文献調査の手順(要カスタマイズ)

文献調査の目的は大きくわけて3つ。

  1. 主張しようとしている事柄についての独創性・新規性の確認
  2. 問題解決に役立つ概念、方法、ツールの発見
  3. 分野における流行の把握

楽しみのための文献調査もあるけど、それは漫画を読んだり、ゲームしたり、酒飲みに行くのと一緒だから省略。

分野や個々人の情報処理の仕組みによって違いはあることと思うけど、たたき台として主に1と2を行う場合の手順を紹介する。論文の読み方との違いは論文を検索するところも含む点。

文献調査実施手順

論文の収集、論文の読み込みは別々に行うこと。以下の手順で行う。

  1. 終了条件の決定
  2. 書誌情報整理環境を整える
  3. 論文収集
  4. 論文の読み込み

終了条件の決定

一番最初に理解しなければならないのは、世の中に存在するすべての文献を調査するのはほぼ不可能(あるいは、それだけで一生が終わってしまう)ということ。100%の文献調査なんてありえない。文献を読む時間には限りがある(時間的制約)。文献を購入するための資金には限りがある(金銭的制約)。すべての文献を理解できるわけではない(能力的制約)。このような制約の中で自分の研究成果を評価する人が納得するだけの調査をすればそれで良い。というか、それしかできない。

次に理解しなければいけないのは、上の理由の裏返しとして、文献調査には明確な終わりはないということ。毎年、何万もの論文が発表され、何千点という本が出版されている。時間とお金が続く限りは文献調査に終わりはこない。よって、必ず、どういう条件を達成したら文献調査を終了するのかを明確にしておく必要がある。

終了条件は質的なものと、量的なものの2つ定めて置くのが良い。

質的終了条件は、文献調査によって明らかにしたいことを疑問文の形で列挙しておき、その疑問に対する解答を見つけた段階で調査を終了する方法。ただ、文献調査を始める前には適切な疑問を提示できない可能性があるので、文献調査を複数回繰り返さなければならないこともある。

  • 例
    • Aという問題を扱っている論文は存在するのか?(文献調査一回目)
    • Aという問題にどういう解決法が提案されているのか(二回目)
    • 提案されたAへの解決法はどのくらい実現されているのか(三回目)

量的終了条件は、時間、論文数、調査に使うデータベース(雑誌)を利用するのが適当。

  • 例
    • 合計6時間調査したら終わる
    • 論文数の合計が100本になったら終わる
    • ACM Portalに登録されている論文の調査が終わったら終わる

書誌情報整理環境を整える

論文執筆や発表資料作成時には参考文献リストを作成しなければならない。参考文献リストを作るためには書誌情報を整理しないといけないが、これを論文執筆や発表資料作成直前にやろうとすると時間がかかる。文献調査の段階で行っておくこと。

どんなツールでもよいけど、論文執筆につかう道具で利用可能なフォーマットの参考文献リストを生成するツールを利用すべき。たとえば、LaTeXならば、BibTeX形式で出力してくれるツールなど。WebベースならCiteULike、ローカルで使うならMendelayが便利だと思う。

ダウンロードやコピーすると決めたものだけ書誌情報をメモし、今後のために覚えて置きたいものはブックマークしておけば良いと思う。

論文収集

流れは以下のとおり

  1. 文献調査に使う論文データベースや場所を決める
  2. 終了条件を書き出す
  3. 論文収集を行う
    1. 疑問が浮かんだら別紙に記録し、忘れる
    2. タイトル、概要、参考文献をみてダウンロード(コピー)するかを決める
    3. ダウンロード(コピー)するたびに書誌情報を記録する

重要なのは分野の標準的な方法にしたがって文献を探すという点。分野ごとにどの媒体にもっとも参照される論文や研究成果が載っているのかが異なる。指導教員や先輩に教えてもらうこと。

基本的に情報の鮮度は、Webサイト > 新聞 > 会議録(Proceedings)> 論文誌(journal, transaction)・学術雑誌(magazine) > 専門書 の順番。一方で、情報の信頼度は、 専門書 > 論文誌(journal, transaction)・学術雑誌(magazine)> 会議録(Proceedings)> 新聞 > Webサイト の順番。理工学系の場合は、文献として認められるのは専門書、論文誌、学術雑誌、会議録のことが多い。分野によっては会議録を認めない場合もある。

いきなりGoogle Scholarで論文を検索するよりも、有名会議や論文誌・学術雑誌の論文だけを集めた論文データベースを使った方が効率が良いと思う。また、調査論文ばかりを載せている雑誌があるならば、調査論文から調べた方が効率が良い(調査論文とは何かについてはこちら。原著論文と調査論文と学位論文の違い)

  1. 自分の分野で有名な調査論文雑誌に掲載されている論文を探す
  2. 自分の分野の有名な論文データベースを使って論文を探す
  3. 上記データベースに含まれていない自分の分野の有名雑誌の掲載論文を探す
  4. Google Schalarで検索してみる。ただし、どこに掲載された論文であるのかに留意すること

たとえば、私は以下のように探している。

  1. ACM Computing Surveys掲載の論文を探す
  2. Web of Scienceで探す
  3. DBLP掲載の論文を探す
  4. Google Scholarで探す

どのサイトや場所で文献調査をするのかを決めたらA4の紙2枚を用意し、片方に文献調査の終了条件を大きな文字で明記する。そして、それをパソコンのディスプレイに貼り付けたりやクリアファイルに挟んでおき、文献調査中は常に目に入るようにしておくこと。後述するけど、そうしとかないと脇にそれて文献調査が永遠に終わらない。もう一つの紙は、途中に思いついた新たな疑問をメモするために使う。

そして、検索結果に引っかかった論文については以下をチェックし、ダウンロード(コピー)するかしないかを判定する。

  • タイトル
  • 概要
  • 参考文献リスト

タイトルと概要を読んで、自分が調べたいことと関係ないならば無視して良い。ただし、一応は参考文献も見てみること。

論文収集時に論文の中身を読んでしまうと効率が悪いので、無駄な論文をダウンロードしてしまうのを許容して集めるだけ集めてしまった方が良い。多くのタイトルと概要を読むだけで、いろいろと全体像がつかめてくることもある(そのテーマにおける最重要キーワードなどがわかる)。

論文収集をしていると、知りたいことや分からないことがどんどん出てくる。この新たに思いついた知りたいことや分からないことは、別紙にメモしておき、文献調査の当面の目標が終わってから調べること。横道にそれはじめると文献調査は終わらない。

論文の読み込み

重要なのは、自分の疑問を明らかにするために論文を読むということ。論文の読み方に書いてあるとおりに行う。

論文の場合。

  1. 知りたいことを列挙する
  2. タイトルを読む
  3. 概要を読み、わからないところを列挙する
  4. 参考文献を読む
  5. (目次を読む)
  6. 第一章(Introduction)を読む
  7. 終章(Concluding Remarks, Conclusion, Summary)を読む
  8. 必要ならば本文を読む

専門書の場合。

  1. 知りたいことを列挙する
  2. 前書き(Preface)を読む
  3. 目次を読む
  4. 索引を眺める
  5. 目次と索引から関係ありそうなところに目星をつけてそこだけ読む
  6. 必要ならば他の部分も読む