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中国にも選挙はある!私が目撃した独裁国家の選挙(高橋)

2015年10月15日

「中国には選挙がない」とはしばしば聞く話ではないだろうか?

だがこの言葉は正確ではない。実は中国にも選挙“制度”はちゃんと存在しているのだ。どんな選挙制度が存在するのか、そしてそれにもかかわらずなぜ「選挙がない」ように見えるのか、考えてみたい。


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中国の選挙制度と「党の指導」

中国憲法第34条では、「中華人民共和国の満18歳以上の公民は、民族、種族、性別、職業、家庭や出身、宗教信仰、教育程度、財産状況、居住期間に関わらず、すべて選挙権および被選挙権を有する。ただし、法律により政治的権利を剥奪された者はこの限りではない」と規定されている。憲法上は中国にも選挙があるわけだ。ただし日本人が一般的に考える選挙とは大きく異なる。
中国の「議会」は4つの段階に分かれている。上から順に、全国人民代表大会、省級人民代表大会、県級人民代表大会、郷級人民代表大会の4つだ。このうち、一般市民の投票の対象となっているのは、県級人民代表大会、郷級人民代表大会の2つまでで、それ以上の人民代表大会の議員は、一つ下の級の代表大会の議員による選挙によって選ばれることになる(市民の視点からすると間接選挙)。ここだけ聞けば、ある程度まっとうな選挙のようにも見えるのだが、実は全国人民代表大会、省級人民代表大会の議員の立候補者は、下級の人民代表大会の議員である必要はない。県級人民代表大会、郷級人民代表大会に選ばれていない人物が議員となることができる。市民に選ばれていない者でも国の議員である全国人民代表大会代表になれるわけだ。

また立候補には中国共産党か友党、もしくは選挙民10人以上からの推薦が必要となっている。余談だが、中国には共産党以外の政党も存在する。ただし日本の野党とは異なり、あくまで共産党の政策に従う政党でしかない。「共産党の友党」と呼ばれるゆえんだ。中国民主同盟、中国農工民主党などがある。

10人の推薦が条件だというなら、誰でも簡単に立候補できそうなものだが、現実は異なる。1970年代までは中国共産党の指導により、等額選挙、つまり立候補者数と当選枠が同数とされていた。例えば、ある選挙区で当選枠3人の選挙が行われたとする。そこに10名以上の推薦を得て、8人ほどが立候補したとする。しかし中国共産党の指導により、立候補者は3人まで減らされてしまうのである。形式的な選挙は存在していたが、結果は事前に決まっていたわけだ。

さすがにこれでは選挙とは呼べないため、現在では差額選挙が導入された。それでも競争率は最高で2倍になるよう「指導」されている。つまり当選枠3人の選挙区では最大6人までしか立候補できない。また選挙委員会による審査もあり、事実上「中国共産党のメガネに叶う人物しか立候補できない」制度になっている。


ついに「選挙」を発見

「中国に選挙がない」という言葉は正確ではない。「立候補の自由がなく、形骸化した選挙が行われている」というのが正しいところだ。ただそれは建前としての制度論だ。実際に中国人に話を聞いてみると、「憲法にも選挙法にも選挙に関する規定がある」と言っても、「選挙があるなんて告知聞いたこともないし、やってるのを見たこともない」とか「選挙なんか行ったことない。周りの人も誰も行ったことがない」という回答ばかり。ある中国人の法学教授は「憲法には選挙の規定があるが、それを無視した違憲政治が続いている」と批判していた。

中国人ですら見たことがない「選挙」。やはり存在しないのだろうか。いやいやそうではない。筆者は先日、北京市で選挙を目撃した。投票箱が出る一週間ほど前に選挙ポスターらしきものが貼りだされており、当日には投票箱も登場した。

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だがあまりにお粗末な選挙であることは間違いない。「道の真ん中に投票箱が置いてあるだけ」、なのだ。そして道ゆく人の誰もが投票箱に目もくれない。「選挙など見たことない」のではなく、「目に入らなかった」というのが真相なのだろうか。選挙が形式的なセレモニーにすぎないことを市民がよく知っているからだろう。実際、選挙が終わった後も当選者の公示はなかった。

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こんな無意味な選挙は資源の無駄なのでは……と考えさせられた光景だった。


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■執筆者プロフィール:高橋孝治(たかはし・こうじ)
日本文化大学卒業。法政大学大学院・放送大学大学院修了。中国法の魅力に取り憑かれ、都内社労士事務所を退職し渡中。現在、中国政法大学 刑事司法学院 博士課程在学中。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』。特定社会保険労務士有資格者、行政書士有資格者、法律諮詢師、民事執行師。※法律諮詢師(和訳は「法律コンサル士」)、民事執行師は中国政府認定の法律家(試験事務局いわく初の外国人合格とのこと)。『Whenever北京《城市漫歩》北京日文版増刊』にて「理論から見る中国ビジネス法」連載中。ブログ「中国労務事情」を運営。

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