一般的には、乳幼児から幼児期にかけて、様々な原因で発達の遅れなどの障害がみられるものを言います。発達障害の場合、本人の怠慢や家族のしつけ、環境などが原因ではなく、基本的に脳の機能の障害から起こります。発達障害者支援法(2005年施行)では「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義されています。
発達障害の代表的なものとして、広汎性発達障害(PDD)、学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(AD/HD)があげられますが、同じ診断名でも、知的障害の有無、子供の個性や発達の状況、年齢など、様々は要因によって多様な症状を呈します。正確な診断ができる専門医はごく少数なため、各専門機関への相談が重要です。
はったつ‐しょうがい〔‐シヤウガイ〕【発達障害】
発達障害
発達障害
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/12/11 18:56 UTC 版)
発達障害 | |
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概要 | |
診療科 | 精神医学、臨床心理学 |
分類および外部参照情報 | |
MeSH | D002658 |
発達障害(はったつしょうがい、英: Developmental disability、DD)は、身体や、学習、言語、行動の何れかにおいて不全を抱えた状態であり、その状態はヒトの発達期から現れる[1]。
- 原因は先天的な脳機能の偏りであることがほとんどで、発達の偏りに伴う能力の欠落は生涯にわたって治ることはない[1][2]。大抵の場合、認識がずれていて、自己管理やコミュニケーションが困難かつマニュアル通りの対応しかできず、特定の物事に対する過剰な興味関心も現れるため、社会生活に多数の困難が生じる[* 1]。
- 文字上は「発達」の障害であるが、発達が著しい成長期までに発覚するとは限らず、グレーに近い軽度などの場合は特に、成人期以降の社会生活の中で大人の発達障害として発覚することもあるほか、発達障害より先に二次障害である精神疾患が診断されることも多い。義務教育段階の通常の学級で発達障害者は6.5%程度の在籍率[* 2]といわれ、大人の発達障害に移行する場合も多いことから、様々な組織で頻繁に見られる障害であるといえる[3]。大人の発達障害の場合、勤務成績が著しく低く成長が無いことから退職勧奨の対象になることが多く[4]、会社を自主退職するか解雇され非正規労働者や無職などの低所得者になる可能性が高い[5]。また、企業の競争力強化のため、採用段階でコンプライアンス違反やパフォーマンス不良などの人材リスクを排除するための適性検査が数多く考案されているが、発達障害者を発見し、採用を回避するための設問も設けられている[6][7][8][9]。
- 専門家でない者が直感的に理解できるほど簡単な障害ではなく[* 3]、法律上、発達障害者として認められるためには、医師による精密な検査と診断が必要である[* 4]。
定義
日本の行政上の定義では、発達障害者支援法が定める「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥・多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」とされる[10][11][12][13]。定義上、背景となる障害は様々であることから、発達障害の認定は専門家でも難しい判断となる。2013年時点で小・中学生に77,882人の発達障害者が確認されており、発達障害への理解が社会で急速に進んでいることから、過去20年における統計では増加傾向にある[14]。特に、昭和以前の時代には変わり者,とんちんかん、やんちゃ、わんぱく等と一般市民の間で曖昧に分類された人々が、医学の進歩により発達障害者として理解されるようになったことが大きい。境界知能といわれる、知的障害者と見なされないが健常者としては低水準の知能指数(IQ)しか持たない者についても、生活の質(QOL)が著しく下がっている可能性もあり、一般人への啓蒙や社会制度の隙間を埋める対策が急務となっている[15]。
学術的な分類での発達障害は、知的障害なども含むもう少し広い分類である[11]。そうした診断分類では『ICD-10 第5章:精神と行動の障害』では、「F80-F89 心理的発達の障害」「F90-F98 小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害」、米国精神医学会による『精神障害の診断と統計マニュアル』 (DSM) では、第4版 (DSM-IV) では「通常、幼児期、小児期、または青年期に初めて診断される障害」、DSM-5では神経発達症となる。
