報道規制
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/11 20:57 UTC 版)
少年事件の審判の非公開と少年の実名報道の禁止は、日本国憲法の保障する表現の自由を侵害する可能性があるとして、国民の知る権利の観点から少年事件と表現の自由の関係を考え直し、少年法61条の改正を提言する主張もある。 しかしながら、少年法61条の保護法益は、一般に名誉・プライバシー、社会復帰の利益、少年の発達成長権、そして適正手続に求められる(最判平成15年3月14日民集57巻3号229頁参照)。このため、表現の自由を理由に少年法61条による保護を後退させるには、これらの保護法益を上回る公共性・公益性が必要となる。 ところが、犯罪・非行内容(犯行の手口等)についての情報とは異なり、少年の身元情報が、公共的な議論をするために必要になることは基本的に皆無である。なぜならば、社会を発展させるために必要なのは原因行為の分析であり、個々の行為者の身元特定情報は関係がない(このことは、実は成人の場合であっても変わるところはない。)。したがって、少年本人の実名報道が公共性を持つことは皆無又は僅少であるといえる。 このように、報道機関が、公共性がないにもかかわらず実名を公表する動機は、「少年を社会から排除したい」というところに収斂されると指摘され、そのような動機でなされる実名報道は「『いじめ』でしかない」と批判される。 被害者のプライバシーがさらされる状況に対して疑問を呈する意見も出されている。 しかしながら、被害者のプライバシー保護を求めるのであれば、本来であれば被害者も匿名とする方向で議論が行われるべきであり、被害者のプライバシー侵害を理由に加害少年の実名報道を主張するような思考方法は、心情的には理解できなくはないとしても、もはや法律論とはいえないと批判されている。すなわち、目指すところは権利の擁護・保障であって、お互いが平等に権利を侵害されるべきだ、というのではまるで問題の解決につながらないのである 議論を呼んだ例として、2006年(平成18年)に発生した山口女子高専生殺害事件がある。被疑者の少年(事件当時19歳)が自殺した状態で発見されたため、たとえ犯人だった場合でも更生の可能性はないため、匿名にする必要性がなくなったと独自の法解釈を示して、一部の報道機関(日本テレビ、テレビ朝日、讀賣新聞)は被疑者の遺体発見後から顔写真と実名を報道した。これに対して杉浦法相は「死亡後も保護の対象から除外されない」とし、「報道の際は慎重に対応していただきたい」と述べた。
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