ウクライナ平和維持ミッションのどれかにポーランドが参加すれば第3次世界大戦の恐れ(抄訳)
2024/12/15のアンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。少しだけ補足した。西洋/NATOがウクライナに平和維持軍として駐留する話が進んでおり、これだけでも状況は既に十分危険だが、これにポーランドが参加するとなると、賭け金はこれまでに無い程跳ね上がる。
そもそもNATOがウクライナを対ロシア代理戦争の前哨基地に変えたことが軍事対決の原因だったのだから、西洋/NATOの「平和維持軍」を送り込むなどと云う案は、狐に鶏小屋の番をさせると云うか、子ヤギ達の居る小屋へオオカミを入れると云うか、状況を悪化させることにしかならんでしょ。何度も強調している様にウクライナ紛争は「ロシアvsウクライナ」ではなく、「ウクライナを捨て駒として利用するNATOvsロシア」の戦いであり、侵略しようとしているのはロシアではなくNATOの方だ。この点を無視したあらゆる議論は無意味なばかりか非常に危険だ。
Poland’s Participation In Any Ukrainian Peacekeeping Mission Could Lead To World War III
西洋/NATOの平和維持軍の話が進んでいる
2024/12/12、フランスのエマニュエル・マクロン大統領とポーランドのドナルド・トゥスク首相はウクライナに西洋の平和維持軍を派遣する可能性について論じたが、これはトランプの当選以来、所謂「オヴァートンの窓(政治的に許容可能な限界)」が如何に変化したかを物語っている。
この話題は以前は完全にタブーだった。マクロンがウクライナへのNATO軍の正規介入を示唆した時には、ポーランドとバルト諸国以外の殆どの西洋の指導者達から非難の声が上がった。
背景の解説
最近の重要な出来事は以下の通り。
・2024/11/07:トランプの和平計画は恐らくどの様なものか、また何故ロシアはそれに応じると考えられるのか(抄訳)
・11/09:ロシアがウクライナ紛争で最大限の目標を達成する為の刻限は刻々と迫っている(抄訳)
・11/10:ウクライナに西洋/NATOの平和維持軍を派遣すると云うトランプの計画に対する10の障害(抄訳)
・11/11:トランプがロシア・ウクライナ和平条約草案を復活させるべき5つの理由(抄訳)
・11/18:運命の瞬間:ウクライナが西洋の長距離ミサイルを使用した場合、ロシアはどう対応するのか?(抄訳)
・11/20:Russia’s Updated Nuke Doctrine Aims To Deter Unacceptable Provocations From NATO
・11/22:プーチンは到頭エスカレーションの梯子を登り始めた(抄訳)
・11/29:ロシア対外諜報局が、10万人規模のNATOがウクライナに介入すると警告(抄訳)
・12/05:停戦条件に関するゼレンスキーの態度変更は偽りの譲歩だ(抄訳)
トランプは一旦状況をエスカレートさせてプーチンに圧力を掛けることで、その後の交渉を有利に進めたい様だ。彼はまた欧州が接触線沿いの非武装地帯をパトロールすることを望んでいるが、これはロシアにとって受け入れられないだろう。
同時にトランプはウクライナに米国製の長距離兵器でロシアの奥深くを攻撃させると云うバイデンの戦略を非難し、ロシアへの譲歩としてウクライナから長距離兵器を撤去する可能性を示唆している。
接触線に沿って紛争を凍結すると云う提案は何も新しいものではないが、そこに西洋/NATOの軍を展開すると云うことは、ロシアの最も重要なレッドラインのひとつを超えることになるので、これまで真剣に検討されて来なかった。
だがトランプはNATOの権限外で欧州軍が活動すると云う条件で(ロシアの正当な懸念を和らげる為だろう)、正にこうした提案を考えている様だと報じられている。
ポーランドは参加したくない
だが、地理と歴史の観点からこの平和維持活動で最も重要な役割のひとつを担うであろうポーランドは尻込みしている。
ポーランド国家安全保障局の報道官はこう述べている:
「ポーランドでは現在、ウクライナの安定化部隊の一部として軍事的に関与する可能性は如何なるものも検討されていません。」
これに続いてシモン・ホロウニア下院議長はこう述べている:
「我々がウクライナに於て様々な形態で軍事的に関与することは、NATOの傘の下とNATOの構造内でのみ起こり得ることです。」
この2つのコメントは、マクロンとトゥスクの会談の前だったことを指摘しておこう。
