fc2ブログ

ファム・ファタールを召し上がれ

著者:澱介エイド

Amazon
BOOK☆WALKER

1000年にもわたる人類と魔族の戦いが停戦して50年。『迷い茨の魔王城』の主となった魔王ナサニエルは、全ての仕事を部下に任せ、引きこもり生活を送っていた。そんなナサニエルに魔塵総領から発せられたのは魔族と人類のさらなる関係改善のため、人間の娘と結婚せよ、という命だった。だが、人類が送り込んできたのは、魅了の力で世界中の人々を下僕にしてきた「傾国の美女」ニカで……
著者のデビュー作を読んだ身としては、大分、テイストを変えてきたな、という印象。
人類から、魔王の妻に、と送られてきたのは悪女・ニカ。ニカは、その美貌と、人々を操る奇跡の力をもって、魔族の国を自分の支配下に置こうと考えて……。だが、その魔王ナサニエルは、ちょっと興奮するだけで意識を失ってしまう最弱メンタルのコミュ障で……
基本的には、魔王を魅了しようと色仕掛けで迫るニカと、しかし、その色仕掛けをすれば途端にナサニエルは気絶してしまう。それでも、ニカの世話係になったスライムのムースや、戦士のラギアスらを懐柔していって……
まぁ、ニカの発想もまた、結構、短絡的というか、あんまり考えが足りないところはあると思う。普通に考えて、最初の対面にいきなり裸で箱の中から現れてみたりとか、色々とアレな行動をするし、また、そういう中で結構、チョロいところも。ナサニエルのちょっとした言葉にときめいてしまったりして……。だが……
後半に入って明かされるナサニエルの秘密。そして、そんなナサニエルの言葉によって呼び起こされるニカのトラウマ。その中で……というのは、王道という感じじゃないかな、と思う。そういう意味で、話の流れはあまり意外性は感じなかった。ただ、その辺りも含めて相互理解というのがちゃんと進んだわけだし、それを踏まえた上での展開というのは十分に考えられるものとなっていると思う。
何よりも、ナサニエルが引きこもっている中で、業務を代行しているクーリとか、ニカに翻弄されているムースやラギアスらも色々と掘り下げることができるだろし。この巻は、ナサニエルとニカの関係性をメインに描いてきたわけだけど、他にも色々と面白そうな面々がいるだけに、それを期待!

No.7301

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

Tag:小説感想ガガガ文庫澱介エイド

猫の耳に甘い唄を

著者:倉知淳

Amazon
BOOK☆WALKER

売れないミステリ作家の冷泉彰成。そんな身でありながら、弟子の久高享に創作テクニックを教えている彼の元に、2通のファンレターが届く。1通は、女性からの純粋なファンレター。もう1通は、「愚民死すべし」というメッセージを読み取った、という怪文書だった。気持ちが悪い、とは思いつつも黙殺する冷泉だったが、殺人の捜査を担当する刑事が彼の元を訪れる、被害者の女性は、事件当日、冷泉に会いに行くと周囲に語っていたというのだが……
なんか、帯で煽りすぎじゃないかな?
物語としては、売れないミステリ作家・冷泉の元へ送られてきた奇妙なファンレター(というか、怪文書)。そんな怪文書で書かれているように、冷泉に対してファンレターを出した人物が殺害される、という事件が発生する。被害者は、それぞれ、冷泉と会いに行く、という言葉を残していた。だが、冷泉はファンレターは受け取っているが、返事も書いたことすらない。一度は、その説明で刑事は引き下がるが、しかし、再び、同様の事件が起こる。しかも、その遺体は、冷泉の作品の見立てのような形になっており……
まあ、この話を読んでいて思うのは、犯人は冷泉の身近な存在だろう、ということはわかる。普通に考えて、ファンレターを送ってきた人物が誰なのか? なんていうことを把握できるのは、限られている。となると……と思っていたら……
そこから思わぬ形でのひっくり返しの連続へ。
物語冒頭で書かれる「犯人の書いた文章が存在する」「ただし内容が真実であるとは限らない」ということになるのだけど、これって、作品の事件に関わってはいるけど、しかし、根幹か? という感じはある。しかも、最終的なオチ部分は完全なギャグとしか言えないような扱いだし。
ひっくり返しの衝撃という意味では確かにある。
あるんだけど、散々引っ張った割に、このオチは、別の意味での衝撃になったような感じがする。こういうB級テイスト溢れる作風も大好きではあるけど。

