わっしょい!妊婦

小野美由紀 CCCメディアハウス 2023年7月



 

 

がんばれ、生きろ。どすこい女!
すべての女にハードモードな社会で、子を産むということ。

「じゃ、ママ、診察室Dへ」
……マ、ママぁーーーー??!! 
フレディ・マーキュリーのように、私は心の中で絶叫した。


35歳、明らかに“ママタイプ”ではない私に芽生えたのは「子どもを持ちたい」という欲望だった。このとき、夫45歳。子どもができるか、できたとしても無事に産めるか、産んだとしてもリタイアできないマラソンのような子育てを夫婦で走りきれるのか。それどころか、子どもが大きくなったとき、この社会は、いや地球全体は大丈夫なのか? 絶え間ない不安がつきまとうなかで、それでも子どもをつくると決めてからの一部始終を書く妊娠出産エッセイ。




作者の小説「 ピュア」が印象的だった ので、この作品を読んでみた。

妊娠出産の自らの体験談。

不安、葛藤、疑問、喜び……
大胆かつ詳しい表現!
かなりきわどい所まで、包み隠すことなく描かれている。

その表現に笑える所が多々あったが、社会や夫に対する不満も底なしだ。


自分自身の出産のことを思い出しながら読んだ。

私の時代は、出生前診断も、 無痛分娩も、夫の立ち会いもなく、出産するま男女の区別もわからなかった。
医学が進んだ分、いろいろな選択を迫られていると感じた。

作者は、どこで産むかを考えて決めたのに、思わぬ事態に……
何が起こるかわからない。

それでも、
生まれてきた赤ちゃんの顔を見た瞬間、今までの苦労は、ふっ飛んでしまう。
赤ちゃんとはそんな存在だ。

作者は、 この経験をしたことで、明らかに変わったと思う。

下段に夫のつぶやきが載っていた。
男性側からの冷静な意見がわかる。
ほっこりした。

お気に入り度⭐⭐⭐⭐

魂の歌が聞こえるか

真保裕一 講談社 2024年3月



 

 

素晴らしい歌を世に送り出せ!」
新人バンドのデビューに奔走するレコード会社。契約を勝ち取り、狙うはアニメの主題歌。次々と難題がふりかかり、予想外の事態に。
え……? 彼らは何かを隠してる!
迫真の音楽業界ミステリ

「我々はアーティストを裏から支える役回りだ」
「耳ってのは脳と直結してる。音を聴くんじゃない。脳で読み取れ」
「才能はあっても、芽の出なかった者が死屍累々の業界だからね」
「アーティストを知るのは初歩。血肉になるまで一緒に歌いあげろ」

扱いづらいベテランを売りこみ 社内外の駆け引きにも惑わされる。新人の才能を見出した若き社員が業界の荒波に立ち向かう!





カノンミュージックで働く若手社員の 芝原修は、ベテランミュージシャンの御堂の担当になる。
御堂は、ヒット曲を世に送り、新陳代謝の激しい業界を13年も走ってきたが、今は低迷していいた


また、芝原修は、送られてきたデモ音源の中に素晴らしい曲を見つけ、名もなき新人バンドのベイビーバードのデビューに力を注ぐ。


このベイビーバードは、本名と顔は明かさずに音楽活動をしたいという。

それはなぜなのか?

というミステリー。


音楽業界のたいへんさを知ることができた。


今は、AIにより、 盗作疑惑も簡単に調べられる。

週刊誌の報道により、人気が左右される。


人気ミュージシャンとして活動続けることの難しさを感じた。




芝原修は、ミュージシャンに寄り添っていて、会社との板挟みになりながらも、ミュージシャンのことを信じている姿がよかった。


ベイビーバードの仲間を思う強い気持ちに感動した。



お気に入り度⭐⭐⭐⭐

天国からの宅配便 時を超える約束

柊サナカ 双葉社 2024年4月



 

 

依頼人の死後に届けものをするサービス「天国宅配便」の配達人・七星が贈る感動のシリーズ第三弾!
姉を許せないまま生き別れた女性に届いた小包み。高校生が通う大好きな食堂の営業最終日。
子供の頃ファンレターを送った漫画家からの思いがけない返事。老人が美術展で知り合った少年と交わした〝賭け〟。
心温まる四編+エピローグを収録。