会談後の記者会見でトゥスクは平和維持軍に参加する可能性を否定し、「憶測を断つ」為に、「ポーランドに関する決定はワルシャワで、ワルシャワだけで行われます。当面、その様な行動は計画していません」と宣言した。
ラデク・シコルスキ外相は翌日、自国の第一の任務は国境を守ることだと述べたが、平和維持活動が実際に行われる場合には、ポーランドは後方支援を提供する用意が有るとも付け加えた。
ポーランド参加問題を巡る注意点
これらの4つの発言は殆どのメディアによって、ポーランドはウクライナでの平和維持活動には参加しないと云う意味に解釈されたが、行間を読むと、幾つか注意点が有る。
ホロウニア外相は、ポーランドはNATOの一員としてのみ参加すると断言したが、トランプはNATO外での活動を考えている。但し米国はNATO外であってもNATO憲章第5条と同様の保証を請け合って、ポーランドを説得出来るかも知れない。
また、来年にはポーランド大統領選挙が控えている。ポーランド人はNATOとロシアの代理戦争にうんざりしているし、ウクライナから無礼な態度を取られ続けた結果、ウクライナ全般にもうんざりしている。従って今更ウクライナの為にポーランド軍を危険に曝すなどと提案すれば、大統領選の見通しを損なうことになる。
退任する現大統領が最高司令官である為、実行には彼の承認が必要になる。彼はトランプと親しく、また自分の所属する野党が親米であると自慢していたものの、選挙上の配慮からこれに同意しないかも知れない。
だが同時にポーランドは大詰めの局面から自分達が除け者にされていると感じている為、他国から取り残されないようにポーランドの参加を承認するかも知れない。その場合リベラル・グローバリストの現与党と保守ナショナリストの野党(前与党)は、この点で同じスタンスを取ることになる。
或いは両党とも愛国者の支持を得る為に参加を支持しないかも知れない(一部のポーランド人は現与党がウクライナに対して厳しい姿勢を取っていることに惹かれている)。その場合ポーランドは大詰めから更に自らを排除することになるが、どの道トランプがNATOの枠組みで参加することを許さないのであれば、ポーランドは見捨てられることを恐れる必要は無くなる。
ロシアの観点から見ると、こうした議論が進められていること自体が既に十分懸念材料ではあるが、ポーランドが参加するとなると脅威認識は更に高まるだう。ポーランドはヨーロッパ最大の陸軍を構築する計画を持っており、しかもロシアと連合国家を構成するベラルーシとカリーニングラードとは国境を接している。若し新たな紛争が持ち上がれば、ポーランド領内でNATOとロシアの直接的敵対行為が始まるかも知れない。
トランプの和平計画が抱える困難
トランプは恐らくこのシナリオを回避したいと考えている。彼は平和維持任務からNATOを外し、ウクライナにはNATOから一定期間距離を置かせ、西洋製の長距離ミサイルも撤去することを示唆している。ポーランドがこのミッションに参加すれば、これらの努力は全て無駄になる。
従ってトランプとしてはポーランドをこのミッションから遠ざけるのが最善だが、それは見掛けよりも難しい。
ポーランドはこうしたミッションにとって兵站上不可欠であり、従ってポーランドを議論から除外することは政治的に不適切だ(特にポーランド指導者が参加を希望した場合には)。
またポーランドはNATO加盟国なので、ポーランドをあからさまに除外すれば、既にNATO内に沸騰している疑惑や憤りが更に高まる恐れが有る。ポーランドは自国を最も米国忠実なメンバーだとアピールしているので尚更だ。
ロシアへの抑止力を強化する為にポーランドは参加した方が良いと主張することも出来るが、逆に、エスカレーションを避ける為に参加しない方が良いと主張することも出来る。これは内部の政策立案と外部の評判の両方を勘案する必要が有る。
これらの要因がトランプの和平計画を狂わせ、より危険なものにするかも知れない。
そもそもロシアが特別軍事作戦を開始した理由のひとつはNATOをウクライナから締め出すことであり、ロシアはNATO軍がウクライナ入りすれば正当な標的と見做すと警告していた。にも関わらずトランプは平和維持軍の話をしているのだから、状況は既に十分危険だ。
彼は、ロシアははったりをかましている。或いは米国が一旦状況をエスカレートさせても平気だと云う前提で考えている。だが彼が間違っていれば黙示録的な結末が齎されることになる。これは前例の無い程危険なゲームだ。
従って彼がこの計画を放棄するのが最善だが、若し彼がこれかそのヴァリエーションを進めるつもりなら、ポーランドの直接関与は避けるべきだ。関与した場合、第3次世界大戦に繋がる新たな紛争のリスクが、ダモクレスの剣の様に全人類の頭上にぶら下がることになる。キエフの過激なイデオローグ達はこれを利用して世界を脅迫するかも知れない。