No.7300

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

Tag:小説感想祥伝社倉知淳

著者:綾里けいし

Amazon
BOOK☆WALKER

匣庭を形成する5種族の関係は、衝撃的な惨劇をもたらした吸血鬼殺人事件により、大いに揺れていた。そんな中、悪魔の代表・魔王の元へ向かった「聖女」ジェーン・ドゥが失踪する。そして、5種族の代表も時を同じくして失踪してしまう。天使警察のエルと、その相棒・イヴはジェーンの従者・リリスと捜査を開始するが……
なんか、ここまでが序章だ、という感じのエピソード。物語の中心となるのは、『聖女』と言われるジェーンと、その従者・リリス。
『聖女』ジェーンの失踪に端を発する物語。その失踪について捜査を始めたエルたちの前に現れるのは、5種族代表の失踪と、ジェーンの従者・リリスの存在。『聖女』と言われながらも、何か腹に一物を持ったジェーンの従者であるリリスは、「林檎の片割れ」と言われる側近中の側近。表に言えないことも知っているが、しかし、そのことを隠したままのリリス。ジェーンに想いを寄せる彼女だが……
物語の大半を通して見えるのは、ジェーンを信頼しつつ、しかし、客観的に見れば捨て駒にされてもおかしくないリリスの存在。中盤でエルたちを完全に裏切る展開になりつつも、しかし、エルたちの視点で見ると、むしろ、孤立した状況に追い詰められてしまったように感じる、という流れが印象的だった。
そして、その中で明らかになるジェーンの正体と、世界観そのものを揺るがす事件。
「林檎の片割れ」という言葉に込められた意味。そして、場合によっては揶揄されるような中でも愚直にジェーンの意志を全うしようとするリリス。そんな中で明かされる「林檎の片割れ」が意味する本当の意味……
ジェーンとリリス。両者の関係性を主軸にしつつ、しかし、物語の世界観的には、著者らしい展開へ。この流れのスムーズさ、というのは流石だ、と思わざるを得ない。
ここまでの、主要キャラの関係性というの流れから、急速に動き出した展開の中で、どういう風に話を進めていくのか、楽しみ。

No.7299

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

Tag:小説感想MF文庫J綾里けいし

友が、消えた

著者:金城一紀

Amazon
BOOK☆WALKER

落ちこぼれ高校生だった南方は、友との約束を果たすため大学へと進学した。しかし、大学の雰囲気に馴染めず、物足りない日々を送る南方。同級生の結城から依頼が入る。「友達が失踪したので、探してほしい」 その言葉に、自らの本能を揺さぶられ……
ゾンビーズシリーズのスピンオフ、というか、後日譚的な物語。
『レヴォリューションNo.0』が2011年刊で、本作が2024年刊なので、実に13年ぶりの著者の新作。自分が著者の作品を読んだのもそのくらいなので、大分、記憶がなくなっているなぁ……と思ったら、前作を自分、読んでいなかったっぽい。
そのため、多少、作中で語られている過去の話ってどういうものだ? という部分はあったけど、物語の根本部分は本作だけで完結しているので、そこは問題なく楽しむことができた。
友人の北澤を探してほしい、という依頼を受けた南方。北澤は高校時代は、どちらかと言えば地味で引っ込み思案であったが、大学に入り、その様子が変わってしまったという。そんな彼は、大学内でも有名なイベントサークルに所属していたという。その主催者である志田という男に会いに行くが、そんな志田を狙う人間まで現れ……
なんか、この作品で描かれるもの。これ、闇バイトだの何だのが色々と語られる現代を舞台にしているようであり、一方で、20年くらい前の大学で発覚した事件を題材にしたものであるようにも思う。北澤がやっていたこと、というのが20年ほど前、早稲田大学のイベントサークルで発覚した事件を髣髴とさせるし、でも、その中で危機に陥り、追い詰められた彼が取ったのはいかにも現代的にも思える。そして、そんな暴力などが蔓延る世界を前にしても、自らの腕一本で事件に挑んでいく南方。
自分が過去に読んだゾンビーズシリーズの、ある意味ではバカバカしさを感じさせる明るさ、というのはちょっと控えめ。けれども、皆方の、猪突猛進で、一歩も引かずに進んでいく部分は、かつてのそれを感じさせる。そういう意味では、ゾンビーズとして活動をした過去があったからこその成長、という見方ができるのかな? という風に感じる。
なんか、今後もシリーズ化を構想しているらしいのだが……流石に次も10年後っていうのは勘弁してください。面白かったので。

