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「中国が著作権を国有化」は間違い!版面権や懲罰罰金導入の新著作権法草案

2012年04月06日

中国の新著作権法…個人著作権を全て国有化。漫画もアニメも音楽も映画も小説も全て国のもの」というTogetterまとめが注目を集めています。私は中国知財、司法の専門家ではありませんが、ぱっと見で見ても明らかな間違えが多いので簡単に指摘させていただきます。


一日漫画喫茶3
一日漫画喫茶3 / naotakem

■著作権法改定


2012年3月31日、「中華人民共和国著作権法修正案」 のパブリックコメント稿が発表されました。4月30日までパブリックコメントを受け付けています。

従来の著作権法は1990年に制定(2001年に一部修正)されたもの。この間、世界貿易機関(WTO)への加盟もあり、「国際ルールに準じた著作権保護法制ぷりーづ」との米国の求めもあり、はたまた著作権者から「もう少しうちらの権利を守れる法律よろしく」との訴えもあり、ついに改正される次第となった運び。著作権集団管理など多くの新たな規定が盛り込まれ、条文は全60条から88条へと大幅に増加しています。


■著作権が出版社のものになる?!

さて上述のTogetterまとめには

中国の新著作権法・・・個人著作権を全て国有化。もう終わり!?ワンピースの中国語正規版は政府機関が勝手に使っても合法!? 中国の漫画家という職業はもはや奴隷!?・・・中国人漫画家さんの今朝の怒りの叫び。詳細問い合わせ中

例えば3歳の子供が描いた絵を、出版社が勝手に小説の表紙に使ったとしても、合法。その3歳の子供の親が出版社を訴えても法律によって賠償を貰えません。出版社の編集者はネットで拾った個人写真でも書籍に印刷して出版できる。もちろん二次加工でも合法。

中国の新著作権法、第60条と第70条、著作権弁護士さんの説明によると:出版社(国有)に帰属するメンバーはメンバー以外の作家の作品に勝手に授権できる、出版社に帰属してないメンバー(作家)の作品は出版社に使用されても、著作権侵害を訴えても賠償を貰えません。

とあります。

なんだか大変なことが起こっていそうですが、問題の条文は以下のとおり。

第60条:著作権集団管理組織は権利者の権利委託を受け、全国で権利者の利益を代表する。国務院著作権行政管理部門に全権利者を代表して、著作権及び関連する権利の行使を申請できる。権利者の書面による声明では集団管理の除外を得ることはできない。権利者が集団管理を拒否する書面声明した場合には除外する。

第70条:使用者は著作権集団管理組織との契約、あるいは法律の規定に基づき、著作権集団管理組織に報酬を支払う。権利者による同一の権利、同一の使用方式による訴訟に対しては賠償責任を負わないが、使用は停止しなければならない。集団管理の使用料金基準に則して報酬を支払う。

まとめでは著作権が出版社に帰属するとありますが、これは誤り。JASRACのような著作権集団管理組織に委託することができるというものであり、かつ委託は義務ではありません。

*追記
コメント欄でご指摘いただきましたが、私の誤読がありました。60条と70条は北欧の拡大著作権集団管理制度を取り入れたもので、集団管理組織への委託は義務ではないが、権利者が除外申請をしないかぎり、「全権利者」の著作権及び関連する権利を管理組織が行使できるということです。除外声明を出していない作品に関しては、とりあえず管理組織に使用料を払っておけば、使用者はそれ以外に罰金を支払う必要はないという仕組みです。

人民日報によると、管理組織に委託していない企業がカラオケ店を告訴、管理組織の規定以上の料金を要求するという裁判が続き、一部音楽企業は管理組織を脱退し、独自にカラオケ店から利用料を徴収しようとする動きが広がっていたことに対応する措置とのこと。