そもそもNATOがウクライナを対ロシア代理戦争の前哨基地に変えたことが軍事対決の原因だったのだから、西洋/NATOの「平和維持軍」を送り込むなどと云う案は、狐に鶏小屋の番をさせると云うか、子ヤギ達の居る小屋へオオカミを入れると云うか、状況を悪化させることにしかならんでしょ。何度も強調している様にウクライナ紛争は「ロシアvsウクライナ」ではなく、「ウクライナを捨て駒として利用するNATOvsロシア」の戦いであり、侵略しようとしているのはロシアではなくNATOの方だ。この点を無視したあらゆる議論は無意味なばかりか非常に危険だ。
Poland’s Participation In Any Ukrainian Peacekeeping Mission Could Lead To World War III
西洋/NATOの平和維持軍の話が進んでいる
2024/12/12、フランスのエマニュエル・マクロン大統領とポーランドのドナルド・トゥスク首相はウクライナに西洋の平和維持軍を派遣する可能性について論じたが、これはトランプの当選以来、所謂「オヴァートンの窓(政治的に許容可能な限界)」が如何に変化したかを物語っている。
この話題は以前は完全にタブーだった。マクロンがウクライナへのNATO軍の正規介入を示唆した時には、ポーランドとバルト諸国以外の殆どの西洋の指導者達から非難の声が上がった。
背景の解説
最近の重要な出来事は以下の通り。
・2024/11/07:トランプの和平計画は恐らくどの様なものか、また何故ロシアはそれに応じると考えられるのか(抄訳)
・11/09:ロシアがウクライナ紛争で最大限の目標を達成する為の刻限は刻々と迫っている(抄訳)
・11/10:ウクライナに西洋/NATOの平和維持軍を派遣すると云うトランプの計画に対する10の障害(抄訳)
・11/11:トランプがロシア・ウクライナ和平条約草案を復活させるべき5つの理由(抄訳)
・11/18:運命の瞬間:ウクライナが西洋の長距離ミサイルを使用した場合、ロシアはどう対応するのか?(抄訳)
・11/20:Russia’s Updated Nuke Doctrine Aims To Deter Unacceptable Provocations From NATO
・11/22:プーチンは到頭エスカレーションの梯子を登り始めた(抄訳)
・11/29:ロシア対外諜報局が、10万人規模のNATOがウクライナに介入すると警告(抄訳)
・12/05:停戦条件に関するゼレンスキーの態度変更は偽りの譲歩だ(抄訳)
トランプは一旦状況をエスカレートさせてプーチンに圧力を掛けることで、その後の交渉を有利に進めたい様だ。彼はまた欧州が接触線沿いの非武装地帯をパトロールすることを望んでいるが、これはロシアにとって受け入れられないだろう。
同時にトランプはウクライナに米国製の長距離兵器でロシアの奥深くを攻撃させると云うバイデンの戦略を非難し、ロシアへの譲歩としてウクライナから長距離兵器を撤去する可能性を示唆している。
接触線に沿って紛争を凍結すると云う提案は何も新しいものではないが、そこに西洋/NATOの軍を展開すると云うことは、ロシアの最も重要なレッドラインのひとつを超えることになるので、これまで真剣に検討されて来なかった。
だがトランプはNATOの権限外で欧州軍が活動すると云う条件で(ロシアの正当な懸念を和らげる為だろう)、正にこうした提案を考えている様だと報じられている。
ポーランドは参加したくない
だが、地理と歴史の観点からこの平和維持活動で最も重要な役割のひとつを担うであろうポーランドは尻込みしている。
ポーランド国家安全保障局の報道官はこう述べている:
「ポーランドでは現在、ウクライナの安定化部隊の一部として軍事的に関与する可能性は如何なるものも検討されていません。」
これに続いてシモン・ホロウニア下院議長はこう述べている:
「我々がウクライナに於て様々な形態で軍事的に関与することは、NATOの傘の下とNATOの構造内でのみ起こり得ることです。」
この2つのコメントは、マクロンとトゥスクの会談の前だったことを指摘しておこう。
会談後の記者会見でトゥスクは平和維持軍に参加する可能性を否定し、「憶測を断つ」為に、「ポーランドに関する決定はワルシャワで、ワルシャワだけで行われます。当面、その様な行動は計画していません」と宣言した。
