こんばんは、すいもうです。
最近、妙に店に来るお客さんが多いです。
繁盛するのはいいんですが、ちょっと勘弁してください、と思うことも多いんですけどねえ。
忙しい時に限って、追加するような人とかね?
最初から入れておけよ、とか思います。もしくは状況をきちんと見てほしいものです←しみじみ
まぁ、それはさておき。
今回は、王さまです。
なにげない言葉にも、心は動かされるものなのです。
どういうことなのかは、追記にて。
では、お黄泉ください。
夢、吹きすぎし~月想う~ 百八十話
「──あなたの行動を決めるのはあなた自身です。たとえどんな前例があろうとも、あなたはあなたの思うままに行動すればいい。あなたがもっとも望む行動を、あなたは行えばいいのですよ」
らしい言葉だった。
エレノア殿らしい言葉。閣下の教導官でもあらせられたからか、人を導き、教えることがとてもうまい。いまだって、子鴉に対して言ったひと言は、特別なことではない。けれどいまの子鴉にとっては効果的なものだった。
人心とは、こうやって掌握するのだ。そう教えられているように思える。だが実際のところは違うのだろう。エレノア殿は、低姿勢で子鴉と接している。それがどういう意味なのかは、考えるまでもない。この人はこういうところが、いちいち律儀だった。
まぁ律儀になるのも無理はない。なにせ相手は父親だった。エレノア・エスペランザーから、八神エレノアへとこの方は生まれ変わられた。ゆえに子鴉は、この方の父親なのだ。もっとも子鴉は、閣下の父でもあるのだが、正直いまさらなことである。
本音を言わせてもらえれば、親は選んでほしい気もする。世間一般的には子は親を選べないと言うが、実際のところエレノア殿や閣下にとっては、親を選ぶことなどたやすいはずだ。なのになぜわざわざ子鴉を選ぶのか。そこのところが、我にはいまいちわからぬ。最低最悪の人選などとは言わないし、そこまでひどいとも思わない。ただ選ぶにしても、もっと別に人はいただろうにとは思う。子鴉に聞かれると、ひどく面倒なことになりそうなので、あえて言わぬが。
もっともとやかく言っている我自身、人のことをとやかく言える筋合いはなかった。
「あたしが、もっとも望む行動」
「ええ。人になにかを言われて行動するのもいい。それもまた理由のひとつでしょう」
「あんまり褒められたものではないですけどね」
「そうでもないですよ。たとえばあなたが軍人であるとする。上官にこれをしろ、と命令をされた場合、命令という人に命じられた行動をすることになります。それが正しいのか、正しくないのかは、命令の内容にもよるでしょうが、本質的には正しい。一般的に、誰かに言われたから、という理由で行動するのはあまりよろしくないものでしょうが、立場や状況次第では、それが正しいということになる」
「なるほど。たしかにそうですね。でもあたしの場合は」
「ええ。あなたの場合は、命令をされたわけじゃない。ゆえにそれを理由にするのは、少々よろしくない。ですが理由にするのはよろしくなくても、きっかけにするのは悪いことではない」
「きっかけ、か」
「ええ。きっかけです。人がなにかをするのは、なにかしらのきっかけが必要です。きっかけを経て、人は理由を得る。そしてその理由のもとに人は行動を起こすのです。ゴミだらけの海岸線を見て、汚いと思う人は多いでしょう。ですがきれいにしようとは思わない。思っただけでは、きっかけにもならない。その先には進まない。その先に進むためには、きっかけになることが必要なのです。そのきっかけから始まり、理由へと昇華したとき、人はなにかを始めるのです。いまの例の場合ですと、ゴミ拾いを始める、というところですかね」
「小さい行動ですね」
「ええ、たしかに小さい。けれど、小さいことが悪いことではない。始まったときから、大きいものというのは存在しない。なにごとも、小さなことから始まるのです。どんなに大きな挑戦も、最初の一歩から始まる。たとえその歩みがとても小さくても、時を重ねれば、歩んだ距離はとても大きなものへとなっている。だからと言って、無理をして最初から大きく歩んでも続かない。できるかぎりのぺースで、続けられるようにすることが大事なのです。そしてそれは」
あなたがこれから歩もうとしている道もまた同じなのです。エレノア殿はそう言って穏やかに笑われた。言っていることは、はっきりと言えばあたり前のことだった。でもそのあたり前が、心を刺激する。特別なことなんてなにも言っていない。なのに心が動かされる。それはこの人がそういう風に生きてきたからだ。そしてそういう風にして駆け続けてきたものを見て来たからだ。だからこそ言える言葉。だからこそ感じる重み。なにもされていないのに、言葉しか交わしていないはずなのに、圧倒されそうになる。それがエレノア・エスペランザー。かつて「双天」と謳われたこの方のありようなのだ。
「……あたしは正直な話、なにもできない。ひとりではなにもできない。ひとりでは戦うこともできない。誰かに守ってもらって、あたしははじめて戦うことができる。ノアさんみたいに、誰かの心を動かすような言葉を言うこともできない。本当に情けない奴なんです。でもそんなあたしでも信じてくれる人がいる。あたしと一緒に歩いてくれる人もいる。守ってあげなきゃいけない子たちもいる。だけどあたしは、その子たちを守ってあげられるのかわからない。その子たちの過去がとても重たいものだってことを知ってしまって、いますごく怖い。あの子たちにあたしはなにをしてあげられるのか、あたしはまるでわからない」
子鴉はそう言ってまぶたを閉じた。苦悩に満ちた表情。でもそれでいて、なにかしらの覚悟を秘めているように我には思えた……。
テーマ : 二次創作 - ジャンル : 小説・文学
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