管理組織が定めた著作権使用料に不満で、独自により高額の利用料を求めたいと考える権利者及び企業にとっては不満、ということで反発があるようです。

ちなみに著作権集団管理制度は別に今回できたものではなく、2004年の「著作権集団管理条例」で法整備がなされています。今回の改訂で改訂で著作権法本体に組み込もうという内容です。2008年に音楽関連の中国音像著作権集体管理協会(音集協)、文学関連の中国文字著作権協会が発足しています。

なお著作権集団管理組織は国の認可さえ得られれば複数立ち上げることができますが、実際にどうなるかは運用次第。 すでに「音集協の手数料ぼりすぎ!もっと権利者に配分を」といった批判もでていますので、複数の管理団体が競争するようになるのが好ましいのでしょうが。

他にもまとめの誤解はあります。「例えば3歳の子供が描いた絵を、出版社が勝手に小説の表紙に使ったとしても、合法」という話ですが、48条の「著作権者の認可を経ずして発表作品を利用できる」という下りかと思われます。ただそれは他の条文で学校教科書、新聞・雑誌による時事ニュースの掲載(ただし権利者が拒否声明を出している場合はのぞく)、録音製品(これについては後述)、ラジオ、テレビ局に限定されており、国務院著作権管理部局に申請の上、使用料を支払うことが定められています。


■中国では何が問題とされているのか?

中国でも著作権法改訂が注目を集めていますが、「著作権が国有化される!」といったミスリードはさすがにないようです。Togetterまとめにひきつけていうと、「著作権集団管理組織に権利を委託すると、権利者の使用認可なしに作品が使われ放題かよ!」という48条まわりの反発があるようですが、上述のとおり新聞・雑誌、テレビ、ラジオ、教科書に限定された話であり、誰でもコピーし放題という話ではないので、ちょっと誤解されているというべきでしょう。

一番話題となっているのが「46条:最初の発行から3カ月が過ぎた録音製品については、その他録音制作者は著作権法48条が規定する条件に基づき、著作権者の許可を経ずしてその音楽製品を利用して録音製品を製作することができる」という条文。

あるレーベルからCDが発行されて3カ月後、別のレーベルもその音源を使ってCDを製作することができる、という意味に読めます。著作権者には利用料が入るけど、最初に発行したレーベルには3カ月間しか独占権がないのか、という話に。

かなりアグレッシブな規定に見えます。ネットの音楽配信サイトが著作権者に金さえ入るようにすれば許可を得ずとも配信できるというふうに読めますので、ミュージシャンやレーベルの間で相当反発が広がっているようです。ただし第73条には著作権者の許可を得ずして録音製品の放送、複製を禁ずるという条項もありますし、ちょっと兼ね合いがわからないところですが。

ネットといえば、

69条:ネットサービス提供者はネットユーザーに保存、検索、リンクなどの単純な技術サービスを提供する際、著作権及び関連する情報検閲義務を負わない。ネットユーザーがネットサービスを利用して著作権を侵犯、あるいは関連する行為を行った場合、権利を侵害された者はネットサービス提供者に対して、削除、非表示、リンク削除などの必要な措置を求めることができる。ネットサービス提供者は通知を受けた後、速やかに必要な措置を採る必要がある。その際、賠償責任はない。もし速やかに必要な対応を採らない場合はネットユーザーとともに連帯責任を負う。

も注目です。百度のMP3検索(ネット上の音楽ファイルを検索できるサービス)や、あるいはドロップボックスなどのクラウドファイルサービスに免責を与える内容です。文句を言われたら削除、を徹底すれば賠償しなくていいという意味で、IT企業には福音となりそう。ただしどこまでが「単純な技術サービス」で、どこからが権利侵害の複雑な技術なのか、線引きが難しそうですが。


■版面権キター!

