改正障害者差別解消法の施行と6月株主総会対策
銀行の取締役(監査等委員)として、支店における「改正障害者差別解消法『障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律』への対応実務」に万全を期している様子を確認することがありますが、一般の事業者においても4月に施行された改正法への対応は(銀行ほどではないとしても)ある程度は検討されているのでしょうか。
時節柄もっとも関心があるのが上場会社における定時株主総会対応です。差別が禁止されたり、合理的配慮が求められる対象者(身体障害、知的障害および精神障害のある株主)は公的な認定を受けている障害者か否か(たとえば「障害者手帳を持っている」)で判断するのではなく、申告者との建設的対話によって事業者が判断しなければならないので、きちんと対策をしておく必要がありますね(信託銀行や法律実務家による総会対策セミナーではどのように解説されているのでしょうか)。とりわけ知的障害者および精神障害者(「発達障害者」を含む)の方々は、目に見えない障害を抱えている少数株主の方が多いので、障害者雇用促進法におけるものと同様に「合理的配慮」のための建設的対話が求められます。上場会社の定時株主総会には、障害者差別解消法2条2号の「社会的障壁」がたくさんありそうなので要注意です。
具体的には障害者差別解消法8条1項(事業者による不当な差別的取扱の禁止)、同法5条(合理的配慮のための事業者による環境整備-努力義務)、同法8条2項(事業執行上の障害者に対する合理的配慮-法的義務)あたりの解釈と実務対応が重要です。企業における株主総会の開催も「事業の執行」にあたるので、①招集通知の記載、②障害者による事前表明の有無、③事前表明なき場合の当日の現場対応、「字幕」や「手話」の準備、当日議事の要旨説明の可視化、④バーチャル株主総会(参加型含む)の運営上の聴覚障害者への対処などが5条対応、8条対応として必要かと。当日の現場対応(8条2項)としては、株主ではない介護者同伴をどうするか、障害者のための洗面所の確保や株主権行使のための付き添い社員の体制整備等もありそうです。
法令違反があった場合、主務大臣による行政処分や株主に対する(役職員および事業者の)損害賠償責任が発生する可能性があるほか、(SNS等を通じて)「人権への配慮を欠いた企業」としてレピュテーションリスクの顕在化は避けられないでしょう。「環境の整備」は法的には努力義務ですが、「環境整備に後ろ向きな企業」というレッテルは「ビジネスと人権」が尊重される時代に貼られたくありません。したがって5条関係では障害者差別解消のための指針(ポリシー)の策定と従業員の研修・周知は必須かと(←最近は、障害者であることを社会に示す携帯マークがいろいろとありますので、対応する社員はマークの種類をひととおり理解しておくべきです)。その他、リスクマネジメントの視点からは、障害者株主の要求を拒絶する場合に、なぜ障害があることを根拠に拒絶できるのか(もしくは事業者による代替提案に応じなければならないのか)、その正当理由について事前に検討しておくことが必要でしょう。
また、これは障害者差別解消法とは直接関係ありませんが、株主総会参考書類等の電子提供が当たり前となりますと、株主は会場で堂々とWIFI接続中のスマホやタブレットの画面を見ることができますね。そうすると電子提供された書面の画面をみているのか、それともカメラで外部にWEB実況中継をしているのか、外部からはわかりづらくなります。議長の議事進行権限の行使がとてもむずかしい状況になりそうですね。