「赤い数珠」「ジェリコ公爵」はいかにしてルパンシリーズ(?)となりしか
未整理の情報が流布しているアルセーヌ・ルパンシリーズだが、混乱を引き起こしているもののひとつに、非ルパンもののルパンシリーズへの混在がある。ありていに言えば、偕成社アルセーヌ=ルパン全集でなぜ「赤い数珠」「ジェリコ公爵」が別巻扱いではないのか、ということだ。
東京創元社から発行されたアルセーヌ・リュパン全集は全12巻であり、第12巻には「赤い数珠」「ジェリコ公爵」が収録されている。付録の小冊子、および解説でリュパン物ではないことが明記されているのだが、装丁や扉は他の巻と同じである。そのためか、後に創元推理文庫に収録されたとき、表紙に書かれたのは「アルセーヌ・リュパン・シリーズ」の文字だった。さらに、偕成社アルセーヌ=ルパン全集で別巻ではなく本編に組み込まれてしまう。
東京創元社アルセーヌ・リュパン全集は、戦後初めて完訳を謳った全集で、シリーズの全容を明らかにするという志はしっかりしていたのだが、その志が後に伝わらず、全集に収録されているという部分のみが踏襲されてしまったのだろう。解説で「赤い数珠」にリュパンを登場させてリュパン物に変えてしまった先行訳を批判しているにかかわらず、混乱を引き起こす種となってしまったのは皮肉なことだ。
純粋のリュパン物だけを十一巻に編集し、十二巻目にリュパン物以外のルブランを代表する推理冒険物を加えました。(「アルセーヌ・リュパン 1」(「アルセーヌ・リュパン全集」第1巻の付録)の編集室だより)
リュパンの活躍しないルブランものの好例(「アルセーヌ・リュパン 11」(同第12巻の付録)の編集室だより)
他の全集にも入っているという指摘もあろうが、最終的に「バルタザールのとっぴな生活」が別巻となったのに2作品が残ったのは、ルパンシリーズとノンシリーズの区別を明確にしようとしていながら、結局東京創元社の全集を踏襲してしまったからと思われる。
よくいいわけとして使われる、ルースラン判事がでてくるから、ルパンと似ているからというのは後付けなのである。(似ているってのも大方嘘だ)
→「アルセーヌ・ルパン」邦訳一覧(別表)
→創元推理文庫:アルセーヌ・リュパン・シリーズ他
→偕成社:アルセーヌ=ルパン全集
→ルパンシリーズ翻訳事情
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