2025年1月14日、梅村みずほ議員が、Xにて、「画期的判決!」「虚偽DVによる親権獲得スキームに歯止めをかける光明が見えてきました。」とポストしていますが、

 

同議員が引用している判決は、相手方が、支援措置対象者の住所を知っており、探索目的要件を欠いていたことを理由に処分の取り消しを認めたものです。「被害者要件(申出者がDV被害者であること)」「危険性要件(暴力により生命又は身体に危害を受けるおそれがあること)」は認定されており、「虚偽DV」という汚名を着せることは極めて不適切な事案です。さらにいえば、別居後1か月で週1回の面会交流を実施していることが認定されており、「親子断絶」させていた事案でもありません。

この判決については、2024年12月19日、柴山昌彦議員が、「今年10月福岡高裁にて住民票不交付処分の違法性が認定され、処分取消しと損害賠償支払いを命じた判決が出たと親子ネットから紹介された。」とポストしておりましたが、

 

後日、「下記の処分取消しについて、損害賠償支払いは命じられていなかったようです。」と訂正されています。

 


どうして、このような不正確な誤導が生じているのでしょう。
おかしいと思ったので、福岡の弁護士にお願いして事件記録を閲覧してもらいました。
その報告をきいて、この判決は、「支援措置悪用」という印象を与えるために利用されているように感じました。

この判決に関する情報を最初に目にしたのは、昨年の11月27日、「支援措置訴訟/勝訴判決です」と題する弁護士のブログです。

https://ameblo.jp/spacelaw/entry-12876579491.html


このブログで、担当弁護士は、支援措置は濫用されているという指摘があることを前置きし、「離婚後単独親権制度の下で,離婚後の子の親権者になることを希望する親が,子を連れ去る」「支援措置が行われると,子を連れ去られた他方配偶者は,子の現住所自体を調べる手段がなくなる」「暴力を受けていないのに,暴力を受けたと述べて「支援措置」を受ける例があるとの指摘されている」と説明した上で、「被告が行政の支援措置訴訟(支援措置に基づく不交付処分の適法性が争点となった訴訟)について,高等裁判所において,行政の処分を違法と判示した判決が出されました。支援措置に基づく行政処分を真正面から違法と判示した判決は,非常に珍しいものです。さらに言えば,高等裁判所でそのような内容の判決が出されたのは,おそらく初めてではないかと思います。」と述べています。

支援措置は、DVやストーカー被害に遭った方の生命・身体の安全を守ることを目的として、申出の相手となる者(相手方)からの「住民基本台帳の一部の写しの閲覧」、「住民票(除票を含む)の写し等の交付」、「戸籍の附票(除票を含む)の写しの交付」の請求・申出があっても、制限する(拒否する)措置が講じられるという制度です。

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/daityo/dv_shien.html

支援措置がされていても加害者として扱われることはありませんし、面会交流調停申立ても妨げられません。むしろ、支援措置がなければ住民票を動かさない転居で、法的手続きすら起こせない事態も生じます。

それにもかかわらず、「虚偽DVで支援措置を悪用し親子を断絶する」などという虚言がSNS上でとびかっており、マスコミや国会議員までもが誤った情報を発信するということが幾度となく繰り返されてきました。こうした言説は、支援措置を利用するDV被害者に対する攻撃にほかならず、支援の現場に萎縮効果を生みます。支援者が萎縮すれば、DV被害者は逃げ遅れます。見過ごすわけにはまいりません。

担当弁護士は、2026年1月13日付のブログで「高裁判決の内容は,改正民法が例外的に離婚後単独親権にする①片親が子への虐待を行った場合と②他方配偶者への暴力がある場合という要件に親和的でなのです。」と記載していますが、

https://ameblo.jp/spacelaw/entry-12882290704.html
前述のとおり、「住所を知られている場合は探索目的要件を欠く」という理由での取り消しなので、改正民法との関係はありません。

そもそも、改正民法は原則共同親権を定めたものではなく、DVや虐待の被害者を守るために、①②の事情があれば必ず単独親権としなければならないとしたのです。今回の判決の事案は、「被害者要件(申出者がDV被害者であること)」「危険性要件(暴力により生命又は身体に危害を受けるおそれがあること)」ともに認定されているわけですから、必要的単独親権とすべき可能性が高いといえるでしょう。

本件は、判決文を読む限り、判決において、支援措置の要件のうち、「被害者要件(申出者がDV被害者であること)」「危険性要件(暴力により生命又は身体に危害を受けるおそれがあること)」については認められていた事案です。それにもかかわらず、本件を、あたかも、「虚偽DVによる親権獲得スキーム」に関する事案であるが如き発信をすることは、支援措置を申し出た本人(特に、本件は自治体を被告とする訴訟であり、本人は手続に直接的には参加できていない)の名誉にも関わり、読み手に対しても、判決に関する誤った理解を広めることとなりかねず、問題であると言わざるを得ません。

プライバシー情報の問題がありますので、具体的な事案や事件名などは控えるとともに、認定事実については抽象的にとどめますが、この判決で注目すべきポイントは、「危険性要件(暴力により生命又は身体に危害を受けるおそれがあること)」の認定において、相手方が、支援措置対象者に対して、違法な子の連れ去りであるとして、終始非難し、強い憤怒の念を抱いていたことが推認されることが考慮要素として重視された点です。
まさに、ダイヤモンド答弁No.1(※1)です。


最後に…。福岡高裁の判決の評価ですが、私は、高裁らしい「保守的で穏当」な判断だと思いました。むしろ、画期的だったのは、地裁判決で、「違法な子の連れ去りであるとして終始非難されていたことによって、面会交流の際に暴力をふるわれないか不安に思ったことは合理的」「住民票の異動手続きを秘匿するために支援措置を利用したいと考えたこともやむを得ない」「住民票の異動手続きを秘匿する目的は、現住所を秘匿することでDV被害者を保護するという本件支援措置の本来の目的に準じている」などと判示しています。高裁では、これがバッサリ削除されていましたが、DV被害者の心理や状況に対する解像度が高く、あるべき支援を考えるうえで非常に有用であると思いました。どこかで公開されたらいいなと思います。合議体だったようで、地裁の3人の裁判官に敬意を表したいです。

なお、今回の判決は、相手方が、支援措置対象者の住所を「確実に知っていた」という事案です。
事後的客観的な評価として取り消しが認められたものの、支援措置をとった行政の責任は明確に否定されています。相手方に必ずしも明確にしないかたちで、例えば、相手方が知っている実家に逃げるような場合は射程範囲に入りません。その点、誤解の無いように、DV被害者や支援の現場が萎縮することがないよう、くれぐれも、安全第一でお願いします。

以上、長くなりましたが、ご報告でした。(完)

(※)ダイヤモンド答弁No.1
ダイヤモンド答弁とは、共同親権制度の導入に懸念をもつひとたちの助けとなる国会での質疑応答をいいます。No.1は、以下のとおり。
寺田学議員(立憲民主党):
「理由があって子連れ別居することに関して『略取誘拐』等と相手を犯罪者かのように流布する行為は人格尊重義務を損ねているのではないか」
小泉法相:「一般論で言えばその通り」
https://x.com/nojointmovie/status/1845108115857080532