企業法務関連の知人の皆様は、大阪大学で開催されていた日本私法学会に参加された方が多かったようですが、私は地域のだんじり祭りと孫の世話であっという間に3連休が過ぎてしまいました(笑)。少子高齢化の波は「だんじり祭り」にも及んでおります。私の地域でも引手が少なくなったことでだんじりの統廃合が進んでおり、今年はやや寂しい思いをしました。
さて、10月14日の朝日新聞デジタルのアクセス1位の記事によりますと、熊本県の高級洋菓子店がショコラの賞味期限を改ざん(賞味期限のラベルの張替え)を行っていたとして、熊本市保健所から調査がなされていることが報じられています(朝日新聞デジタルの有料版記事はこちらです)。公益通報が端緒だそうですが、朝日新聞デジタルのこちらの記事などを読みますと、組織ぐるみで行われたことがわかるチャット画像なども公開されていますのでおそらく2号通報だけでなく3号通報(マスコミ等への通報)もなされていたのでしょう。
何が「公益通報事実」に該当するかといいますと記事にもあるように食品表示法違反ということになります。消費期限違反とは異なり、賞味期限を超えた食品を販売しても法令違反には該当しませんが、さすがに「賞味期限の改ざん」となりますと、そのことによって健康を害するおそれが生じる場合には食品表示法違反となる可能性が出てきますし、さらに悪質であれば詐欺罪にも該当しうるように思います。重要なのは、明白な法令違反事実とはいえなくても「法令違反の可能性がある」というだけで行政機関は2号通報として動くという点です。
ちなみに2022年1月に発覚したセブンイレブン店舗での「おでん」賞味期限切れ販売については、従業員のyoutube投稿が端緒となり、セブンイレブンが謝罪しましたが、このようなSNS投稿が「公益通報」にあたるかどうかは議論の余地があります。
洋菓子店の代表者の方は「現場でそのようなことが起きていたとは知らなかった」と話しているそうですが、私からしますと外部へ公益通報がなされるまで社内通報はなかったのか?という点に関心が向きますね。従業員は50名程度の事業者ということなので公益通報への対応体制整備義務は努力義務ではありますが、やはりこういった事例をみると中小規模の事業者においても通報制度を整備しておくほうが良いのではないかと思います(たしかに「チョコなんて味は変わらないのだから、何度かラベルを張り替えても問題ないよね」と考えている従業員もいるかもしれません。ただ、名店であるがゆえにプライドが許さないと考える従業員もおられるはず)。
なお、最近も食品の賞味期限に関する改ざん事例はよく聞きますが、そもそも美味しく食べることができるのに賞味期限を過ぎたからといって廃棄するのはとてももったいない、ということで再発防止策の一環として「もったいない」をできるだけなくす努力をすべきではないでしょうか。スタバが昨年から始めた「フードロス削減プログラム」のように、売れ残りを削減するために値引き販売を行うとか、保存方法包装を変えることで合法的に賞味期限を変更する、といった取り組みはかなりの事業者でも行われていますね。もちろん資源配分も必要ではありますが、ESG経営を推進することが、同時に不祥事防止策になるわけで、組織風土も変わるのではないかと考えております。
(追記)10月16日の熊本市保健所による記者会見の様子をみると、「シール貼り替え」が不適正なのではなく、科学的・合理的根拠なく賞味期限を表示していたことが食品表示法(および食品衛生法?)に違反する、というロジックのようですね。昨日、私がブログで書いたように、たとえば保存方法包装紙を変える、保存場所を変える等によって、賞味期限が合理的根拠に基づいて変更できるのであればシールの貼り替えも適正ということになるはずです。しかしそうなると「改ざん」と「適正なシール貼り替え」との境界線は極めてあいまいとなりそうです。ただ、この洋菓子店さんのように「夢を売る」商売であれば、そもそも「賞味期限シールを貼りかえる」という行為自体がレピュテーションリスクを顕在化させますよね(^^;)。
(10月17日追記)読者の方より「包装紙を変えることでなぜ賞味期限を変えることができるのか」との問い合わせを受けまして、(保存技術を高めた包装容器のことを指したものの)表現方法が不適切と思われたので訂正いたします。失礼いたしました。