この作品、シリーズもので、以前に2作品あることを知らずに読んだが、とてもよかった。


依頼人の死後に届けものをするサービス「天国宅配便」の配達人・七星は、少しの手がかりから、配達先を探す。その仕事ぶりに感心。


受け取った人は、思いも寄らない遺品をもらって、戸惑うが、それが新しい発見につながる。



パンドラの秘密箱

弓月の姉陽子は、結婚式の日に、映画の「卒業」のラストシーンのごとくマルコという男が結婚式場から新婦陽子を連れ去る。そんな姉に弓月は昔から振りまわされていた。


食堂ミツコ最後の日

高校生の中江路真智は大好きな食堂のことをSNSでつぶやいたことから、今までお馴染みさんしか訪れなかった食堂に客が押し寄せるようになり……


いつかのファンレター

小学生の時に 月刊誌の漫画にファンレターを出していた。

その作者から遺品が届く。


孔雀石の母子像

戸倉勝義は招待券をもらったので展覧会を見に行ったが、 文部科学大臣省をとった絵を見ても良さがわからないでいた。その絵の前で美大を目指している高校生と言葉をかわす……



今話題になっているSNSの炎上、闇バイトなどの話も盛り込まれていた。


知人や家族のおもわぬ一面を知ることができたり、新しい家族との付き合いが始まったり……

人生を見直すきっかけとなったり……


優しい気持ちになる物語だった。



 お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐



 


あの空の色がほしい

蟹江杏 河出書房新社 2024年の6月



 



お絵描きが大好きなマコは小学四年生。ある日、風変わりな家に住む、近所で変人と噂される芸術家に、絵を習いたいと頼み込むが !? 二人の奇妙な交流を描く落合恵子さん絶賛の感動小説!





マコは絵を描くのが大好きな女の子。

思ったことをすぐ言ってしまうし、行動にうつすし、片付けのできない子だった。


マコは、自分から頼み込んで、魅力的な家の美術教室に通い始める。


マコに絵を描くことを教える吉本太。

マコのことを唯一無二の存在と言うママ。

マコは天才と絵のことを褒めるパパ。

友だちのユウ。

彼らに囲まれて、のびやかに過ごすマコの姿があった。



しかし……

給食委員会での出来事……

「普通」って何だろう?

理不尽だと思うことがあった時、別の方法で向き合ってほしいというママの言葉は、マコの心に届いただろうか。


吉本太は、芸術のことに夢中で家族のことは二の次。孤独な芸術家といった印象だ。

それでも、マコといる時は、「へたくそ」といいながら、表情が柔らかかった。


変人とうわさされている吉本太とも、普通のように付き合いし、交流を深めていくマコの両親がすてきだ。


途中、悲しい出来事があったけど、最後の方、思わぬ出会いがあって、よかったと思う。


芸術は奥深いと思った。



気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐





白紙を歩く

鯨井あめ 幻冬舎 2024年10月



 

 

天才ランナーと小説家志望。人生の分岐路で交差する2人の女子高生の友情物語。

ただ、走っていた。
ただ、書いていた。
君に出会うまでは――。

立ち止まった時間も、言い合った時間も、無力さを感じた時間も。無駄だと感じていたすべての時間を掬い上げる長編小説。


「あなたをモデルに、小説を書いてもいい?」
ケガをきっかけに自分には“走る理由”がないことに気付いた陸上部のエース、定本風香。「物語は人を救う」と信じている小説家志望の明戸類。梅雨明けの司書室で2人は出会った。
付かず離れずの距離感を保ちながら同じ時間を過ごしていくうちに「自分と陸上」「自分と小説」に真剣に向き合うようになっていく風香と類。性格も好きなことも正反対。だけど、君と出会わなければ気付けなかったことがある。

