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2010/10/03

山羊の毛皮 - 山羊皮服を着た男(A2)

※以下の文章は「山羊皮服を着た男(A2)」の内容に触れています。※


少なくとも私はそうだったのだけれど、この作品には見逃されている重要な点が一つあるのではないかと思っている。単語帳を作るため、いろいろ調べていたとき、ヤギのウィキペディアに行き着いた。

Chevre - Wikipedia(フランス語)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Ch%C3%A8vre

山羊って白じゃなかったんだ?! ウィキペディアがすべてではないけれど、フランス語版でトップの載っているのは白ヤギではない。日本語版と英語版は白ヤギ。話の内容から考えても、「山羊皮服を着た男」が着ていた山羊皮は白ヤギでも黒ヤギでもないだろう。これは重要だ。


ところで、山羊皮というのはどういうものだろうか。原題は「L'Homme a la peau de Bique」。bique は山羊、peau というのは加工していない(なめしていない)毛皮のことだ。なめした「革」はcuirである。

バルザックの「ふくろう党」に山羊皮を着た人が出てくる。ブルターニュとノルマンディーの境あたりに住むの農民たちだ。以下、引用は東京創元社の「バルザック全集」による。

農民のあるもの(じつをいえばその大部分)は素足で歩いていた。着ているものといえば、くびからひざまでを包んでいる大きな山羊の毛皮と、ごく荒い白地のズボンだけで、しかもその生地は織糸がでこぼこしていて、この地方の織物業のなげやりな仕事ぶりをあらわにしていた。彼らの長い束髪は山羊の毛皮とごく自然にまじりあい、うつむいた顔をすっかりかくしていたので、容易にこの毛皮を彼らの皮膚と思ったり、またふと見て、このみじめな人間どもと、彼らがその毛皮を服としている動物を混同しかねないほどだった。(P7)

この上着は、古代ゴール人の着ていた短マント(サガsaga)あるいはセイヨン(sayon)そっくりのもので、腰のあたりまでしかなく、まだあちこちに樹皮のついているあらけずりの木片によって、二枚の山羊の毛皮に結びつけられてあった。この地方でビックとよばれる牝山羊の毛皮が腰からしたを包んでいるのだが、その部分にはすこしも人間らしい形はみとめられなかった。でかい木靴が足をかくしている。着ている山羊の毛皮とよく似たつややかな長い髪は真ん中で分けられ、顔の両側にたれさがっている。(P14)

服というより毛皮のまんまに近いようだ。ポケットも付いている。

「ピユ・ミシュ」と彼は仲間に声をかけて、「暗くてさっぱり見えない。おまえ煙草入れもってるか?」
「ああ、ちくしょうめ、なんてみごとな鎖だ!」とつぶやきながら、ピユ・ミシュは山羊の毛皮の下についているポケットをさぐった。(P93)

「ふくろう党」は19世紀初頭の話なので、20世紀初頭でも着られていたは分からないが、入手することはできただろう。あるいは、実在性よりも「ふくろう党」へのオマージュを感じ取るべきかもしれない。


男が山羊皮服を着せられていたのはカモフラージュのためだろう。彼は脱げない毛皮をも着ているのだから。途中混乱して、山羊皮が脱げない毛皮のことを言っているのかと思ったこともあったけれど、穿ちすぎだった。脱げる毛皮だった。


□参考文献・参考サイト
「バルザック全集」第1巻、東京創元社、1973年(「ふくろう党」)

羊皮紙工房
http://www.youhishi.com/
GLORIA VICTIS! ヴァンデ戦争、ふくろう党蜂起
http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Desert/7019/
Les Chouans - Wikipedia(フランス語)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Les_Chouans
Les Chouans ou la Bretagne en 1799 - Wikisource(フランス語)
http://fr.wikisource.org/wiki/Les_Chouans_ou_la_Bretagne_en_1799


※以上の文章は「山羊皮服を着た男(A2)」の内容に触れています。※

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