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(書評)逃走

著者:薬丸岳

逃走逃走
(2012/10/11)
薬丸 岳

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入間市でラーメン店を営む男性が殺害された。現場での証言からあがった容疑者は、その日に店に来ていた青年・小沢裕輔。早期解決が確実視された事件だが、裕輔は逃亡を続ける。決して、逃げ延びたい、という意思が感じられない裕輔の逃亡の意図とは……
前作『死命』もそうなのだけど、だんだんと、著者の作品は、社会問題などについて切り込んだ作品から、純粋なエンタメ作品にシフトしているように感じる。ぶっちゃけ、小豆島やら、南紀白浜やら、と観光地を巡っていて、2時間ドラマっぽい(笑)
というと、つまらない、と続きそうなのだけど、読ませる作品なのは確か。
冒頭に書いたように、犯人は裕輔であり、逃亡している、というところから始まる。しかし、妹や友人に残した言葉などから、彼は「したいことがある」ということで、逃げ切るのが目的とは考えづらい。そして、彼の足取りを追う中で、被害者であるラーメン店店主は何者なのか? 加害者である裕輔との接点は? その裕輔ら兄妹の家族の過去……へと話が転がっていく。テンポの良さとリーダビリティの高さがまず素晴らしい。
さらに、裕輔ら兄妹と、被害者である店主の間に何らの繋がりがある、っていうのは最初から明らかだし、それが悲しい繋がり方なのだろう。悲しい過去があるのだろう。というのも予想できる。出来るからこそ、それがどうなるのだろう? という関心に繋がっていく。この辺りの読者の心を掴む技術が冴えている。おかげで、文字通り、一気に読まされた。
タイトルの「逃走」の意味。一次的には、当然、犯人である裕輔の行動。でも、実は、彼だけでなく、彼の周囲の人間が皆、現実から逃走していた、という風になるのだろう。それぞれが、本当にやってしまったことから目を背け、見ないようにした、その結果なのだから……。先に書いた予感を裏切らない真相、というのも悪くない。
ただ……逆にミステリ的なひっくり返しとかの印象はない。また、裕輔は結構、警察に情報を流したりしながら逃亡を続けるのだけど、それってかなり無理があるようにも感じられる(数日前に、ここにいた、と判明していたら、公共交通とか、主要道路の監視カメラ映像などで次の逃走先は簡単に絞れるはず) さらに、警察は被害者と加害者の接点の端緒を早い段階で見出している。だったら、その段階で被害者の写真とかで、被害者の正体にも気づけそうじゃないか? とも思った。なんか、よくよく考えると結構、無理やりな部分がある。
読ませる力そのものはあるので、楽しめたのは確かなのだが……不満も残る、という感じだろうか。

No.3086

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