2025-01

2024・12・15(日)ジョナサン・ノット指揮東京響「ばらの騎士」

     ミューザ川崎シンフォニーホール  2時

 一昨年の「サロメ」、昨年の「エレクトラ」に続くジョナサン・ノット指揮東京交響楽団によるR・シュトラウス・シリーズの第3作で、若干の演技を加えた演奏会形式上演。

 主要歌手陣は、ミア・パーション(元帥夫人)、カトリオーナ・モリソン(オクタヴィアン)、アルベルト・ペーゼンドルファー(オックス男爵)、エルザ・ブノワ(ゾフィー)、マルクス・アイヒェ(ファーニナル)、渡邊仁美(マリアンネ、帽子屋)、澤武紀行(ヴァルツァッキ)、中島郁子(アンニーナ)、河野鉄平(警部、公証人)、村上公太(テノール歌手)、他および二期会合唱団。コンサートマスターはグレブ・ニキティン。

 これは本当に、この上なく魅力的な演奏だった。以前ノットが指揮した「サロメ」と「エレクトラ」が、ややダイナミックな勢いを重視した演奏に傾き、R・シュトラウスの叙情的側面には些か不満を残すものであったため、官能的な色彩感の強い「ばらの騎士」ではどんな表現を聴かせてくれるかと思っていたのだが、実際の演奏は期待を遥かに上回る素晴らしいものだった。

 特に第2幕は圧巻というべき演奏で、特に開始後間もない「ばらの騎士」の登場と、それに続くオクタヴィアンとゾフィーの出会いの場面での、あのR・シュトラウス節の官能的な美しさは、私が聴いた日本のオーケストラの演奏の中でも例を見ないほどの見事さだったのではあるまいか。
 往年の指揮者の演奏と違い、極端な甘美に過ぎることはもちろんないにしても、あのハーモニーの移り変わりにおける陶酔的なうつろいには、私は本当にうっとりさせられたのである。

 そしてまた、第2幕のオックス男爵のワルツ、第3幕大詰めの三重唱と二重唱。もちろん第1幕大詰めの元帥夫人のモノローグも━━。

 ノットの感性の素晴らしさもさることながら、東京交響楽団がここまでしなやかな演奏をしてくれたのは喜ばしい。第2幕で、オクタヴィアンとゾフィーの2人を包んでいた音楽の柔らかな明るい音色が、オックス男爵が登場してからガラリと翳りのあるものに変わるその細やかさにも、舌を巻いた(こういう演奏を、新国立劇場のピットでもやってくれればいいのだが‥‥)。

 歌手陣もいい。特にペーゼンドルファーのオックス男爵は、「貴族らしさを失わず、野卑に陥らず」という作曲者の指定に沿った役柄表現で、長身の巨体を生かしての千両役者的な雰囲気も備えていた。
 ミア・パーションの元帥夫人も、所謂華麗なタイプというほどではないけれども、真摯な歌唱が映える。第3幕でファーニナルから「若い者たちはこういうものですかね」と声をかけられ、「ja,ja」と呟く時の憮然とした表情は、セミ・ステージ形式に近い舞台上演ではあっても、本格的なものであったろう。

 エルザ・ブノワのゾフィーが第2幕では本当にお嬢様の雰囲気だったのが、第3幕では(成長したのか?)別人のような雰囲気を示す演技に変わっていたのには呆気にとられた。カトリオーナ・モリソンは、歌唱はいいのだが、演技が少々ニュアンス不足の趣あり、か? マルクス・アイヒェのファーニナルが人間的ないい味を出す。
 なお合唱では、オックスを「パパ!パパ!」と威嚇(?)する女声歌手数人の演技が面白い(これをカーテンコールの時にも披露したのがいい)。

 「演出監修」には、今回もトーマス・アレンが登場していた。今回のステージは、ソロ歌手陣の演技空間をオーケストラの前方に置き、合唱をオルガン下の席に移動させつつ配置し、要を得た演技を展開させて、なかなか良かった。

コメント

至福の味わいを感じさせる公演

モーツアルトのダ・ポンテ三部作に続けてR・シュトラウスの代表的3作品の公演の最後を飾る「ばらの騎士」は稀に見る名演でした。

これまでも圧倒的な上演に接していましたので、正に約束された公演でしたが、その予想をも大きく上回り筆舌に尽くされません。

舞台がないのに舞台を感じさせたのは、全員が暗譜でそれなりに相応しい衣装を着けて、R・シュトラウスの音楽を動きも伴って体全体で表現しきる実力派の歌手の方々の存在感の大きさでした。作品全体を出演者全員が全身で表現しきっていた姿の素晴らしさに加えてノットさんの見事な統率力。今回もノットさんのオペラ指揮者としての真の実力を存分に見せ付けられました。トーマス・アレンさんの個々の役者への仕草や動きも含めた演出も、結構細かいものがあって大いに楽しめました。

合唱も含めて登場した皆さんの歌唱演技から感じられた心豊かな喜びに浸る感動は、オペラ鑑賞の至福の味わいを感じさせるほどでした。


ミューザで見ました

 終演と共に久しぶりに聞く大喝采でした。オーケストラは無論ですが、元帥夫人と男爵の存続感は素晴らしく、3時間の演奏時間が短く感じられました。指揮者、歌手、オーケストラの皆さんに感謝です。演奏を聴きながら、Rシュトラウスという作曲家の偉大さに圧倒されると共に、ノットが後1年少しで退任してしまう事が、非常に残念に思えました。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

«  | HOME |  »

























Since Sep.13.2007
今日までの訪問者数

ブログ内検索

最近の記事

Category

プロフィール

リンク

News   

・雑誌「モーストリー・クラシック」に「東条碩夫の音楽巡礼記」
連載中