No.7298

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

Tag:小説感想角川書店金城一紀

著者:ぷれいず・ぽぽん

Amazon
BOOK☆WALKER

ある朝、目が覚めるとすべての記憶を失っていた俺は、傍にあったメモに導かれてマンションの一室を訪れる。そこに住む玖条凛音という「魔女」の力を持つ探偵に、「早見諫早」という人物を殺した犯人を捜すよう依頼する。だが、凛音は俺自身がその「早見諫早」で、世界の治安維持のために暗躍する「究明機関」に所属していると人物だと言われる。なぜ、俺は殺されたのか? 俺は、凛音の眷属として調査を開始するが……
第13回集英社ライトノベル新人賞・IP小説部門入選作。
探偵、調査と言ってもいわゆる推理ものとか、そういうタイプの作品ではなかった。どっちかというと異能バトルもの?
記憶喪失になった主人公は、「究明機関」なる組織に所属しており、その上位の存在だった。そして、殺された、というのが機関内で共有されている。しかし、早見諫早の姿を知る者は少なく、主人公は琳音の眷属として組織内から調査を開始する。だが、そこでバトルなどが始まって……。魔女である凛音の能力は、「時間を巻き戻す」こと。危機に陥れば、時間を巻き戻すことができる。その中で、記憶を続けて保てるのは、魔女である凛音と、その眷属である主人公のみ。そこで、相手の異能力は何なのか? というのトライ&エラーで探っていく。そして、そんな戦いの中で、少しずつ、早見諫早の死について迫っていって……
ツンデレ魔女という言葉がぴったりと来る凛音と、彼女に振り回されながらもだんだんと距離が近づいていく主人公。それを取り巻く面々。この辺りの距離の詰め方とかは結構好き。最後の凛音の台詞なんて、まさにそれを突き詰めたような言葉だし。
作品設定とかを大分作りこんでいる、というか、物語のストーリーラインの中で、その設定のアレコレがすべて解明された、という感じがしないのだけど、これは、今後のシリーズ化などで活かされていくのかな? という感じはする。まだ、最初の依頼が完全に達成されたわけじゃないしね。