個人的に面白かったのが、出版社の関連する権利。

29条:本法内で指す出版とは複製及び発行を指す。本法内で指す半面デザインとは、図書及び雑誌の版面デザインを指す。版面、配置、フォント、行間、タイトル、引用文、及び句読点など版面デザイン要素の配置を意味する。

30条:出版者は他社にその出版した図書、雑誌の版面デザインの使用許可を与える権利を持つ。この規定に基づく権利の保護期間は10年。当該版面デザインが利用された図書、あるいは雑誌が最初に出版された後の1月1日を基準点とする。

というわけで、最近日本で話題の版面権が認められたもよう。権利者が認めたとしても、出版者が作った版面の流用は10年間は認められない、ということになります。絶版になった書籍を電子書籍にする場合でも、単純に元書籍をスキャンしたものはアウトとなります。


■作者身分不明の作品

もう一つ、注目の条項は第24条、第25条。「作者身分不明の作品」に関するものです。例えば過去の作品で、権利者が行方不明、連絡がとれない場合、再利用が大変面倒なわけですが、「頑張って探しても見つからなかった場合」には、とりあえず国務院著作権部局に申請、利用料を支払うことで、権利問題をクリアできるというもの。

過去の映像作品の合法的再利用が進むだけではなく、2ちゃんねる・まとめ本のような匿名作者の文章などを使った作品を製作する際にも便利になりそうです。無理やり日本にこじつけるならば、日本の潰れてなくなった製作会社の映像や、同人誌など連絡先がわからない作品も中国で合法的に再利用が可能になる……ということもあるかもしれません。


■案外バランスよくないですか?

とまあ、中国の知財、司法の素人がざっと草案、関連報道を眺めた感想でした。

複数回の権利侵害という悪質な行為があった場合には、被害額の3倍という懲罰的罰金が認められるなど権利者擁護に配慮する一方で、ネットサービスや申請しての作品利用には賠償金免除規定を盛り込むなど、新産業のコンテンツ利用にも配慮した法律という印象です。

もちろん制作者や企業には不満もあるでしょうし、パブリックコメント稿からの修正もあるのでしょうが、権利擁護と新産業への配慮がバランスよく盛り込まれたという感想ですが、いかがでしょうか?

関連記事:
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トラックバック一覧

  1. 1. ここは酷い直営見直しですね

    • [障害報告@webry]
    • 2012年04月07日 14:24
    • 橋下市長、市音楽団員の配転認めず「分限免職」 : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞) http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120405-OYT1T01403.htm こういう首のやり方は民間ではあり得ない てか90年くらいの歴史があるわけなんだが 本来はこういう「資産」を徹底

 コメント一覧 (6)

    • 1. 読者
    • 2012年04月06日 12:53
    • 解説に「借鉴北欧国家著作权集体管理制度…
      国务院著作权行政管理部门可以许可其代表非会员开展延伸性著作权集体管理业务」とあるように、
      60条は北欧諸国で採用されている拡大集中管理制度を導入するものです。
      「权利人书面声明不得集体管理」がない限り、
      非会員を含む「全体权利人」の権利が管理団体によって管理され(60条)、
      個別の権利者によるの損害賠償請求はできなくなります(70条)。
    • 2. Chinanews
    • 2012年04月06日 13:02
    • > 読者様
      コメントありがとうございました。
      なるほど、よくわかりました。記事を修正させていただきます。
    • 3.  
    • 2012年04月06日 13:19
    • 中国擁護が必死過ぎてヘソで茶が沸きますね
    • 4. (・∀・)
    • 2012年04月06日 14:06
    • ※3の人は具体的な反論ができない人なんですかね…?
    • 5. keinear
    • 2012年04月06日 15:42
    • この条文が守られるのはあちらの国内だけであって、海外の作品(ましてや日本の作品)において守られると本気で中国を信頼して思っているのなら、それはお花畑だ何だと言われても仕方ないだろう。
      良いか悪いかではなく、現実問題としてこういう法律が出来たからといって、全く信用にも値しないということ。
      この法律が「いいもの」と言ってるわけでは断じてない。
      自分の批判は、「著作権なんていう概念を、中国の一般人が理解出来るとは思えない。」っていう偏見に基づいたものだということも付け加えておく。
    • 6. s
    • 2012年04月10日 18:47
    • ※3は低脳

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