義務教育段階の通常の学級で発達障害者は6.5%程度の在籍率という文部科学省の調査結果と、成人期に障害を持ち越す例もかなり多いことを考えると、社会の様々な組織で頻繁に見られる障害であるといえる[3]。この障害は社会生活を著しく困難にするため[5]、退学・退職などに繋がりやすく、ワーキングプアや引きこもりの発生にも関係している[16][17][18]。
成年以降の発達障害を大人の発達障害と呼ぶ。不足した能力が周囲の環境にカバーされ、決まり切ったスケジュールに沿って与えられたタスクだけ行っていれば良い学生時代に目立った問題が出なくても、暗黙の前提を理解して多様なタスクを遂行する必要がある社会人生活で多数の問題が発生し、発達障害の保有が発覚することもある(詳しくは大人の発達障害を参照)[19]。また、障害という言葉の重いイメージから、本人あるいは周囲が発達障害と認めないことも多々ある[19]。
背景に脳機能の偏りがあり、原因も症状も個人ごとに様々であるため、単にミスが多かったり社交的でないからといって発達障害に含めることはできない[* 5]。
原因
発達障害の原因は多岐にわたり、不明な点が多く残されている。複数の要素が関係し、遺伝的、胎児期の保健状態、出生時の環境、感染症、環境要因などが挙げられている[1]。双子研究により、遺伝要因とそれ以外の要因の影響度を算出することが可能で、自閉症スペクトラム障害とADHDに関しては遺伝要因の影響が大きいと分かっている[20][21][22]。 大部分の発達障害は乳児出生前に形成されるが、一部は出生後の外傷、感染症、その他の要素に起因することもある[1]。原因は多々あるが、たとえば以下が挙げられる[23]。原因の同定には複数の検査を組み合わせる必要があり、検査コストが高く、誤診の頻度も高くなる傾向にある。従って、専門家でない者が容易に扱えるような障害ではない。
- 遺伝子や染色体の異常 - ダウン症候群[1]、レット症候群など
- 妊娠期の物質使用(たとえばアルコール) - 胎児性アルコール・スペクトラム障害など [1]
- 妊娠期におけるある種の感染症 - サイトメガロウイルス[1]など
- 未熟児出産[1]、低体重出産[1]
分類
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発達障害の用語は1963年にアメリカで法律用語として作られ、1970年代に日本に入ってきたとされる[12]。
21世紀となり、精神医学で主に使われる国際的な診断分類は2種類ある。学術的分類である。 WHOによる国際疾病分類である『ICD-10 第5章:精神と行動の障害』では、以下が該当する。
- F80-F89 心理的発達の障害
- F90-F98 小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害
- 神経発達症群(Neurodevelopmental disorder)
の一部が相当する。このようにICD-10とDSM-5では分類体系が一致していない[24]。DSM-5にはICD-11が、DSM-IVにはICD-10が対応するため、これらは対応関係にあるものではない。
DSM-IVでは「通常、幼児期、小児期、または青年期に初めて診断される障害」が同様の分類である[25]。これらは、以降で挙げるような、広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、知的障害だけでなくもう少し広く含まれている分類である。
そのほか、アメリカ疾病予防管理センターのサイトでは以下が挙げられている。
日本での分類
日本発達障害福祉連盟の定義では、知的障害(精神遅滞)を含み、それを中核として生涯にわたる支援が必要な状態である[12]。東京都多摩府中保健所の文献では、これを「広義の発達障害」の定義とし、「狭義の発達障害」の定義は発達障害支援法のものとして、以下である[12]。狭義というのは日本の行政上の定義であり[11]、文部科学省でもこの定義である[27]。学術的な定義とは一致していない[27]。
狭義の発達障害
- 広汎性発達障害
- 学習障害
- 注意欠陥・多動性障害
- 協調運動の障害
- 言語の障害
広義には、知的障害、先天的な運動発達障害、てんかんが含まれる[12]。
厚生労働省で開催された、2005年3月の第3回「発達障害者支援に係る検討会」では、定義について検討している[28]。