No.7297

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

Tag:小説感想ダッシュエックス文庫ぷれいず・ぽぽん

銀花の蔵

著者:遠田潤子

Amazon
BOOK☆WALKER

大阪万博前夜、9歳の少女であった銀花は父が実家の醤油蔵を継ぐために奈良県に移り住んだ。蔵を切り盛りする祖母・多鶴子らと打ち解けようとするが、祖母と父の不仲、蔵に伝わる座敷童を見てしまったこと、母の盗癖……そういったものによって自らの生まれについて悩むことになる……
なんか、こんな例えは不適切なのかもしれないけど、NHKの朝ドラを見ているような感じがした。
優しく、画家を目指すが生活能力のない父と、料理が得意だが、どこかふわふわとしていて盗癖を持つ母の間で育つ銀花。だが、そんなある日、父は実家に呼び戻され、家業である醤油蔵を継ぐことに。しかし、父はあくまでも画家を目指しており、醤油づくりには消極的。さらに、母の盗癖は自分の仕業とされ周囲から孤立することに。そんな中で銀花は育つことに……
まず、読みながら思うのが、この銀花の置かれた状況と、銀花と祖母の関係性の何とも言えない状況。父も母も色々と問題のある人間ではある。特に、母は彼女のしたことで銀花の態度立場が悪くなってしまう。父は、優しいが、しかし、夢見がちで生活能力がない。それをわかりつつも、父のことは恨むことができない。そんな状況の中、ある意味では正論を語る祖母の言葉に共感をするが、しかし、祖母は自分を認めてくれない。それでも、父の死などにより、自分が蔵を継ぐことを決意する。でも祖母は……
家族の中で最も共感できることを言うのは祖母。そんな祖母に認めてもらえてはいないが、しかし、自分のできることをひたむきに勤める銀花、その中で、祖母からは少しずつ認められていく。勿論、家族に対する恨みなどもありつつ……。そんな中で、少しずつ判明してく、それぞれが抱えた秘密であり、また、誤解であったり……。
様々な事情を抱え、家族を恨んだこともあった銀花。しかし、長い時間を生きる中で、それぞれが苦しみ、それを克服しようとして生きていた。一方で、その中で唯一、共感することが多かった祖母もまた、人に言えない秘密を抱えその中で必死に抗っていた。そんな事情を知り、完璧な人などいないが、問題しかない人間もまた存在しない。そんなことを知りその人生のその後を生きようとする結末。プロローグで出てきた人骨とか、そういう謎を示しつつも、人間賛歌の物語だったのだな、というのを感じさせる作品だった。

No.7296

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

Tag:小説感想新潮文庫遠田潤子

著者:香坂マト

Amazon
BOOK☆WALKER

激動のランク査定を経て、ひとときの平穏を取り戻したイフールカウンター。そこでの話題は、ギルド本部に設置される新たなるカウンター。これまでよりも利便性が高まり、客が殺到するであろうそこに異動となる者が現れるだろうと戦々恐々。選ばれないよう、目立たないよう過ごすアリナだったが、そんなギルドにインターンとして派遣されてきたのは弟のアシュリーで……
うん、日常回ですね! いや、最後の最後に色々とぶっこんでいるけどさ。
前半は、アリナのエピソード。冒頭に書いたよう、ギルド本部に設置される予定のカウンター。そこが出来れば、イフールカウンターの業務は減るはずだが、しかし、代わりに新カウンターに異動となれば、さらなる激務。だからこそ、目立たないように、という日々を送る中、弟・アシュリーが現れる。
以前に登場したときもそうだったけど、アシュリーは極度のブラコン。インターンでギルドにやってきたのも、姉とジェイドの関係性を疑ってのもの。だからこそ、ギルドに来たし、カウンター業務も希望する。その結果……。姉弟の受付という物珍しさで冒険者が殺到して、という地獄絵図が出来てしまうのに笑った。そして、その残業を忌み嫌っているジェイドとこなす、というのも。自分がその状況を招いた上で絶望する。さらに、ジェイドに対する対抗心で、姉とジェイドのスイーツデート(?)に割り込んで……。良い味出してるわ。
一方、ジェイドら、「白銀の翼」のヒーラー・ルルリ。さらに難しい敵と戦うために、実力をつけなければならないが、壁を突破できない。そんなとき、ある預言を目にし、人探しを初め……
丁度、これを読んだ状況で、原作2巻を元にしたアニメが放映されているのだけど、ルルリにとっての苦い思い出。しかし、そこには彼女の原点があった。2巻の時の事件を経てのルルリ、相手の成長。そんな状況を見守り、しっかりとサポートするロウの格好良さ。この二人のやり取りは、いつもほっこりさせてくれる。
そんな中で、最後に訪れる危機的状況。あとがきで著者が少し触れているのだけど、ここまで1巻1話で進んできた話が、そこで完結しないっていう辺りに、いよいよ煮詰まってきたな、と感じる。

