著者:野村美月
店主・笑門の急死により、閉店フェアを行うことになってしまった幸本書店。東北の田舎町、最後に残った書店の閉店にアルバイトの水海らが戸惑う中、店主から「すべての本を任せる」という遺言を託されたという少年・むすぶが現れて……
ファミ通文庫でも、同時刊行で『むすぶと本』というタイトルを掲げた作品が出ているわけだけど、どちらから読む方が正解だったんだろう? 私は、こちらから、なのだけど。
さて、物語は冒頭、店主の急死でドタバタした店内。フェアの準備などでてんてこ舞いの主人公・水海の前に、むすぶが現れる。誰もいないところで、何かと会話をしている様子のむすぶ。そして、そのむすぶが話していた内容は「誰が笑門さんを殺したの?」という不穏なもの。そんなところから、だんだんと不穏な方向に行くのかな? と言う予感も孕んだスタートになるわけだけど……
連作短編形式で綴られるのは、幸本書店に所縁のある人々の、幸本書店での思い出。例えば、1編目『ほろびた生き物たちの図鑑』は、閉店の話を聞いて書店を訪れた老人。貧乏であった子供時代、幸本書店に通いタイトルの本を見るのが大好きだった。買いもしないで、ただ立ち読みするだけ。そんな彼に対し、当時の店主は……。はたまた、2編目。将来、女優としての活躍を夢見ていたアスカ。幸本書店でサイン会を行う地元出身の作家・田母神に売り込んで、と狙う中、田母神が口にした本は……
その間にも細かな話などが挟まれているのだけど、書店と地元の人々の関係性。それを読んでいて、まず思ったのが、地元の書店のこと。自分自身がド田舎の出身なわけだけど、私が中高生くらいの頃はレンタルビデオ屋などと併設された書店とかもあったのだけど、その中で一番利用していたのが駅前の昔ながらの書店。駅前で近かった、っていうのもあるけど、良くも悪くも「新刊本」、「話題書」中心だった他と違い、こだわりを持った棚づくりをしており、一番、品揃えの良い書店だった。で、私が上京して20年余りが経って、今はその書店くらいしか残っていない。幸本書店同様、地元での歴史があるし、その信頼感とか、そういうのがあるんじゃないかな? と思えてならない。
で、そのような物語は、幸本書店でサイン会などをした作家・田母神。かつて、店主である笑門とも懇意であったが、サイン会の後には、厳しい顔をしていた。そして、田母神は地元へ戻ることもなく……。二人の間に何があったのか? そして、それが店主の死とどう繋がるのか?
冒頭で示された「だれが殺したのか?」という部分は多少、肩透かしかな、と思ったところはある。でも、その田母神との話なども含めて、笑門、さらにその親……と、幸本書店がいかに本を愛していたのか、というのが伝わってくる。現在、自分は東京都内にいて、何か本を探すときは、ネット書店やら、はたまた、大型書店、秋葉原辺りの漫画などの専門書店みたいなところを使うことが多いので、言ってることとやってることが……って言われそうだけど……でも、本作の中の幸本書店のような書店が愛おしくなった。
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