通信事業者からの反応はどうか。
日本の通信事業者や機器メーカーからは何のアクションもない。2月にソフトバンクテレコムと共同でプレビュー・イベントを開催したが,ソリューション・プロバイダとしてかかわってくれている。ソフトバンクとは独占的な契約は結んでいない。
むしろ海外のメーカーや通信事業者が積極的だ。具体的にはフィンランドのノキア,韓国のLG電子,サムスン電子,SKテレコム,フランスのブイグテレコムなどから話をもらっている。
セカイカメラは日本から世界規模のプラットフォームを提案できる飛び道具だと思う。国内のメーカーや通信事業者は,これに乗って海外にどんどん進出すれば良いはずだ。そのために人的,資金的なリソースを持っているのだから。
ソフトバンクには最初に話したときに,「うちは国内を踏み台に世界に行くので,ソフトバンクさんの案件に細かく付き合って海外に出るチャンスを失うとか,ほかの通信事業者と組めないとか,ほかのデバイスに移植できないとかいう制約はお断りです」と伝えてある。ソフトバンクは元がベンチャー企業なので,我々の意図を理解してくれた。そういうスタンスでできないなら,我々は本社を米国や欧州に移して,現地で通信事業者や機器メーカーと協業するという選択もあった。
我々は資金も人も限られているので,可能性が最も大きいところにかけたい。日本国内のサービスに例えば3年かかっていたら,多分グーグルやマイクロソフトが世界のARのデファクトを取ってしまうだろう。
エアタグの仕様やスペックを公開して,誰でもエアタグを投稿できるようにするか。
そんなに遠くない先に公開する。APIのオープン化は,ほぼ必須と思っている。エアタグの作り方のようなものも,将来的には公開する。
ユーザーがタグを投稿すると,悪いものを含めてタグでいっぱいになるのでは。
もしタグがいっぱいで画面が真っ黒になっても“エアフィルター”と呼ぶフィルタで,このタイプのタグしか見ないといった選別をユーザーができる。例えばイリーガルなキーワードは外すとかいった運用だ。
ソーシャルなメディアは,ノイズの部分も含めて動的に広がっていく。こういう問題があったらこういう解決法がある,といったフレキシブルでダイナミックな動き方が必要だ。ここは日本のメーカーや通信事業者が苦手な部分といえる。
セカイカメラのネットワークの向こう側はどうなっているのか。
米アマゾンが提供するクラウド・サービス「Amazon EC2」で動いている。iPhoneから次にAndroidに展開する際もサーバー・リソースはクラウドに置いて,ユニバーサルなサービスとする。
セカイカメラの技術的な課題は。
これまでのインターネットは,24時間リモートで,世界中どこからでも利用できるが,“ここ”とか“今”という使い方にはフォーカスしていない。だからこそ,現在ここにある情報を有視界範囲に届けるのが,我々のポジションだ。
抱えている課題は,セカイカメラをソーシャルなARとして大勢のユーザーに使い続けられるようにすること,バックエンドのジオメトリーなデータとソーシャルなデータを掛け合わせて,素早くレスポンスすること,の2点である。そのエンジニアリングとオペレーションを構築しないといけない。
技術的なアドバンテージがないと,ほかのサービスに追い抜かれるのでは。
技術にはいくらでも代わりがある。例えば方位を測定する技術がないなら,そこに縛られない形で情報を提供すればよい。ニュースや交通の混雑情報,ローカルなテレビ番組表,新聞を提供する場合,方位は要らない。
実家に戻ったときにセカイカメラをのぞくと,地方の新聞が読めたりラジオを聞けるといったサービスをできれば,体験としては面白い。これなら技術に引っ張られずに提供できる。
コストを掛けたから良いわけではない。携帯電話にたくさんセンサーを搭載していればベターというわけではない。簡単で効果が上がる方が良いという考えで実装を急いできた。消費者は高度な技術だから使うというよりも,楽しいとか,便利だからというところでサービスを使うはずだ。
井口 尊仁(いぐち・たかひと)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年3月6日)