No.7295

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

Tag:小説感想電撃文庫香坂マト

化学探偵Mr.キュリー

著者:喜多喜久

Amazon
BOOK☆WALKER

研修期間を終え、四宮大学庶務課の庶務課員としてのスタートを切った七瀬舞衣。大学内の様々なトラブルに対処することが仕事である庶務課員として最初に命じられたのは、最近、校内で奇妙な穴が掘られている事件への対処。初仕事に対して、上司の猫柳から案内されたのは、モラル向上委員である沖野准教授で……(『化学探偵と埋蔵金の暗号』)
など、全5編からなる連作短編集。
作品のタイトルは「化学」なのだけど、ケミカルというよりもサイエンス全体での謎解きが行われている、という印象。
粗筋でも書いた1編目。校内で起こっている、様々なところで穴が掘られている、という事件。穴を掘っている人間を見た、という目撃者によれば、その穴には謎の暗号らしきものがあったという。その暗号について、沖野に相談した舞衣だったが、沖野はすぐにその暗号を解いてみせて……。暗号解読自体は、まさに化学の知識からのもの。ただし、そこからの真相が、大学という舞台でのプレッシャーとか、そういうものを表しているのだろうな、と感じる。
個人的に良かったのは2編目『奇跡の治療』。舞衣の叔母が乳癌と診断された。そんな叔母夫婦に対し、医師が提示したのはホメオパシーによる治療。胡散臭いと感じた舞衣は沖野に相談をするのだが……
ホメオパシーは、色々なところで問題になっているオカルト。しかし、それを信じてしまっている相手にとっては「インチキだ!」と言っても伝わらない。そんな中、叔母夫婦に沖野が取ったのは……。沖野の、ある意味でその新人を逆手にとった語りかけ。そして、ホメオパシー治療を行う医師のやり方の巧妙さと、さらにその裏にあったもう一つの策略というひっくり返しの攻防と、盛りだくさんで面白かった。
その後のエピソードについては、科学(化学)の蘊蓄を入れつつもそれ以外のことで解明した印象。これはこれで面白いのだけど。
その中で、結構、沖野に対して失礼な態度をとっている真衣の存在と、何だかんだと言いつつ協力をしていく沖野。実際にはありえないとは思いつつ、掛け合いがキャラクター小説としての面白さを出しつつある、という感じがする。舞衣が、学生の相談員になった、なんていうのでより、その掛け合いがメインになっていく感じもするし。

No.7294

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

Tag:小説感想中公文庫喜多喜久

著者:串木野たんぼ

Amazon
BOOK☆WALKER

「もしも私を選んでくれるなら……一生甘えちゃうから、覚悟しろ?」 酒好きの残念美人・和泉七瀬からのキスと告白に動揺する瀬戸穂澄。だが、その直後の、同級生・羊子からの告白、さらに穂澄にトラウマを植え付けた元カノ・月浦の本意まで明らかになっていって……
シリーズ完結編。
っていうか、自分が2巻の感想を書いたのは2021年8月。実に3年半ぶりに読んだ。申し訳ないけれども、このシリーズ、打ち切りになっているものだと思い込んでいた。
で、大分、記憶が薄れている状態だったのだけど、1巻は穂澄がただただ残念美女の七瀬に振り回される話。2巻は、そこにラブコメ要素が強めになって、という印象。そして、3巻は、というとラブコメ要素全開。ヒロイン全員が、穂澄に対してその想いを露にし、恋の争い。ただし、紳士協定、ではないけれども抜け駆けなどはせず、互いのことを認めつつ、という形での。
仕事も増え始め、穂澄と一緒に過ごす時間が少なくなった七瀬。しかし、会えないことが一つのストレスとなっている彼女のため、穂澄はケアをするために色々と動く。一方の羊子は、月浦のこともあって距離を置くようになった穂澄を「演出家」として復帰させるために手回しをする。そして、月浦が秘めていた想い。それぞれ、「演劇」「芸能」という世界を題材にし、その中でそれぞれの決意、そして、それぞれが自分の武器を磨く、というフェアな戦い方が印象的だった。本当、誰一人として「嫌な奴」がいないんだよな。だからこそ、それぞれが思っている恋の勝敗が決まったとしても……という思いが募っていく様もわかる気がする。
まぁ、恋のバトルの結末っていうのは、タイトルの時点でわかりきっている部分がある。でも、それぞれの想いをしっかりと描き切っての完結へ、という流れは素直に嬉しかった。

