恋人たちの丘 - カリオストロ伯爵夫人(13)
「カリオストロ伯爵夫人(13)」では、ラウールとジョゼフィーヌが船でセーヌ川を行き来しながら暮らしている。
梯子があるじゃないか。だったらのぼってみない手はない。もう体力は戻っているのだから、その気を起こしさえすればいい。そう思って、ラウールは梯子をのぼった。揚げ蓋を頭で押し開けると、いっきに無限の空間がひらけた。大河の真ん中に浮かんでいるのだ。《ノンシャラント号のデッキじゃないか……セーヌ川……ドゥー=ザマンの丘……》
ラウールは数歩進んだ。
ジョジーヌがいる。柳で編んだ肘掛け椅子にすわって。
(ハヤカワ文庫「カリオストロ伯爵夫人」P225/カリオストロ伯爵夫人(13)[第9章])
ドゥー=ザマンの丘(cote des Deux-Amants)と言われても何の感慨もないけれど、この地名が「恋人たちの丘」という意味だと分かると、にわかに色を帯びてくる。「恋人たちの丘」という名前をつぶやいたときのラウールの心情。「恋人たちの丘」が見える場所で船を停泊させたジョジーヌの心情。すでにすれ違い始めている。(Deuxは2(人)、Amantは恋人の意。創元推理文庫では「ドウ・ザマン(ふたりの恋人)の岸辺」(P222)と割書きで意味を注記している。)
恋人たちの丘には逸話がある。娘を結婚させたくない領主が、娘を抱いたまま恋人たちの丘の厳しい崖を頂上まで登ることを結婚の条件とした。挑んだ若者は力尽きて死に、娘は絶望して亡くなる。この逸話に取材した作品に、マリー・ド・フランスの「二人の恋人」がある。相思相愛の娘のために挑んだ若者は、秘薬のおかげで頂上までたどり着くがそこで死ぬ。
Cote des Deux-Amants - Wikipedia(フランス語)
http://fr.wikipedia.org/wiki/C%C3%B4te_des_Deux-Amants
○Cote des Deux-Amants - Geoportail(フランス語)
○Cote des Deux-Amants - Google Maps(フランス語)
航空写真と地図からするとドゥー=ザマンの丘は片側が崖のような急斜面になっているようだ。この崖を恋人たちは登ったのだろう。
ところで、「恋人たちの丘」といえば実在する地名だが、「恋人たちの塔(tour des Deux-Amants)」といえば「水晶の栓(7)」の挿話に出てくる建物だ。この、おそらくは架空の塔の挿話は、ドゥ=ザマンの丘の伝説を踏まえて創られたと思われる。
□参考文献
・マリー・ド・フランス『十二の恋の物語』月村辰雄訳、岩波文庫、1988年(「二人の恋人」)
・CiNii 論文 - テロール男爵の『古(いにしえ)のフランス,ピトレスク・ロマンティック紀行』:石木隆治、2006年
http://ci.nii.ac.jp/naid/110004306155
http://ir.u-gakugei.ac.jp/bitstream/2309/1156/1/18804322_57_06.pdf
ドゥー=ザマンの丘が「恋人河岸」として紹介されている
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