ハッピーでもバッドでもない、でも決して無駄にはできない青春がここに“在る”。



定本風香は陸上の選手。

本を読むのが苦手。読書家に憧れている。

 定本は、ケガで走れなくなり、走る意味がわからなくなり、「走れメロス」を読んで答えを見つけようとする。


小説家志望の明戸類。

学校の司書室に入り浸り、小説を書いている。

「物語は人を救う」と信じている。

運動は苦手。マラソンは友情破壊スポーツと思っている。


この正反対のふたりが出会った所から物語は始まる。

明戸の伯母の店「アトガキ」でふたりは過ごすようになる。

といっても、定本が本好きになるわけでもなく、友情を育むわけでもなく、ふたりの考え方はすれ違っている。


自分の生い立ちからか、ハッピーエンドが書けないと悩む明戸。

走る意味が見つからない定本。


「人生はストーリー」

「人生は一冊のメモ帳」

どちらの考えも共感できる。


いろいろ悩み、考える時間こそが重要なのだと思う。


ふたりを否定しない大人の関わり方もよかった。


ラスト、マラソンは「友情破壊スポーツ」という考え方が変わってよかった。

つかずはなれずのふたりの関係がよい。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐



魔者

小林由香 幻冬舎 2024年8月



 

 

誰も知らないあなたの過去が、もし、小説で暴かれていたらーー。
言葉で私たちを攻撃する魔者は誰だ?
SNSの炎上、加熱する週刊誌報道……人の不幸を喜ぶ人間がいる。
──お前たちを守るため、人間を喰おう。そうしよう。




プロローグから、 不穏な空気が漂っていた。

誰も知らないはずの自分の過去が小説となって いたとしたら、おそろしい。
週刊誌記者の柊志は、自分は秘密を暴く側の人間だと安心していたが、暴かれる側にもなりうると、不安になる。
柊志は、過去を封印してきたが、小説のことが気になり、過去について調べ始める。

加害者家族と被害者家族の苦悩は計り知れない。
自分が罪を犯したわけではないのに、いじめがおこったり、不可解な出来事が続く。
重い内容の話だった。



週刊誌は事実を報道。

小説は事実でなく創作でよい。

どこまでが事実なのだろう。


プロローグとエピローグ、全く同じ話だが、違う物語に思えてきた。

ズドンと重い内容だが、上司に救われた。

お気に入り度⭐⭐⭐⭐


ウバステ

真梨幸子 小学館 2024年9月



 

 


逗子の実家に独りで暮らす駒田世津子は小説家。20年前、自身の作品『ウバステ』がTVドラマ化された縁で、元TV局プロデューサーの小野坂哲子、シナリオライターの舘川信代、女優の千田友枝、監督の妻だった谷崎寿々の5人で食事会を続けている。世津子の還暦パーティから三年たった冬、寿々が千駄木のアパートで孤独死したという知らせが入った。謎多き死に一同は憶測をめぐらす。年が明けると、寿々の元夫である梶谷も不審死を遂げた。食事会のメンバーにはそれぞれ、2人から遺書めいた年賀状が届いていた。



20年前のドラマ「ウバステ」の関係者5人が今も集まって食事会を続けている。
そのうちのひとりが孤独死する……

孤独死した 時の身元確認とか、引取先とか、住んでいた住居の後始末とか、問題が多い。

たいへん!



おひとり様の終活。


読んでいくつうちに、だんだんとおそろしくなってきた。



高級老人ホーム「ユートピア逗子」

お金のある者と別館の入居者の待遇の違い……

これはひどすぎる。


お金は必要。それに加えて健康でないといけないと思い知らされる。


おひとり様でない場合、遺産相続で、もめることもある。


終活ノート、元気なうちに、書いておかなければーという思いが強くなった。



お気に入り度⭐⭐⭐


松岡まどか、起業します

AIスタートアップ戦記

安野貴博 早川書房 2024年7月



 

 

日本有数の大企業・リクディード社のインターン生だった女子大生の松岡まどかはある日突然、内定の取り消しを言い渡される。さらに邪悪な起業スカウトに騙されて、1年以内に時価総額10億円の会社をスタートアップで作れなければ、自身が多額の借金を背負うことに。万策尽きたかに思われたが、リクディード社で彼女の教育役だった三戸部歩が松岡へ協力を申し出る。実は松岡にはAI技術の稀有な才能があり、三戸部はその才覚が業界を変革することに賭けたのだった――たったふたりから幕を開ける、AIスタートアップお仕事小説!





