道は二手に分かれた。右も左も同じような、果ての見えぬ道。 ジアリは立ち止まり、深いため息をついた。頭は霞がかかったようにぼんやりしている。 そこへ、またあの老人が杖をついてやって来た。 途方に暮れているジアリに向かって、老人はいった。 「誰でも楽に歩けるかわりに、どこへもたどり着けない。それが“逃げ道”というものだよ」 ジアリの足元には長い影が伸びている。 歩いてきた道を振り返った。そこには何も無い荒野が、ただ横たわっているだけだった。