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2006/07/03

アルセーヌ・ルパンシリーズ通しての感想

とりあえず2回読もうと思っていたので、2週目は発表順に以下の順番に読みました。

  1. ハヤカワ文庫 「怪盗紳士ルパン」 平岡敦訳
  2. 岩波少年文庫 「ルパン対ホームズ」 榊原晃三訳
  3. 創元推理文庫 「リュパンの冒険」 南洋一郎訳
  4. 岩波少年文庫 「奇岩城」 榊原晃三訳
  5. 偕成社文庫 「813/続813」 大友徳明訳
  6. 新潮文庫 「ルパンの告白」 堀口大學訳
  7. 創元推理文庫 「水晶の栓」 石川湧訳
  8. 偕成社アルセーヌ・ルパン全集 「オルヌカン城の謎」 竹西英夫訳
  9. 創元推理文庫 「金三角」 石川湧訳
  10. 新潮文庫 「棺桶島」 堀口大學訳
  11. 創元推理文庫 「虎の牙」 井上勇訳
  12. 新潮文庫 「八点鐘」 堀口大學訳
  13. ハヤカワ文庫 「カリオストロ伯爵夫人」 平岡敦訳
  14. 創元推理文庫 「緑の目の令嬢」 石川湧訳
  15. 新潮文庫 「バーネット探偵社」 堀口大學訳
  16. 偕成社アルセーヌ・ルパン全集 「謎の家」 長島良三訳
  17. 偕成社アルセーヌ・ルパン全集 「バール・イ・ヴァ荘」 大友徳明訳
  18. 創元推理文庫 「二つの微笑を持つ女」 井上勇訳
  19. 創元推理文庫 「特捜班ヴィクトール」 井上勇訳
  20. 偕成社文庫 「カリオストロの復讐」 長島良三訳
  21. 偕成社アルセーヌ・ルパン全集 「ルパン最後の事件」 榊原晃三訳

再読するとストーリーや設定がよりはっきり分かりますね。ルパンに対するイメージが変わりました。悪者であるということは既に中学生のころにカルチャーショックを受けていたので承知してましたが、女性の味方であるというのも裏切られた気分。子供のころは偕成社とポプラ社の違いに困惑して結局全部は読まなかったように思います(とくにポプラ社は後半になるにつれタイトルが怪しくなるわ作者が違うわで。「虎の牙」すらどこか胡散臭いタイトルだと思っていたような)。でも今読んで面白かったし、結局それでよかったかのかも。

翻訳はバラバラでしたが創元推理文庫の石川訳は読んで面白くなかった。シリーズを読み進めてルパンの性格がつかめるまでは苦痛でした。井上訳ははちゃめちゃなところもあるけれど、好きな箇所もあるし方言っぽい表現もまあいいかと。創元推理文庫で残念なのは誤字誤植が目に付くこと。
新潮文庫版は時々感想で目にする格調高さというのはあまり感じないけれど、どこか匂いたつ香気のようなものはありますね。雅語というのかな、詩文につかうような古語が混じっていたり、日本語の散文としては語順がおかしかったりするから、古めかしいと感じる部分もあるけど、嵌れば楽しくなる。「わし」という一人称は気にならなくなりました。むしろ壮年の溌剌としたイメージがします。
偕成社や岩波も読みやすいんですけど、挿絵でイメージを付けたくなかったので最初挿絵が目に入るのが嫌でした。とくに偕成社はリアルだから、弱ったときは弱ったルパンなんですよね(当たり前)。でも昔読んだ覚えがある「ルパン対ホームズ」などの挿絵は懐かしく思ったり。勝手なもんです。


順番に読んだことで、ルブランがルパンの世界をいかに拡充させていったかが見えてくるような気がしました。ルパンシリーズは大きく2つ、あるいは3つに分かれると思います。「怪盗紳士ルパン」~「虎の牙」が第1部、「八点鐘」~「二つの微笑を持つ女」が第2部、「特捜班ヴィクトール」以降が第3部。第1部の面白さと第2部、第3部の面白さはまったく違う。面白いのはやはり第1部。第1部は辛くて暗い部分もあるけれど、とくに「813」などはルパンの息遣いが聞こえてきそうなほど圧倒されてしまう。第2部は第1部に比べれると軽いし、第1部ほどにはひきつけられない。この違いを決定付けるものは第1次世界大戦なのでしょう。ルパンはベル・エポックという時代の寵児であって、大戦後はもはやルパンの時代ではなくなってしまった。実際、大戦後は時代をさかのぼって物語られるし、大戦後の話でもルパンはすでに引退後の雰囲気を纏っているし、実際に引退している。

