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2025年1月 7日 (火)

独禁法と公益通報者保護法との交錯(上杉論文)

金融・商事判例2025年1月1日号(1706号)の判例紹介では東京高裁判決令和6年8月7日「事業者が公益通報を『理由として』解雇や不利益取扱いを行ったものではないと判断された事例」の判決全文および原審判決(千葉地裁判決令和5年11月15日)が掲載されていました。法改正が予定されている「不利益な取扱いからの救済(立証責任の転換)」とも深い関わりのある論点への裁判所の判断が示されたこともあり、きちんと理解をしておきたいところです。結論においては妥当なものかもしれませんが、公益通報者保護法の条文解釈への司法上のアプローチとしてはかなり進展した判決になっています。

ところで、上記1月1日号では、上記高裁判決を前提として、上杉秋則氏(元公正取引委員会事務総長)のご論文も掲載されています。題名は少し長いですが「独禁法が示唆する公益通報者保護法改正の方向性と令和6年8月7日東京高裁判決の及ぼす影響」。公益通報者保護法と独禁法の交錯する時代の保護の在り方について上杉先生の見解を述べたものであり、公益通報者保護法の解釈に公正取引委員会の考え方を採り入れるという点で強く共感する内容です。「今日のように企業のコンプライアンス経営やガバナンス向上への要請が高まった時代には、公益通報者保護法は独禁法と並ぶ重要な地位が付与されるべき」とのお考えにより、独禁法と公益通報者保護法との交錯について検討を加えておられます。

先日ご紹介した東京大学(大学院)の松井智予教授の「企業不祥事の発見時における役員の義務と権利について」(法曹時報76巻10号)では「会社法と公益通報者保護法との分担や双方の存在が双方の解釈論に与える影響が未知数である」とのことで、具体的事例を題材として、いかなる影響があるかを論じておられました。著名な実務家や学者の方々が、公益通報者保護法と商事経済法との関係について深く研究していただけるということが、公益通報者保護法の今後の実務への浸透という意味においても大きな意義があると思います。

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2025年1月 4日 (土)

今年も「グレーゾーン」を大切に(年初のご挨拶)

1月4日の全国紙一面はどれも「バイデン、日鉄・USスチール買収中止命令」の記事ばかりでした。昨年2月の「2023年度第3四半期決算説明会」の質疑応答では「政治家に反対されてクロージングできないのではないか」との質問に対して、日鉄さんは「米国はデュープロセスを大事にする国で、我々はそのデュープロセスを踏んでいる。また、我々もそうであるように、米国は透明性が非常に保たれた国だと思っている。」と回答しておられました。おそらくCFIUSが最終判断を大統領に委ねて、政治的合理性によって結論が出されるとは予想もしていなかったのではないでしょうか(私自身は、まだ決着がついていないと考えておりますが)。今年6月までに許認可がおりない場合には、日鉄側に違約金の支払義務が生じる・・・というのも、ちょっと納得いかないところではありますが。

本件に象徴されるように、今年は日本企業の経営環境において、さらに不確実性が高まるものと予想いたします。こんなVUCAの時代だからこそ、人間の種族保存本能として、X(Twitter)やインスタ、YouTubeのようなSNSによる「直感で白黒をハッキリさせる」ことに適したメディアへの依存度がますます高まるものと思います。SNSをもとに、直感による判断の9割は(たとえ二次情報だとしても)正しいでしょうから、生きていくためには誰もが白か黒か(何が事実なのか)、何が正義なのか、短時間で(他人の意見を参考にしながら)判断したい気持ちはとても理解できますし、それ自体は悪いことではないと思います。ただ、1割程度は大数の法則やベイズの定理、平均への回帰等、過不足ない資料に基づいて、自分の頭で考えないと最適解に到達できない問題もあるのではないでしょうか。

たとえば事実認定においても、またどこに正義があるのか、といった評価においても、おそらく無数の「グレーゾーン」があるわけでして、黒に近いグレーもあれば、真っ白に近いグレーもあり、そのグレーゾーンを探ることによって重要な経営判断も変わるはずです。そういった認定や評価のためには、自分が一次情報を取得したり、恥ずかしい失敗から反省したり、自分の知見で調べたり、他人と協議をする必要がありますね。企業の危機対応にしても、再発防止策の検討にしても、またガバナンス・コード対応についても、企業の置かれた環境と、その企業の組織風土によって最適解が異なるわけですから、グレーゾーンを洞察することへの関心を常に持ち続けていたい。さらに、上記バイデン氏の判断と同様、経営判断は理屈だけで変わるはずもなく、それ以外の「何らかの力学」によって変わるわけでして、そこに光を当てたい。そのような姿勢を少しでも、このブログで表現していきたいと思います。本年もよろしくお願いいたします。

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