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増えるネット詐欺のトレンドと対策。セキュリティソフト開発企業役員に聞く

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増えるネット詐欺のトレンドと対策。セキュリティソフト開発企業役員に聞く

近年、インターネットを介した詐欺(ネット詐欺)の手口が巧妙化し、件数も増加しています。

個人情報やパスワードを盗み出す「フィッシング詐欺」や身に覚えのない料金を請求される「架空請求詐欺」、不意にクリックさせられ、高額な料金を請求される「ワンクリック詐欺」など、さまざまな種類の詐欺が横行し、被害に遭ってしまうケースも少なくありません。

インターネットを介した詐欺(ネット詐欺)の主な手口4つ

ネット詐欺が増えている背景や傾向、具体的な対策について、ネット詐欺に特化したセキュリティソフトウェアを提供するBBソフトサービス株式会社取締役執行役員の森尚久さんに話を聞きました。

フィッシング詐欺が増加。手口の高度化・巧妙化が目立つ

フィッシング詐欺トレンド

警察・金融庁の調査によると、2023年にはフィッシング詐欺による不正送金が80億円、被害が報告された件数が18万件といずれも過去最多を記録しています。

「報告されてない潜在的な被害を含めると、非常に大きな被害総額になっている」

そう話す森さんはネット詐欺の動向について、次のように説明しました。

フィッシング詐欺事例

「以前はアダルトサイトのページをクリックしただけで、『指定の口座に入金いただかないと画面が消えません』といった不当料金を請求されるワンクリック詐欺が多い状況でした。

それが昨今では、Amazonや金融機関を名乗り、個人情報やID/パスワード、クレジットカード情報を抜き出そうとするフィッシング詐欺が横行しています。うっかり騙されてしまうほど、本物そっくりのサイトやメールなのが特徴で、手口の高度化・巧妙化が目立っています」

そのほか、有名なアーティストが出演するライブやフェス、スポーツの試合など、多くの人から注目を浴びるイベント時にも、「ライブ配信をうたう偽サイト」が散見されます。2024パリ五輪においても、開会式や競技のライブ配信の偽サイトが見つかっており、フィッシングサイトが目に触れる機会が多くなっているといえます。

そんな中、直近におけるフィッシング詐欺のトレンドとして、2024年10月に入ってからは銀行やクレジットカード会社以外に、消費者金融のフィッシングサイトが急激に増えているそうです。

「180日間利息無料サービス」、「5000ポイントをすぐにお受け取りください」など、魅力的なワードで警戒心を和らげ、フィッシングサイトへ誘導し、個人情報を詐取する手口が流行っていると森さんは言います。

ネット犯罪者の目的が「力の誇示」から「金銭の詐取」へ変化している

BBソフトサービス株式会社取締役執行役員・森尚久さん
BBソフトサービス株式会社取締役執行役員・森尚久さん

こうしたトレンドの変化が起きる背景に、「犯罪者の目的が昔と今で異なっている」と森さんは述べます。

「かつてはインターネットにおけるセキュリティインシデントには、トロイの木馬のようなコンピューターウイルスが主流でした。いわゆる“愉快犯”のような動機を持つ犯罪者が、自分の力を誇示するためにウイルスを撒き散らすことが多かったわけです。

しかし、最近では犯罪者が直接的に金銭を詐取する目的でネット詐欺を行うようになっています。先述したフィッシング詐欺のほか、お金だけ搾取して商品を送ってこない偽販売サイトによる詐欺なども非常に増加しています」

さらにフィッシングサイトは、大体24時間以内に閉鎖して行方をくらます確率が8割に上るとのこと。

「『俺がやったんだぜ』とアピールする昔のネット犯罪者とは違って、今では誰だかわからないうちに金銭を詐取して逃げるのが当たり前になっています。ある程度、ネット詐欺による成果を得た時点でフィッシングサイトを閉じて、足がつかないようにするわけです。被害者が警察に相談した時にはもうサイトがなく、証拠が追えない状況になっているんですね」

犯罪の温床になっているダークウェブでは、「フィッシュキット」と呼ばれるフィッシングサイトを簡単に作れるものが販売されているそうです。加えて、生成AIが台頭したことで、“逃げ足の早い詐欺サイト”が誰でも容易に複数作れてしまうことも、フィッシング詐欺増加の要因のひとつになっているかもしれません。

ネット詐欺に巻き込まれないためには「自衛の意識」が重要

こうしたネット詐欺にひっかからないためには、どのような対策が必要なのでしょうか。森さんは「フィッシング対策ツールの導入」と「見知らぬメールに触れないこと」だと語ります。

ネット詐欺専用セキュリティソフトウェア/アプリケーション

「弊社の提供するネット詐欺専用の『詐欺ウォール』は、国内のあらゆるネット詐欺サイトを自動検知・警告できるツールです。公的機関や自社収集したブラックリスト、専門家による詐欺サイトの構造や特徴の解析、機械学習で解析を自動化するという3つの検知エンジンで、詐欺サイト検知率は97.1%を誇っています。

このようなネット詐欺対策のツールを入れることのほか、迷惑フォルダに入ったメールは基本的に危ないものと認識していただいたほうがいいと思います。どうしても気になる場合は、送信人の確認や差出人のアドレスを確認すること。大手の金融機関であれば、メールでパスワードを聞いたりログインさせたりすることはほとんどなく、アプリケーションから開くことで未然に防ぐことができるでしょう」

完全なる対策が幅広くされていないからこそ、ネット詐欺に引っかかる人が多く、対策を講じても、しばらくすると犯罪者は新たな手口を考えてくるという“イタチごっこ”が続いています。

ネット詐欺に巻き込まれないためには、「自衛の意識を持つこと」が重要だと言えるでしょう。

これからもネット詐欺と向き合う森さんに、今後の展望を聞きました。

「世の中の時流として、フィッシング詐欺やワンクリック詐欺といったネット詐欺の認知が広がっているので、ユーザーにわかりやすいUI/UXにリニューアルすることを予定しています。詐欺ウォールというサービス名も、利用者が親しみやすいブランディングに進化させていきたいですね。

また、現在は1ユーザー3デバイスまでというライセンス形態ですが、今後はライセンス形態、役務形態なども柔軟に進化させて、犯罪被害や意図しない加担を防いでいきたいと考えています」

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