ルパンシリーズの翻訳(大正期・随筆社)
1924年(大正13)に随筆社から佐佐木茂索・高橋邦太郎共訳『モオリス・ルブラン全集』が出版されている。内容は『強盗紳士』『水晶の栓』『輝く雨』(「黄金三角」前篇)『リュパンの勝利』(同後篇)の4冊。のちに改造社から佐佐木茂索単独の名義で「アルセエヌ・リュパン」(1929年(昭和4))として1冊にまとめられている。
この全集の監修に名を連ねているのが芥川龍之介・菊池寛・久米正雄だ。佐佐木は最初に久米正雄と交流をもち、作家デビューにあたっては芥川龍之介の後押しを受けた。後に、菊池寛が設立した文藝春秋の社長に就任する。そういう縁があって3人が監修者となったのだろう。
三人の監修者は、1924年6月15日(大正13)付読売新聞の広告で推薦の辞を寄せている。
菊池氏曰、小説は面白くなくちゃいけない。と僕は常に云っている、面白い点にかけてはルブランは実に面白い。これは無論普通の小説ではないが、相当芸術的であるから好い。
久米氏曰、僕は「冷火」の中にもリユパンを引張出している程だがら勿論、ルブランの愛読者だ。これだけは、どんな退屈な時でも読み初めたら止められない。ともかく愉快な本だ。
芥川氏は、探偵小説の愛読者である。分けてもモオリス・ルブランの大の愛読者で、殆んど読破しているといって好い。談、探偵小説に及べばルブランが舌頭に上らぬ事はない。
久米の弁の通り、『冷火』(「時事新報」1924年1月1日-6月3日)にはルパンが登場する。芥川のエッセイにはリュパンの名前が出てくるものがあり(「骨董羹」、「人間」1920年4月号)、小説にもルブランの探偵小説を読む人物が出てくるものがある(「十円札」、「改造」1924年9月号)。
□随筆社・モオリス・ルブラン全集
- 強盗紳士アルセエヌ・リユパン…怪盗紳士ルパン(1)
- (欠番)
- (欠番)
- (欠番)
- 水晶の栓…水晶の栓(7)
- (欠番)
- 輝く雨 黄金三角前編…金三角(9)
- リユパンの勝利 黄金三角後編…金三角(9)
「虚ろの針」(「奇岩城(4)」)が予告されたこともあったが、出版されなかった。
□余談
以下のブログによると、金剛社から出版された「見えざる怪魔」の翻訳者・黒部健彦は金子光晴であるらしい。
手に負えない男だった紅玉堂書店の前田隆一 - 神保町系オタオタ日記
http://d.hatena.ne.jp/jyunku/20111009/p2
「見えざる怪魔」は「虎の牙」の翻訳で、「見えざる悪魔」の題で紹介されることもある(新潟県立図書館の目録に「見えざる怪魔」があるので、この題を正としておく)。
松村さんの口利きで、紅玉堂は、ともかくも私のへたな翻訳詩集『仏蘭西名詩選』と、アルセーヌ・ルパンのなかの『虎の牙』を、黒部建彦の名で翻訳して出した。黒部建彦は、暁星中学校の黒部武彦の名を咄嗟におもいついたもので、偽名は、大ていなにかのひっかかりのある名を使うものだ。(「どくろ杯」P53)
友人として佐佐木茂索の名前が出てくる。
「君は、むこうから来たチャンスを、みずみす逃してるじゃないか」
京都でくらした少年時代からの友人で、佐佐木常右衛門の倅の茂索が、見ていられずに忠告した。私が詩の原稿や、随筆をもって、新聞社や、雑誌社を、無駄足をしながら歩きまわっている噂をきいたからである。(「どくろ杯」P52)
紅玉堂書店、金剛社については不明な部分が多く、単独で取りあげられないのでここで。
□参考文献・参考サイト
金子光晴「どくろ杯」中公文庫、1979年
金子光晴 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E5%AD%90%E5%85%89%E6%99%B4
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