個の幻想 脱正義論 - 80年代後半~90年代前半を回顧するブログ


個の幻想 脱正義論

2007年02月05日 21:54

わたくし事で恐縮ですが、子供の頃の夢は発明家になる事だった。
学生になると、20代で起業する事が目標だった。
今となっては身の程知らずでお恥ずかしい話だが、

時代を追いかけるより 風を起こしたい

そうずっと思っていた。


その想いが最初にグラついたのは大学4年の就職が差し迫った頃でした。
実際にその内定先に就職したところで、その会社で世間に対して風など起こせるのか?
自分が社会に組み込まれる事への恐怖を覚えた。
社会に飛び出す手前のこの時期は、誰でも不安なものである。


この頃の自分と重ねて読むとたまらないのが、1996年出版の「脱正義論」である。

4877281282新ゴーマニズム宣言スペシャル脱正義論
小林 よしのり
幻冬舎 1996-08

by G-Tools


本書は「薬害エイズ支える会」の代表となった小林よしのり氏が、HIV訴訟原告の川田龍平とそれを支えるボランティア学生達と共に厚生省相手に戦い、訴訟は和解が成立した。しかし会を解散しようとせず、「国の戦争責任」「~の公害病」と次々と「都合のいい敵」「自分たちが絶対正義に浸れる敵」を追いつづけて行く「支える会」の学生達に対し、「運動に逃避せず日常に帰れ!」と叱咤している


小林自身も大学時代に、すでに学生運動は下火となっていたが、「レーニンマン」とされる左翼系の男に影響され、学生運動に参加する。しかし、宗教の勧誘の方が人数を増やしている状況、運動自体が目的化し、遊んでいるような物だと感じ、社会に出て漫画家になるための勉強を選び、参加する事を辞めたという経緯を持っている。そのため、2度と学生運動のたぐいのものには参加しないと決めていたが、命短い原告達の熱意によってその重い腰をあげることとなった。

今思うとどうかと思うが、ラップでこの問題を歌ってみたり、学芸会ののりでサンタの衣装を着て厚生省に乗り込んだりと、学生らはそれぞれの個の連立で勝利を勝ち取った。しかし、この学生という時期に社会を動かしたという一種の錯覚が彼らのその後の方向性を誤る結果となった。
活動に参加したボランティアの学生の中には、「(原告に対して)あなた方のお陰で(今まで退屈だった自分に)生きがいを見つけました」と涙する若者までもがでてきて、この運動の方向性に違和感を持ち始めたという。学生達は目的を達成する事により、その目的よりも運動そのものに魅力を感じてしまったのだ。


市民活動で個人の力の連帯を最初は大きな力と思っていた小林も、学生には、生かす「自分」も無ければ、「やりがい」も運動にしか感じられない、連帯する「個」など、始めから持ち合わせてなく、「個の連帯は幻想だった」と総括として最後に述べている。


人は自分の中で勝手に都合の良い正義をつくる。
その正義ほど恐ろしいものはない。

自爆テロをしてまで自分の正義を通す人たちの思いは、日本に住んでいる私には理解するのは難しい。
しかし、社会に対して無力な自分がなんだかの活動を自分の中の正義と置き換えて、
それにやりがいを求めていく経緯はすごくよくわかる。

個が大事と考えてきた自分が、いざ社会に取り込まれる事へのあがきなのだ。

話を最初に戻しますが、私は気づけば会社というとても小さな組織に個を完全に埋没してしまっている。
会社の中ですら、ろくに風を起こせてはいない。
時代を追いかける事すら、もうあきらめている状態だ。

2007年の参議院選挙に東京選挙区より川田龍平氏が無所属で出馬予定だという。
彼は夢であった一般の一教師という立場よりも、世間で風を起こす道を選んだ。

その手の運動に参加すると、もう日常へと回帰はできないのであろうか?
そんな人生を捧げる運動に参加した事の無い私は、その事が幸か不幸かよくわからない。


自分の信じる正義を脱するという行為は、容易な事ではないしそのキッカケもほとんどない。
自分の中で勝手に作ってしまったいくつもの正義も、それが固まってしまうギリギリの年齢に今いる。
それを全部脱ぎ捨てる事が出来れば、今まで見えてなかった正義(価値観)を新たに発見する事が出来ると思います。








コメント

  1. SPIRIT(スピリット) | URL | kFq.b5lY

    はじめまして

    v-11はじめまして、SPIRIT(スピリット)です。v-7
    このブログは、さまざまなことが書かれてあって興味深いですね。
    きくりんさん、とっても博学でいいです。(*^^)v

    『ゴーマニズム宣言』はほとんど読んだことがないのですが、大学のサークルの先輩が愛読者だと聞いていたので、非常に興味深かったです。
    ゴー宣はこの頃が最盛期だったとも聞きました。

    物事には必ず裏があり、そのまた裏があるとでもいいましょうか。
    きくりんさんのブログを読む限り、非情に考えさせられます。
    一頃のゴー宣にしても、その前の『おぼっちゃまくん』にしても、一世を風靡したと聞きますし、小林よしのり氏の漫画には、人をひきつける魔力みたいなのを感じます。v-11

    これからよろしくお願いしますね。

  2. 流転 | URL | -

    あーこの本も懐かしいですね
    自分も大学時代に読んだ記憶があります
    なんとももどかしい甘酸っぱい気持ちが広がります

    川田氏に限って言えば運動という幻想から
    政治家になって実際に世の中にアクションを
    おこす。という風にわりと建設的・現実的な
    道を模索してるのかなーとか思ったり

  3. JUN | URL | -


    いつも楽しく読ませて頂いております。脱正義論、当時熱く熟読してました。この運動の裏側(民青や知花さんの話や)をリアルタイムに見せてくれるゴー宣、好きでした。特にこの頃のよしりんはメディアに引っ張りダコだった気がします。まだオウムに狙われる前(でしたよね?)だから随分前だなぁ。当時を思い出し思わずコメントしちゃいました。しかし川田龍平の「知ってますよ」の顔が…

  4. BLUETRANCEPARENCY | URL | -

    はじめまして

    いつも楽しく読ませてもらってます。
    正義は諸刃の剣ですね。本当に正しい物や者は存在するのかなって思ってしまいます。考えだすとキリが無くて矛盾したりしますが……
    blogすごく納得したので書き込ませていただきました。

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