弁護士 猪野 亨のブログ

　もう昔のことだと思っていたのですが、いまだに呉服の次々販売があったのには驚きました。
「買わされ続けて着物７５０万円　高齢者を狙う「次々販売」の狡猾手口」（産経新聞2022年10月15日）
「女性は最終的に約７カ月間で、分割払いも含めて約７５０万円分の商品を購入した。海外の建造物を模した柄の特別セット（２３９万円）を買わせた２カ月後に、別の特別セット（２５０万円）の売買契約をさせるという〝波状攻撃〟だった。」

　被害者は90歳で認知症で判断能力が低下した女性でした。
　750万円もの呉服を次々に買わせたというもので、裁判所では400万円の賠償が認められました。
　全額ではないのもどうかとは思います。

　呉服など日常の生活の中では全く必要性がありません。趣味で欲しいというなら格別（そういう方は既に持っています）、もはや呉服需要そのものが低迷している中で、呉服はこうした次々商法の目的物として機能してきました。
　だいたいが90歳の女性にとって呉服など着る機会など現実にはありません。
　必要としていない人にいかに売りつけるのかが儲かる極意です。


2022年10月13日撮影


　クレジット会社が呉服にもローンを通していた頃、本当に高額な呉服が次々とローンを組まされた被害が多数ありました。高齢者で年金しか収入がないのに、毎月のローンの額が年金額を超えるという異常さがありました。
「悪質商法被害対策弁護団」

　袖を通していないものばかり、山積みです。私のところでも多くの呉服（被害商品）を預かったりしたこともありました。
　クレジット会社による過剰与信が問題になり、規制とともに呉服業は衰退していたと思っていたのですが。
　呉服店が生き残るためには、こうした次々商法のことをしなければならないほど、需要は減少の一途だということです。

　売る側こそ、買わせている相手が呉服を必要としていないことを自覚しているはずです。
　高齢者の最後の蓄えまで奪ってしまうことへの心の痛みなど全く感じないのでしょう。
　こう言っては何ですが、オレオレ詐欺で年寄りからカネを巻き上げる構図とどこが違うのかということです。
　この判決では最初の販売については、通常の売買として許容されました。
　要は売買の体裁をとっているからですが、本当にこのような売買をそこまで法的に保護する必要があるのか大いに疑問です。
　自由主義経済的価値観の中では、原則自由とされていますが、規制は当然にあってしかるべきでしょう。
　判断能力が低下した消費者への販売については消費者契約法による取消が可能な場合もありますが、そもそもの規制が必要だということです。
　生産力が無駄な方向に消費されていますし、消費者側の購買力も無駄に使われることになります。経済にとってもマイナスでしかありません。



ブログランキングに登録しています。
クリックをお願いいたします。




人気ブログランキングへ

関連記事

• コンビニのレジ袋の削減の意味　ゴミ袋の活用は理由にならない 2023/01/05
• ネットで弁護士を探すことのリスク　多重債務整理の場合は要注意 2022/12/28
• マイバッグ持参が8割はちょっと違うと思う　せいぜい5割程度　有料化は正しかったがまだ途上 2022/11/28
• 呉服の次々販売　呉服の需要はない中で　高齢者から巻き上げる悪質さ 2022/10/18
• 投資詐欺　消費者金融、クレジットで借金させる手法は防げる 2022/09/10
• 霊感商法に対する取消権　消費者庁の説明の方が正しい　もともと後追いが問題　霊感商法の「検討」は自民党への批判を逸らすことが目的 2022/09/10
• 統一協会と霊感商法　現在の主流は占いサイトによる被害 2022/08/20