ラデク・シコルスキ外相は翌日、自国の第一の任務は国境を守ることだと述べたが、平和維持活動が実際に行われる場合には、ポーランドは後方支援を提供する用意が有るとも付け加えた。
ポーランド参加問題を巡る注意点
これらの4つの発言は殆どのメディアによって、ポーランドはウクライナでの平和維持活動には参加しないと云う意味に解釈されたが、行間を読むと、幾つか注意点が有る。
ホロウニア外相は、ポーランドはNATOの一員としてのみ参加すると断言したが、トランプはNATO外での活動を考えている。但し米国はNATO外であってもNATO憲章第5条と同様の保証を請け合って、ポーランドを説得出来るかも知れない。
また、来年にはポーランド大統領選挙が控えている。ポーランド人はNATOとロシアの代理戦争にうんざりしているし、ウクライナから無礼な態度を取られ続けた結果、ウクライナ全般にもうんざりしている。従って今更ウクライナの為にポーランド軍を危険に曝すなどと提案すれば、大統領選の見通しを損なうことになる。
退任する現大統領が最高司令官である為、実行には彼の承認が必要になる。彼はトランプと親しく、また自分の所属する野党が親米であると自慢していたものの、選挙上の配慮からこれに同意しないかも知れない。
だが同時にポーランドは大詰めの局面から自分達が除け者にされていると感じている為、他国から取り残されないようにポーランドの参加を承認するかも知れない。その場合リベラル・グローバリストの現与党と保守ナショナリストの野党(前与党)は、この点で同じスタンスを取ることになる。
或いは両党とも愛国者の支持を得る為に参加を支持しないかも知れない(一部のポーランド人は現与党がウクライナに対して厳しい姿勢を取っていることに惹かれている)。その場合ポーランドは大詰めから更に自らを排除することになるが、どの道トランプがNATOの枠組みで参加することを許さないのであれば、ポーランドは見捨てられることを恐れる必要は無くなる。
ロシアの観点から見ると、こうした議論が進められていること自体が既に十分懸念材料ではあるが、ポーランドが参加するとなると脅威認識は更に高まるだう。ポーランドはヨーロッパ最大の陸軍を構築する計画を持っており、しかもロシアと連合国家を構成するベラルーシとカリーニングラードとは国境を接している。若し新たな紛争が持ち上がれば、ポーランド領内でNATOとロシアの直接的敵対行為が始まるかも知れない。
トランプの和平計画が抱える困難
トランプは恐らくこのシナリオを回避したいと考えている。彼は平和維持任務からNATOを外し、ウクライナにはNATOから一定期間距離を置かせ、西洋製の長距離ミサイルも撤去することを示唆している。ポーランドがこのミッションに参加すれば、これらの努力は全て無駄になる。
従ってトランプとしてはポーランドをこのミッションから遠ざけるのが最善だが、それは見掛けよりも難しい。
ポーランドはこうしたミッションにとって兵站上不可欠であり、従ってポーランドを議論から除外することは政治的に不適切だ(特にポーランド指導者が参加を希望した場合には)。
またポーランドはNATO加盟国なので、ポーランドをあからさまに除外すれば、既にNATO内に沸騰している疑惑や憤りが更に高まる恐れが有る。ポーランドは自国を最も米国忠実なメンバーだとアピールしているので尚更だ。
ロシアへの抑止力を強化する為にポーランドは参加した方が良いと主張することも出来るが、逆に、エスカレーションを避ける為に参加しない方が良いと主張することも出来る。これは内部の政策立案と外部の評判の両方を勘案する必要が有る。
これらの要因がトランプの和平計画を狂わせ、より危険なものにするかも知れない。
そもそもロシアが特別軍事作戦を開始した理由のひとつはNATOをウクライナから締め出すことであり、ロシアはNATO軍がウクライナ入りすれば正当な標的と見做すと警告していた。にも関わらずトランプは平和維持軍の話をしているのだから、状況は既に十分危険だ。
彼は、ロシアははったりをかましている。或いは米国が一旦状況をエスカレートさせても平気だと云う前提で考えている。だが彼が間違っていれば黙示録的な結末が齎されることになる。これは前例の無い程危険なゲームだ。
従って彼がこの計画を放棄するのが最善だが、若し彼がこれかそのヴァリエーションを進めるつもりなら、ポーランドの直接関与は避けるべきだ。関与した場合、第3次世界大戦に繋がる新たな紛争のリスクが、ダモクレスの剣の様に全人類の頭上にぶら下がることになる。キエフの過激なイデオローグ達はこれを利用して世界を脅迫するかも知れない。
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