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2007/04/16

ロアン枢機卿とは誰か? - 王妃の首飾り(1-5)

※以下の文章は「王妃の首飾り(1-5)」の内容に触れています。※


ルパンシリーズの「王妃の首飾り(1-5)」ではロアン=スビーズ枢機卿が首飾りをマリ=アントワネットに送ろうとしたとされている。しかし、史実で王妃の首飾り事件に関わったロアン枢機卿はルイ=ルネ=エドゥアール・ド=ロアン・ゲメネといって、ロアン=ゲメネ家の人物なのだ。母親はロアン=スービーズ家出身ともいう。


ロアン家というのはフランスの一大権門で枢機卿となった人物は大勢いる。ロアン=ゲメネも、ロアン=スビーズも実在の家名で、建物の名前に残るなどしているから、耳馴染む名前だっただろう。例えば、ヴィクトル=ユゴーが住んで、現在はヴィクトル・ユゴー記念館となっているのはロアン=ゲメネ館、歴史博物館として公開されているスービーズ館など。

だから当時の読者は名前違いにすぐ気づくはず。つまりわざと変えているのだ。その証拠にその後でわざわざロアン=ゲメネという名前を出している。そうして史実とずれを作ることで、思う存分フィクションとして書くことができる。だから、ここにどんな補足や注をつけても白々しいというか興ざめだろうと思う。それでもフランス史を知らない読者にはどこかで解説が欲しい。

偕成社版ではロアン=スビーズ大司教と訳されている。史実のロアン枢機卿は大司教になったけど、普通はcardinalなら枢機卿と訳すだろう。また、冒頭の夜会に出席した王は、偕成社版や岩波少年文庫版では「デンマーク王のクリスティアン9世」となっているが、原文ではただのクリスティアン王である。たしかに現実に該当する人物がいるかもしれないが、抽象的に書いているのだから完全に一致するとは限らない。


なお、王妃の首飾りのエピソードは、ルパンシリーズの「カリオストロ伯爵夫人(13)」でも用いられている。けれどよく読むと、ロアン=スビーズ枢機卿はロアン枢機卿、ドルー=スビーズ伯爵家はドル=スビーズ公爵家、容疑者の未亡人を名前でなく旧姓で登場させるなど、少しずつずらして書かれている。ロアン枢機卿に関しては史実に近づいたことになる。これらのずれをどう考えるかというのは課題だけれど、まず個々の作品を整理しなければ片付かない。ハヤカワ文庫版も偕成社版も「カリオストロ伯爵夫人(13)」のドル=スビーズ家の爵位を公爵に改めているけれど、「王妃の首飾り(1-5)」と「カリオストロ伯爵夫人(13)」の双方のエピソードが同じであるという保証はないと思う。

早急に他作品ではこうだから誤り、史実でこうだからこれが正しいするのは、私のような「原作」を読みたい読者には困る。注釈に付けてくれるのはありがたいけれど。


「王妃の首飾り(1-5)」ではロアン=スビーズとロアン=ゲメネを単純に入れ替えたのかと思ったけれど、未詳。
CHARLES DE ROHAN (1715-1787)(フランス語)
http://users.skynet.be/genehist/soubise.htm
シャルル・ド・ロアン=スビーズ。1782年9月に3300万の大破産というようなことが書いてある。


※以上の文章は「王妃の首飾り(1-5)」の内容に触れています。※

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コメント

こんにちは、ペレンナです(^一^)
Ko-Akira さんも「ロアン枢機卿」について、かなりご関心がおありのようですね。。??
じつはわたしも、最近になって「ルイ・ルネ・エドゥアール・ロアン公爵」のことや、「ゲメネー」、「スービーズ」などのいわゆる「ロアン一族」の歴史や、その事蹟などに興味がでてきていたところでした・・・

というのも、わたしは今年の2月くらいからヴィクトール・ユゴーの「レ・ミゼラブル」を読んでいるのですが、その中で、この「ロアン公爵」のことや「王妃の首飾り」について、いくつか言及されているのを発見したからなんです。

図書館にある英語の百科事典“Encyclopaedia Britannica”や、フランスの“ウィキペディア”などでもちょっと調べてみたのですが、どちらも断片的にしか紹介されていないので、「ロアン家」の系譜などもよくわからなくて、けっこう歯がゆく思ったりしました・・・

いま、フランス関係の書籍代理店の「欧明社」のほうに、Claude Muller という人の書いた“Le siècle des Rohan”(ロアン家の時代)という本を注文しているのですが、しばらくしてこの本が入手できたら、またブログのほうにいろいろと、調べたことを書いていきたいと思っています。

Ko-Akira さんも、インターネットを駆使しての情報集めなど、いろいろと大変でしょうが、これからもルパンについての研究をがんばってください(^∇^)

ありがとうございます。ペレンナさんこそ精力的ですばらしいです。日本語だとどうしても情報が狭まってしまうので、洋書が入手できた暁にはよい成果が得られるといいですね。

私は気になることがあればとりあえずインターネットで調べるようにしていますが、日本語しか分からないので、なかなか進まないです。

ユゴーの「レ・ミゼラブル」にもロアン公爵の記述が出てくるのですね。品薄だったデュマの「王妃の首飾り」も映画のお蔭で増刷されたので読まないとと思っているところです。「ロアン」や「オルレアン公」など、同じ家名や大公名を名乗る人物がたくさんいるので、時代をきちんと把握していないと分からなくなりますよね。ユゴーやデュマなど著名な作家によって記述されたやマリー=アントワネットの時代は「恵まれた時代」といえるかもしれません。

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