日本の発達障害者支援法(2005年4月制定)によれば、第2条1項で『この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう』とされる。2項で発達障害者、18歳未満では発達障害児と定めている。
通知文が別途出ている。
- 「厚生労働省・文部科学省連名事務次官通知 17文科初第16号厚生労働省発障第0401008号」では、『法の対象となる障害は、脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもののうち、ICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)における「心理的発達の障害(F80-F89)」及び「小児<児童>期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害(F90-F98)」に含まれる障害であること』としている。
1980年代以降、知的障害のない発達障害が社会に認知されるようになった。知的障害が含まれる発達障害は法律上は知的障害扱いであるため、単に発達障害という場合は特に知的障害のないものを指すことがある。
このうち、学習障害 (LD)、注意欠陥・多動性障害 (ADHD)、高機能広汎性発達障の3つについては、日本において「軽度発達障害」と称されてきた。この「軽度」とは「精神遅滞に該当しない」という意味だが、発達障害が軽度であると誤解を招いたため、現在では便宜的に「(軽度)発達障害」として分類することがある。なお、高機能広汎性発達障害(高機能PDD)や高機能自閉症という名称も存在するが、これらも知能が精神遅滞に該当しないという意味の「高機能」である。また、高機能自閉症の診断基準は明確ではなく、臨床においてはアスペルガー症候群と厳密に区別する必要はないとされている[29][要文献特定詳細情報]。
明確な判断は、精神科を標榜する精神科医の間でも大学でこの分野を学んでいないなどの理由で困難とされている。各都道府県や政令指定都市が設置する、発達相談支援施設で、生育歴などがわかる客観的な資料や、認知機能試験(IQ検査、心理検査等を含む)などを行って、複数人の相談員や心理判定員などが見立てとなる判断材料を出す形で、数少ない専門医師が判断し、どのような治療が必要か、SSTが必要かなどの材料を精神科医に提供する、というケースが多い。
環境変化に弱く、環境への適応も苦手とされる。精神保健研究所の研究員は、「極論だが、発達障害のある子供たちは『日常的に災害のような事態』を経験しているようにも思える」という表現している[30]。
軽度発達障害
2000年頃からの日本において、「軽度発達障害」という概念が、「精神遅滞」「身体障害」を伴わない発達障害として杉山登志郎により提唱された [31]。これは高機能広汎性発達障害(高機能PDD、アスペルガー症候群や高機能自閉症などを指す)、LD、ADHD等、知的障害を伴わない(すなわち総合的なIQが正常範囲内)疾患概念を指して使われる[32](ただし、ADHDについては、別途知的障害を併発するケースがある)。ここでいう「高機能」という語も、「軽度」という言葉同様、知的障害のないという意味でつかわれている。「軽度」と呼称される根拠は、「知能が比較的高い」ためである[32]。
厚生労働省はこの用語について、「世界保健機構 (WHO) のICD-10分類に存在しない」、「アメリカ精神医学会のDSM-V]に存在しない」ことを指摘し、「誰がどのような意図で使い始めたのか分からないまま広がった用語である」として注意を促している[33]。また、その語感から、「障害の程度が軽度である」と誤解されがちだが、上述の理由から、必ずしも障害自体が軽度とは限らない[* 6]。文部科学省[* 7]も2007年、「『軽度発達障害』の表記は、その意味する範囲が必ずしも明確ではないこと等の理由から、今後は原則として使用しない」と発表している[34]。
「軽度」といわれるが、罹患者の抱える問題は決して軽くはなく、早期の理解と適切な支援が望ましいとされる[35]。理解、発見が遅れた場合、いじめ、不登校、非行など二次的な症状を発生させることがある[35]。
診断
子供が期待される発達段階に達していない場合、発達障害を疑うことができる。問診および遺伝子検査などが、鑑別疾患を除外するために行われる。
障害の程度は、発達年齢(developmental age)と実年齢との相違を基準として定量化することができる。このスコアはDQ (developmental quotient) として以下に定義される[36][37]