No.7293

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

Tag:小説感想GA文庫串木野たんぼ

氾濫の家

著者:佐野広美

Amazon
BOOK☆WALKER

郊外の住宅地で大学教授の遺体が発見された。隣家に住む専業主婦の妙子は、事件があったと思われる日に不審な男性を見かけるものの、夫の「相手にするな」という命令により何も言えずにいた。横柄な夫のいいなりになり、長女は家を飛び出し、息子も大学受験に集中できていない。そんな中、平穏そうな隣家も問題を抱えていたことを知る。一方、事件を捜査する刑事・加賀美は、妙子が何かを隠している様子を察知して……
正直、極端だと感じるところはある。しかし、この中で描かれていることの破片くらいは感じたことがある人は沢山いるだろうな、というのがまず読みながら思ったこと。
冒頭に多少書いたけれども、物語は専業主婦である妙子を中心に進んでいく。建設会社の課長である夫を持ち、娘と息子という二人の子供を育てた彼女。夫は、女は黙って従え! 「お前のためだ」「金を稼いでいるのは俺だ!」などと家族の行動を決め、家事などは何もしない。そして、子供たちに対しても、「こうしろ!」とひたすら命令していく。娘は、そんな父に反感を持ち飛び出してしまったし、息子もまた反感を抱いている。そんな環境に慣れ過ぎて、妙子はそれを当然と感じつつある。そんな中で起きた隣家の事件。
殺されたのはメディアでもお馴染みの大学教授。妻もまた、研究者という家。立派な人間だと思っていたが、その息子は引きこもり状態らしい。立派に思えた隣家にもそんな事情が……。それをきっかけに、自分の状況に疑問を抱いていく妙子。さらに、息子、家を出ていった娘がどうしているのか、を知り、ますます自分の状況に疑問を抱いていく。一方、その夫・篤史は、会社の「裏の仕事」なども手掛ける業務をしている。会社の利益のためには、会社を守るためには。そんな思いで、ある裏仕事をするのだが……
最初に書いたように篤史の存在は極端すぎるきらいはある。けれども、長らく専業主婦を続けていて、外での仕事などができない妙子にとって、夫の存在は「生きるために必要な存在」でもある。それを切り捨てることができるのか? 子供たちについても、この作品の子供たちは反発して、家を飛び出したり、なんていう行動をとったわけだけど実際には、それが出来ない人も多いのではないか? そういう部分の普遍性みたいなものがまず印象に残った。
はっきり言って、隣家の事件を追う警察側の方針は無能そのもの。政治的発言などもしていた大学教授だから、その線じゃないか? という筋詠み自体は否定しないけど、それ一本に絞るって、流石に無理がありすぎるはず。加賀美も随分と自由に動けるなぁ、という感じだし。その辺りはちょっと無理やり感は否めないかな?
ただ、妙子の物語として読むならば、置かれた状況とか、そういうものに色々と共感などを感じることができるんじゃないかと思う。

No.7292

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

Tag:小説感想佐野広実

No image

');q.setNumEntries(5);q.load(dispfeed);function dispfeed(a){if(!a.error){var b=document.getElementById("feedContainer");for(var i=0;i'}else{n+=r}b.innerHTML+=''}var p=b.getElementsByTagName('a');for(var j=0,l=p.length;j