2015・12・12(土)ミュンヘン日記(2)プロコフィエフ:「炎の天使」
バイエルン州立歌劇場 7時
プロコフィエフのオペラ「炎の天使」。
これは11月29日にプレミエされたバリー・コスキー演出による今シーズンの新制作プロダクション、そして今シーズンにおける最終上演である。ウラディーミル・ユロフスキが指揮、騎士ルプレヒトをエフゲニー・ニキーチンが歌う。
相手役レナータにエヴェリン・ヘルリツィウス━━と年間プログラムに載っていたのをそのまま信用して楽しみにしていたのだが、何ぞ知らん、とっくに変更になっていた。
出演しているのはSvetlana Sozdatelevaというソプラノ━━この人の姓の正確な発音と日本語表記をご教示ありたい━━ナマで聴くのは多分初めてではないかと思うし、もちろん主役として聴くのもこれが初めてだが、最近カテリーナ・イズマイローワなどをあちこちで歌って売り出し中の人だから、ちょうどいい機会だ。
休みなしの2時間10分、ほとんど出ずっぱりの大熱演。演技はかなり素人っぽいところがあるけれども、声はよく持続して、ヒステリックで神経質で病的なこの謎の女を、体当たり的に、一所懸命に歌い演じていた。
ニキーチンも安定した歌と熱演で大拍手を浴びていた。あのバイロイト刺青事件の後、ドイツでは彼の活動はどうなのか、観客の反応は如何に、と心配していたのだが、全く問題はないようで、とりあえずは祝着の極みである。
また魔術研究家アグリッパにはウラジーミル・ガルージンが登場、出番は少ないが、良く通る声を聴かせていた。
他にはあまり知っている歌手がいなかったので省略するが、みんなさすがに手堅く粒がそろっている。
ユロフスキの指揮は、第2幕と第3幕の各間奏曲を除いては、基本的にはあまりオーケストラを咆哮させない。第2幕の「3度戸を叩け」のオカルト的な場面、あるいは第5幕大詰めの「修道女たちの狂乱」の場面などでも、意外なほど抑制した指揮だった。
もっとも、こういった個所は、以前ゲルギエフの指揮で聴いた、嵐のような魔性的な演奏の印象から未だに抜け切れていないので、それで物足りなく感じたのかもしれない。ともあれ、今回は平土間3列目の下手側の席だったため、バイエルン州立歌劇場管弦楽団のたっぷりしたスケール豊かな響きを堪能した次第である。
注目のバリー・コスキーの演出。
もちろん、あのデイヴィッド・フリーマンの演出のような、白塗りの悪魔群などは登場させない。むしろ徹底的に主人公2人の心理劇として━━つまり2人が見た一場の悪夢のようなストーリーにしていたのが興味深い。
ドラマの進行は、すべての幕をホテルの一室に設定し、照明や家具の位置の変化を以ってさまざまな状況に仕立てる。レナータは、原台本のように「隣の部屋にいる」のではなく、ルプレヒトの到着の前からこの部屋のベッドに下に潜り込んでいた(彼女は最初から何故かルプレヒトの名前を知っていたのだから、それもありうるだろう)。
また原台本と違い、ハインリヒ伯爵も登場しないので、ルプレヒトは彼と決闘せず、負傷はレナータともみ合った時にピストルの暴発で自らの足を傷つけてしまうという設定に変わっている。前述の間奏曲の個所では、ゾンビからオカルトからジンギスカン(グループの方)のごとき怪奇かつコミックな扮装をしたダンサーたちが踊り狂う。
ラストシーンでは、レナータを中心に、傷ついたキリストの扮装の修道女が狂乱状態に陥る・・・・。
幕切れ寸前、異端審問官も、狂乱していた修道女たちも一瞬にして姿を消し、舞台は最初のホテルの一室の光景に戻り、そこにルプレヒトとレナータだけが茫然と佇んでいる。全てはこの2人の幻想であったことが、この一瞬で解き明かされる。
この幕切れ、ユロフスキの指揮する音楽があっさりと終了し、幕も下りず照明も落ちぬまま、沈黙の中に主人公2人が立ち尽くし、観客がちょっと拍子抜けしていると、「教えてやるけど、これで終りなんだよ皆さん」と言わんばかりのブラヴォーが一声飛んで(どこの国にもいるんだよなあ、こういう手合いが)笑い声とともに大拍手が起こるといった具合であった。
まあ、このコスキー演出、これはこれで面白い。
だが思い出すと、あのマリインスキー・オペラ(当時はキーロフ・オペラ)のフリーマン演出は、これに比べると、随分オカルト的なスリルがあった。大勢の白塗りのスマートな裸体姿の山海塾みたいな悪魔が終始舞台上にいて、レナータの心に魔性が宿り始めると同時に不気味な動きを始めるという手法は、今にして思えば実に解りやすく、よく出来ていたなあと、懐かしく思う。
9時15分終演。外はあまり寒くない。
プロコフィエフのオペラ「炎の天使」。
これは11月29日にプレミエされたバリー・コスキー演出による今シーズンの新制作プロダクション、そして今シーズンにおける最終上演である。ウラディーミル・ユロフスキが指揮、騎士ルプレヒトをエフゲニー・ニキーチンが歌う。
