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2009/11/22

プチ・ショック(その1) - アルセーヌ・ルパンの逮捕(1-1)

※以下の文章は「アルセーヌ・ルパンの逮捕(1-1)」の内容に触れています。※


船にアルセーヌ・ルパンが乗り込んでいる、という気づまりから解放されるために、乗客たちは探偵のまねごとを始める。手始めに手掛かりを整理していくのだが…。

「どんな手がかりですの?」
「第一に、ルパンがR……氏と名のっていることです」
「それだけではちょっとはっきりしませんわ」
「第二に、同行者がいないこと」
「そんなことが手がかりにいなるのかしら!」
「第三に、金髪であること」
「それで?」
「あとは、船客名簿をしらべて、こうした手がかりにあてはまらないものを除外していけばよいのです」
 ぼくはポケットに船客名簿をもっていたので、それをとりだして、ざっと目を通した。
「まず気がつくのは、頭文字がRである名前のものは十三人しかいないということです」(岩波少年文庫「怪盗ルパン」P15)

ここで敏い人は怪しいと気づくはず。なぜなら電報にはこう書いてあったのだから。

イットウセンシツニ アルセーヌ・ルパンアリ。キンパツ ミギウデニフショウ ドウコウシャナク ギメイハR……(同P11)

一等船室にアルセーヌ・ルパンあり。金髪、右腕に負傷(正確には右の前腕。肘から手首まで)、同行者なく、偽名はR…。

非常に素朴なやり方なので、空気に飲まれないでいれば見破るのは難しくない。だからこそテンポや雰囲気、というよりむしろさりげなさ、そして無線電信の文章と一定の距離を置くことが大切だ。

一等船客は皆きちんとした身なりをしているし、淑女が紳士の服をはがすわけにはいかないから、傍目には分からない特徴と言える。それでも気になるらしく…。

ミス・ネリーが無邪気にたずねた。
「でも、けがはしていらっしゃらないでしょう?」
「ええ、けがはしていません」
彼はせかせかとそで口をまくりあげて、腕をだして見せた。(同P17)

誰が発言したかが大事だ。アルセーヌ・ルパンの潜伏について話題を提起したのは、賢しらな探偵気取りの男ではなく、幾分無邪気な若い女だった。

翌日、ミス・ネリー・アンダーダウンがさけんだ。
「こんなことが、まだ五日間もつづくのかしら! たまらないわねえ! 早くつかまえてくれればいいのに!」
 それから、ぼくに向かってこうたずねたものだ。
「ねえ、ダンドレジーさん、あなたは船長さんと親しくしていらっしゃるから、きっとなにかごぞんじでしょう?」
 ミス・ネリーによろこんでもらえるのなら、ぼくもなにか知っていると言いたいところだった!(同P12-13)

この男は確実に女で身を滅ぼすタイプだな。
というのはさておき、最初に引用した部分で、どうしてもツッコミを入れずにはいられない箇所がある。どこから出した乗船名簿か(これ疑問じゃなくてツッコミ)。この名簿は写しであれ本物であれ無傷ではないだろう。


「逮捕」の発表は1905年。大西洋横断の通信に成功していたものの、実用化、ビジネス化は不十分で、フランスとアメリカで直接無線で連絡を取ることはまずできなかったと考えられる。直接連絡できないということには、この話を成立させるために重要なことが少なくとも2点含まれている。船にある乗船名簿とフランスの港に残されている乗船名簿(予約名簿)との突合せができないということ。ガニマールは船長・船員と同等以上の情報を持っていないということ。

マルコーニの大西洋横断無線電信実験の真実
http://www.geocities.jp/hiroyuki0620785/intercomp/wireless/transatrananticexp.htm


□2009/12/08
すみません。勘違いというか知識不足でした。大西洋間は1866年に海底電線が通っているので、電報は有効。名簿がポケットから出てきたという点について、この記事を書こうとして再読した時に初めて気づいて考えてみたのだけれど…良く分かりません。

ルパンシリーズでは「必要ない」と判断してなのか「おわかりでしょう?」なのか分からないけれど、あえて書かないことがあるので、いざ読もうとすると分からないことが多くなる。この話で言えることは頭文字がRの一等船客がが13人というのは信用できない、ということ。私は、加えて、この男が持っている以上本物の乗船名簿がそのままであるはずがないと思う。

また、プロヴァンス号は「transatlantique rapide」(快速の大西洋航路の船)で、もっとも早くアメリカにつく船。ガニマールは先回りをしていたのではなく、元からアメリカにいた(向かっていた)と考えられる。

未来の船・プロヴァンス号


※以上の文章は「アルセーヌ・ルパンの逮捕(1-1)」の内容に触れています。※

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