「SOAの本質はWebサービスにある」。「ESB(エンタープライズ・サービス・バス)でサービス化したシステムを連携させる,それがSOAのポイントだ」。「SOAの成否はビジネス・プロセスの分析と整備にかかっている」。「いかにコンポーネントをサービス化するかがSOAの要だ」。「SOAはMDA(モデル駆動アーキテクチャ)に行き着く」---。
SOAについては,さまざまな立場の人やさまざまなベンダーが,それぞれの解釈や得意分野から「SOAとは何か」を語っている。
それらの論は,SOAをある側面からとらえた時には正しい。ただやっかいなのは,そうした「部分的には正しいメッセージ」ばかりがIT業界で語られていることだ。
全体像を理解した上で“部分の説明”を受けるのならともかく,いきなり最初に部分の説明を聞かされても,メッセージの受け手は混乱してしまう。ユーザー企業のCIO(情報統括役員)やシステム部長で,SOAという言葉に嫌悪感を持ったり嫌疑の目を向ける人が多いのは,IT業界でSOAについてそうした状況が続いているからである。
ITベンダーは,ソフトやソリューションをユーザー企業に購入してもらうことで糧を得ている。だからベンダーがSOAを各社の得意な切り口で語り,説明し,売り込みたくなるその気持ちはよくわかる。
しかし私はベンダーの方々に「ちょっと待ってほしい」と言いたい。IT提供側がひたすら“部分の説明”に終始してきたため,ユーザー企業の多くは,「結局SOAとは何かを理解する」というフェーズから抜け出せていないのだ。一部の先進企業は別として,日本企業の大半はこのフェーズにあると言って良いだろう。
友人を目隠ししたまま象の前に連れて行き,触ってもらったとしよう。鼻を触った人は「ざらざらしてやたら細い動物だ」としか言わないもしれない。一方,足を触った人は「この感触と太さからすると,きっとこの動物は犀(さい)だ」と言う。はたまた角を触った人は,そもそも動物であると認識しないかもしれない。
極端な比喩だが,とにもかくにも,目隠しを取り,一歩離れて全体を見なければ,象はどんなものかはわからない。仏典や童話に同種のエピソードがいくつかあるが,SOAというキーワードを取り巻く現状は,まさにこれだ。
SOAは考え方を示す,特定の技術を指すわけではない
企業はいま「俊敏さ」を追及している。SOAは「俊敏な企業を実現するうえで必要なシステム作りの考え方,システムの構造,それを支える技術群」,と理解してもらうのが良いだろう。
建築物を完成させるためには,意匠設計や構造設計,設備設計などさまざまな考え方や技術が必要だ。SOAの最後の「A」がアーキテクチャを示すことからわかるように,俊敏な企業のシステム作りに必要な要素が詰まっているのが,SOAである。
SOAはこれまでIT分野に登場してきたERPなどの「3文字用語」とは意味の“次元”が異なる。ERPは企業リソースの一元管理だが,的確ではあるものの限定的な業務領域を指すものでしかない。一方,SOAはシステム構築の考え方全体を指すので,それらよりずっと領域が広い。これを留意してもらえると,SOAを理解しやすくなるはずだ。
誤解を解きほぐし,SOAのメリットと気付かぬポイントに触れる
本連載ではSOAのメリットや本質に触れながら,企業がSOAに取り組む必然性について,俯瞰的な立場から解説していく。SOAで誰もが見落としているポイントや,SOAで企業変革に取り組むユーザー企業の動向も紹介する予定なので,ぜひご期待いただきたい。
Webの双方向性も活かしたい。読者の方から「こんな点について知りたい」というご意見も聞き,随時解説内容に盛り込んでいく予定だ。
次回以降は数回にわけて,SOAが登場した背景やSOAのメリットについて解説する。
(次回に続く)
飯島 公彦(いいじま きみひこ)/ガートナー ジャパン リサーチ ソフトウェアグループ アプリケーション統合&Webサービス担当 リサーチディレクターガートナー ジャパン入社以前は,大手SIベンダーにてメインフレームを含む分散環境におけるシステム構築・管理に関する企画,設計,運用業務に従事。特にアーキテクチャやミドルウエアを利用したインフラストラクチャに関する経験を生かし,アプリケーション・サーバー,ESB(エンタープライズ・サービス・バス),ビジネス・プロセス管理,ポータル,Webサービスといったアプリケーション統合技術に関する調査・分析を実施している。7月19日~20日に開催される「ガートナー SOAサミット 2006」では,コンファレンスのチェアパーソンを務める。ガートナーは世界75カ所で情報技術(IT)に関するリサーチおよび戦略的分析・コンサルティングを実施している。 |