とは言っても、第2部のルパンもちゃんと「ルパン」なんですよね。堀口大學はあとがきでルパンのキャラクターは一貫していると書いてあって、それを見たとき最初は疑問でしたが、いまは頷けます。それとハヤカワのあとがきでミステリとしてもちゃんとしているとあるのも正直言うと方便だとおもってました。でも、メモをとるためにいくつか付箋を貼りながら読んでいて、メモに写すときに、まさに付箋を貼ったところがヒントになっていたことに気づいたり…疑った自分をちょっと反省(全部がそうであるかは別として)。


たぶん、これからもイメージが変わっていくとは思うけれど、ルパンっていやに人間くさくて、自意識が強いから存在感があるのです。その存在感を前にしては怪盗紳士という言葉すらうそ臭い。強盗紳士(紳士強盗)のほうがいい。再読する前は強盗と言う言葉は悪いイメージが強すぎると思っていたけど。何だか「怪盗」って正体がつかめない、実体がないっていうイメージがする。実体がなければいくら犯罪を犯しても罪に問われない(罰をすり抜けてしまう)訳です。でも、ルパンには存在感があるし、罪に問われるし、罰を与えられたりもする。だから違和感がするんです。それに「813」の冒頭で出される名刺、アレに書かれているのが「怪盗紳士」では様にならない。「紳士強盗」でなくては。

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コメント

同感だと思います。
アルセーヌ・ルパンの人物像って、とても人間味があって、少なからず共感できるところがあると思います。
ストーリーの構成も、笑いがあり、悲しみがあり、そして愛があり・・と、モーリス・ルブランの描く主人公は、その作中でとても生き生きと跳びはね、読む者の感性に何かを訴えてくるような、そんな感じがしてなりません。
わたし自身は「続813」の結末にとても感動し、そこに“文学的な要素”を見い出して以来、ルパン&ルブランの世界観に、はまってしまっています。

いろいろな出版社から日本語訳は出ているのですが、いずれの訳も(こう言っては失礼ですが・・)ちょっと飽き足らなさ?を感じたりすることもあったりします。それほどルブランの描くルパンは、翻訳では収まり切れない、独特の強烈な個性と存在感があるんだと思います。

なかなか外国の作品を完璧に訳すのは難しいとは思うのですが、原文で《gentleman-cambrioleur》とあるとおり、わたしも「怪盗紳士」という、ちょっと子供っぽい?肩書きよりも、「強盗紳士」または「紳士強盗」のほうが、“ほんとうの名称”として
は良いのではないかなぁ?と思います。

同感といってくださって嬉しいです。私がルパンシリーズをもう一度読んでみようと思い立ったのは三宅一郎という方の書かれた「奇岩城の大嘘」という文章からです。エギーユという言葉の多義性や「奇岩城」における仕掛けなどについて簡潔に分かりやすく書かれた一文なのですが、「奇岩城」を読んだつもりでも実は分かっていなかったのかも知れないと思ったのでした。まずは「奇岩城」から、が全部読まなきゃ!になったのはルパンの魅力に惹かれたからですね。

ルブランの描く人物はあまり独創的な人物はいないと思います。主人公もどこにもいそうに無くもありながら、実はどこにでもいそうな、生きてて、恋をして、泣いて、強くて、弱くて、そういうところが共感を呼ぶのだろうと思います。それでも作中に漲っていて読む側にまで届きそうなエネルギーがあるのですよね。「続813」は読んでいて胃が重くなりました。“文学的な要素”というのは分かります。まだちゃんと捕らえられてないのですけど。

ルパンシリーズは思えばちゃんと紹介されてこなかったんじゃないなあと思います。完全な翻訳はありえないと分かっていますし、外国語を習得するつもりはありませんので翻訳を甘受するしかないのですけど、誤訳や訳の脱落などのミスはともかく、商業的な観点から(読者を獲得するために)原作を勝手に枉げて、その上原作者にその責めを負わせると言うのは本っ当に困ります。タイトルは譲るとしても、私が読んだ翻訳では文脈上強盗でなくてはならないところまで怪盗となっていたのでかなり無理があると思いました。怪盗紳士という言葉は本質を突いていないし、怪盗という言葉は通俗的で手垢がつきすぎている気がしますよね。

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