内定取り消しを言い渡された松岡まどかが、

どんな内容の会社にするのかの展望もないまま、起業するなんて、なんて無謀なと思った。


しかし、やり手の三戸部歩の協力を得て、なんとか会社を立ち上げる。



自分の得意なことは何なのか?何をしたいのかを真剣に考える。



順風満帆とはいかない経営、さまざまな問題が持ち上がる。その時、どんな決断をするのか?

いったいどうなっていくのかと、ハラハラしながら読んだ。


今の時代にあったお仕事小説。

とても面白かった。



お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐


ブラザーズ ・ブラジャー

佐原ひかり 河出書房新社 2021年6月



 

 


父の再婚で新しい母・瞳子さんと弟・晴彦と暮らすことになった、高校一年生のちぐさ。
ある日、晴彦がブラジャーを着けているところに遭遇する。
「ファッション! ふつうにおしゃれでやってるんだよ! 」
「うそ! いったいブラのどこがおしゃれだっていうのよ」
「どこって……。デザインとか、形とか、おしゃれじゃん……。刺繍だって、すげえし……」
戸惑いながらも晴彦を「理解」しようとするちぐさだったが、ある言葉で傷つけてしまい――。

弟とか、男の子とか、関係ない。ただ目の前の「あなた」に向き合いたい!
ちぐさは意を決して――! ?





の再婚で新しい母・瞳子さんと中学生の弟・晴彦と暮らすことになった、高校一年生のちぐさ。

ブラジャーが好きだという晴彦に戸惑いながらも理解したように振る舞う。

しかし、ある時、傷つけてしまう。


新しい家族の話の他に

恋人 との関係、守られていることがうれしい反面、強い側の彼の立場の言葉がこわい時がある。

友だちとの関係、本心を言わず、飲み込んでいる。

傷つけないから、傷つけないでと祈る。

そんなちぐさの感情が細やかに描かれていた。


私も晴彦も、お互い信じられないことだらけだ。これから幾度となく、わけわかんない、と目を向き合うに違いない。でもわかろうがわかるまいが、ただ、それらを知っていくだけなんだと思う。そんな予感に、すこし痺れた。〉



ちぐさと晴彦、新しい関係が作れそうな予感!


好きなことを貫こうとする晴彦は強い子だと思った。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐


シルバー保育園サンバ!

中澤日菜子 小学館 22024年10月



 



銀治は、定年退職後に妻から離婚を言い渡され、孤独で怠惰な日々を送っていた。暇を持て余し、シルバー人材センターからの様々な仕事を担っている。ある時、保育園の草むしりの仕事が入り、担当することに。銀治は、人と接すること、特に女性と子どもは大の苦手。渋々保育園に向かうが、次々に巻き起こるハプニングに対応し、その活躍が認められた銀治は、熱烈なリクエストによりそのまま嘱託職員となるはめに。
当初は銀治を怖がっていた子どもたちもだんだん慣れてなつくようになり、人付き合いが苦手な銀治も徐々に保育士たちとも打ち解けていく。日々、子どもや周囲の人たちと接するなかで、孤独だった銀治の心には少しずつ変化が。そんなある日、定年退職後に離婚し離れて暮らす娘について、衝撃の事実を知る――。そして銀治は、自分自身が蔑ろにしてきた「本当に大切なこと」に向き合うようになっていく。長い間蓋をしていた感情が蘇り、前向きに変わっていく銀治。勇気を振り絞って行動することや、あきらめないことの大切さ、いくつになっても後悔は取り戻せるということ・・・・・・。人生に大切なたくさんのことを笑いと共に教えてくれる、人生応援小説。






仕事を理由に家事育児は妻に任せっきりだった銀治。定年退職後、離婚してひとり暮らし。
シルバーセンターから依頼を受けた仕事をしていた。
ある時、保育園の草むしりの仕事をきっかけに保育園の嘱託職員になることに~


女性子どもと接するのが苦手。家事育児をしたことがない銀治の保育園での奮闘記。
笑える場面が多かったけど、子どもたちや保育士と接していくなかで銀治が変わっていくところがよい。

障害のある子は、普通の保育園で健常児と過ごすのがいいのか、療育園でその子にあった保育を受けるのがいいのか?
簡単に答えがでないと思った。

卒園式は感動!

家族とも真剣に向き合うようになった銀治。
悲しい出来事だけど、少しはわかりあえてよかった。


気に入り度⭐⭐⭐⭐