2025-08-11

SS「死後の世界幸せに満ちている」

2125年、人類価値観が一変した。

まりはある男性証言

事故により死の淵をさまよい、病院のベッドで目覚めた彼はこう言った。

「死後の世界幸せに満ちている」

それを聞いたとき天国にでも行ったのか、と周りの人々は笑うだけだった。それよりも、命が助かって良かったと。

数日後、彼は自死した。

ベッドには書き置きが残されていた。「幸せ世界に行く」と。

その少し後、世界複数地点で幼い子供たちが同じようなことを口走る、という奇妙な現象観測された。

子供たちはこう言っていた。「生まれる前は幸せだった」あるいは「ここは前よりもつらい世界だ」と。

死は怖いものだ。痛く、苦しいものだ──その価値観にヒビが入っていく。

何者かが人類に与えていた、"死への恐怖"という幕が、取り払われたようだった。あるいは、いままでまったくの未知であった死後の世界への橋渡しを受けたような。

「死は怖いものではなく、その先は幸せに満ちている」

この価値観は、若者を中心に急速に広まっていった。

自殺者は増加し、出生率はがくりと下がった。

人間は滅亡に向かっているのかもしれない。恐怖を取り払った何者かの手によって。

──それとも、とっくに限界だったのだろうか。人間は。我々の精神は。社会は。

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