相手役レナータにエヴェリン・ヘルリツィウス━━と年間プログラムに載っていたのをそのまま信用して楽しみにしていたのだが、何ぞ知らん、とっくに変更になっていた。
出演しているのはSvetlana Sozdatelevaというソプラノ━━この人の姓の正確な発音と日本語表記をご教示ありたい━━ナマで聴くのは多分初めてではないかと思うし、もちろん主役として聴くのもこれが初めてだが、最近カテリーナ・イズマイローワなどをあちこちで歌って売り出し中の人だから、ちょうどいい機会だ。
休みなしの2時間10分、ほとんど出ずっぱりの大熱演。演技はかなり素人っぽいところがあるけれども、声はよく持続して、ヒステリックで神経質で病的なこの謎の女を、体当たり的に、一所懸命に歌い演じていた。
ニキーチンも安定した歌と熱演で大拍手を浴びていた。あのバイロイト刺青事件の後、ドイツでは彼の活動はどうなのか、観客の反応は如何に、と心配していたのだが、全く問題はないようで、とりあえずは祝着の極みである。
また魔術研究家アグリッパにはウラジーミル・ガルージンが登場、出番は少ないが、良く通る声を聴かせていた。
他にはあまり知っている歌手がいなかったので省略するが、みんなさすがに手堅く粒がそろっている。
ユロフスキの指揮は、第2幕と第3幕の各間奏曲を除いては、基本的にはあまりオーケストラを咆哮させない。第2幕の「3度戸を叩け」のオカルト的な場面、あるいは第5幕大詰めの「修道女たちの狂乱」の場面などでも、意外なほど抑制した指揮だった。
もっとも、こういった個所は、以前ゲルギエフの指揮で聴いた、嵐のような魔性的な演奏の印象から未だに抜け切れていないので、それで物足りなく感じたのかもしれない。ともあれ、今回は平土間3列目の下手側の席だったため、バイエルン州立歌劇場管弦楽団のたっぷりしたスケール豊かな響きを堪能した次第である。
注目のバリー・コスキーの演出。
もちろん、あのデイヴィッド・フリーマンの演出のような、白塗りの悪魔群などは登場させない。むしろ徹底的に主人公2人の心理劇として━━つまり2人が見た一場の悪夢のようなストーリーにしていたのが興味深い。
ドラマの進行は、すべての幕をホテルの一室に設定し、照明や家具の位置の変化を以ってさまざまな状況に仕立てる。レナータは、原台本のように「隣の部屋にいる」のではなく、ルプレヒトの到着の前からこの部屋のベッドに下に潜り込んでいた(彼女は最初から何故かルプレヒトの名前を知っていたのだから、それもありうるだろう)。
また原台本と違い、ハインリヒ伯爵も登場しないので、ルプレヒトは彼と決闘せず、負傷はレナータともみ合った時にピストルの暴発で自らの足を傷つけてしまうという設定に変わっている。前述の間奏曲の個所では、ゾンビからオカルトからジンギスカン(グループの方)のごとき怪奇かつコミックな扮装をしたダンサーたちが踊り狂う。
ラストシーンでは、レナータを中心に、傷ついたキリストの扮装の修道女が狂乱状態に陥る・・・・。
幕切れ寸前、異端審問官も、狂乱していた修道女たちも一瞬にして姿を消し、舞台は最初のホテルの一室の光景に戻り、そこにルプレヒトとレナータだけが茫然と佇んでいる。全てはこの2人の幻想であったことが、この一瞬で解き明かされる。
この幕切れ、ユロフスキの指揮する音楽があっさりと終了し、幕も下りず照明も落ちぬまま、沈黙の中に主人公2人が立ち尽くし、観客がちょっと拍子抜けしていると、「教えてやるけど、これで終りなんだよ皆さん」と言わんばかりのブラヴォーが一声飛んで(どこの国にもいるんだよなあ、こういう手合いが)笑い声とともに大拍手が起こるといった具合であった。
まあ、このコスキー演出、これはこれで面白い。
だが思い出すと、あのマリインスキー・オペラ(当時はキーロフ・オペラ)のフリーマン演出は、これに比べると、随分オカルト的なスリルがあった。大勢の白塗りのスマートな裸体姿の山海塾みたいな悪魔が終始舞台上にいて、レナータの心に魔性が宿り始めると同時に不気味な動きを始めるという手法は、今にして思えば実に解りやすく、よく出来ていたなあと、懐かしく思う。
9時15分終演。外はあまり寒くない。
コメント
ウラディーミル・ユロフスキ・・・ロンドン・フィルとロシア国立響のシェフですが、日本に来ませんなぁ・・・コンサート屋さんの見る目がないのか、本人が来たがらないのか・・・CDで好い物が多いので早く実演を聴きたいのですが。
新演出初日の音楽だけはBR-Klassikで聞いていました。舞台写真以上のことはたぶんあったと思います。
もうそんな年月なんですね。1993年11月のキーロフ歌劇場日本公演で注目された上演から。。。
もうそんな年月なんですね。1993年11月のキーロフ歌劇場日本公演で注目された上演から。。。
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