郵便局と電話の関係(その1) - 奇岩城(4)
※以下の文章は「奇岩城(4)」の内容に触れています。※
「奇岩城(4)」で父が誘拐されたボートルレは、父を探すためにシャトールーへと向かう。まず最初にしたことは郵便局に行ったことだった。
七時に、シャトールーの郵便局へいって、パリへの長距離電話を申しこんだ。待たなければならなかったので、そのあいだ局員と雑談をしているうちに、一昨日、やはりこれくらいの時間に、ドライバーの服装をしたひとりの男が、やはりパリへの長距離電話を申しこんだ事実があることを知った。
これで証拠が見つかったのだ。もうこれ以上待つ必要はなかった。(岩波少年文庫「奇岩城」P189-190)
こんな疑問が浮かぶ人もいると思う。これが十分な証拠なのだろうか?と。私も正確に理解できたわけではないが、理解するために必要な点について整理してみたいと思う。(原作ではする必要のない説明を省いていることが多い。当時常識であったことでも、現代とは異なっていれば理解しづらくなる)
まず、ボートルレが郵便局を利用したのは、犯行一味が電話を利用したことを確かめるためだったというのを明確にしておきたい。(郵便局のくだりは短縮版テキストで省略されているらしく、新潮文庫版、創元推理文庫版、集英社文庫版には存在しない)
□郵便局の利用について
電話を掛けた(受けた)証拠を集めるのに、郵便局を使ったのはなぜか。これは比較的すぐに分かった。この時代のフランスでは、郵便と電話・電信が同じ管轄だったからだ。管轄していた省庁は1920年代に郵便電信電話省(PTT)と改称された。外出先で電話を掛けようと思う場合、電話が確実にあるのは郵便局であり、郵便局では郵便、電話、電報すべてが利用できた。
彼は近くの郵便局にとびこんで、クロゾン伯爵邸へ電話をかけた。(岩波少年文庫「ルパン対ホームズ」P157/金髪婦人(2-1))
時代は下るが、セバスチアン・ジャプリゾの「シンデレラの罠」という作品でも、バカンス先で電話と電報のために郵便局を利用している。
□手下の行動について
電話の特性とはなんだろうか。手紙や電報といった通信手段と違うところは、電話を掛ける人と電話を受ける人が、同じ時刻に双方電話機の前にいる必要があるということだ。ボートルレが電話に注目したのは、シャルロットの発言からだった。
「ぼくらに見当のつくようなことは何も君の前で話さなかったかったかね?」
「何も話さなかったわ……でも、こんなことを言ってた人がいたわ。『ぐずぐずしてはいられないぞ……あすの朝七時(※)に、親分 があちらに電話してくるんだから』って……」(岩波少年文庫「奇岩城」P187。※原文では八時。)
朝7時となっているのは翻訳者がP189の時刻と合わせたのではないかと思うが、原文では朝8時に親分が電話を掛けることになっている。朝8時であれば、ボートルレとルパンとの対面時に届いた電報の中身と呼応する。
「荷物の運搬終わった……仲間も一緒に立ち 朝八時まで 指図待つ すべて良好」(岩波少年文庫「奇岩城」P157。カタカナ文を漢字かな交じりに変更した)
指図は電話で行われ、手下たちは朝8時まで電話のある場所にいるはずだ。電話がある場所とはシャトールーだ。この時代は今のような自動交換機はなく、電話交換手が回線を繋ぎ替えていたため、とくに長距離電話では回線がつながるまでに時間がかかった。だから、朝8時まで電話機の前で待機していると送ったのだろう。
※以上の文章は「奇岩城(4)」の内容に触れています。※
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