60歳からのすんばらしいぶどう栽培

昨年くらいからこの大粒のシャインマスカットが市場に出てきましたです。
その前はネオマスくらいの大きさのものが多かったのに、
樹が大きくなって玉張りがよくなったってことなのかなあ。
それに伴いマスカット香も出てきたんですなあ。果樹って不思議だよね。
毎年報告される「平成24年新規就農者調査の結果」(農水省)。
平成24年、新規就農者数は以下のとおりである。
39歳以下は15,030人で前年に比べ5.7%増加。40~59歳は12,090人、
60歳以上は29,380人で、それぞれ4.1%、6.1%の減少。
また、全体では5万6,480人と前年に比べ1,640人(2.8%)の減少らしい。
39歳以下が増えているのは補助金のおかげであろう。
年150万円の新規就農者助成金、効果アリって感じだ。
新規自営農業者就農者数(後継者)は44,980人で、前年に比べ4.5%減少。
そして、このうちの60歳以上は28,100人で、6.1%の減少だった。
60歳以上の就農者というのは、定年退職後の後継者である。
つまり兼業農家の後継ぎが会社をやめて農家になったって感じ。
全体の56,000人のうちの28,100人だから、約半数がこの人たちだ。
日本の農業はこの人たちの双肩にかかっていると言ってもいい。
なんてことを考えると、少し不安だね。
だから、若い新規参入者が貴重なのである。
売り先がなくて困ってる新規参入者の作物を積極的に買わなくちゃね。
さて、昨今の果樹栽培もこの定年退職後継者が主になりつつある。
山梨県の一部など果樹栽培でも儲かるところでは、
若い後継者が増えていたりもするが、どちらかと言うと、
60歳になって本格的に果樹栽培を始める人のほうが多い。

山形県高畠町の五十嵐晴夫さん。わたくしが産地担当になったときには
五十嵐さんはおコメ担当の事務局でしたが、楽しい方でした。
定年退職したらぶどう栽培でやりたいことがあるとおっしゃってましたが、
スゴイこと考えてたんだなーって今回はじめて知りましたです。
会社がお休みのときなどに少しずつ作業を手伝っていたこの人たちは、
全くの素人ではないが、専業でもないから技術的には未熟な部分が多い。
そして彼らが就農後一番困るのが「剪定」である。
果樹の剪定ってすんごく難しいから、テキトーに切っちゃうと
翌年果実が上手にならない。どころか、そのヘタクソぶりが
翌年、翌々年に響いたりして大変なのである。
というようなこともあり、ぶどう業界では昨今、長梢剪定という
棚に枝をながーく這わせる昔ながらの剪定ではなく、
主枝から出てきた3節め、あるいは5節めでカット!
すごく簡単! そんでもって着果はジベレリンでタネなし!
という省力・効率化が図られている。
スーパーでタネありぶどうを見かけなくなっている理由は、
消費者が「食べやすい」という理由でタネなしを求めることと、
JA・市場が推進していることに加え、農家の技術の問題がある。
ほんとうはタネありぶどうの方がおいしいから、
「おいしいぶどうが作りたい」とタネありを頑張って作ってる農家もいる。
しかし消費者が「タネありの方がおいしい」ってことを知らないから、
タネなしぶどうが主流になって久しい。残念なことだよね。
まあでも、スチューベンやベリーAなどのタネのある黒いぶどうは売れないし、
巨峰やロザリオなどの大粒種でもタネなしぶどうの方が売れるから、
タネのある大粒種すらどんどん減りつつある。残ってるのはアレキくらいだ。

ぶどう棚って農家の母ちゃんの背丈に合わせて作られてることが多く、
収穫時にはぶどうの重さで棚が下がってくるから背が高いと大変。
胸の高さで作業できたら楽でしょ? マンソン仕立てをアレンジして、
ぶどう一個につき葉っぱが何枚というのを目視できる仕立てを思いついたそう。
すげーよなー。最初っからこの棚ならあとで苦労しなくて済むんだもん。
そんなぶどう業界に久々のスター品種が登場した。
その名も「シャインマスカット」。
黄色く熟しちゃうとただの甘いぶどうだが、適度な熟度で収穫すると
マスカット香のする、ステキにおいしい甘いぶどうである。
ところでわたくし、マスカット香に大変弱い女で、
猫にマタタビ、わたくしにマスカット香というくらいで、
マスカット・オブ・アレキサンドリアとかルビーオクヤマに弱く、
昨年あたりから出てきたシャインマスカットにもへにょへにょなのだった。
以前食べたときにはそんなに感じなかったのに、
収穫適期とか、樹が大きくなったとかが関係あるんだろうなあ。
いまやシャインを食べるたび、へにょへにょになってしまうのだった。
さて、そのシャインマスカットはまだ栽培量が少なく、
巨峰のように値崩れするにはもう少し時間がかかりそうだ。
ということで定年退職後にシャインマスカット栽培を始めた
山形県高畠町のぶどう農家のところに行ってきた。
五十嵐晴夫さんは山形県の有機農家の団体の事務局をしていた。
定年後、ぶどう農家になった。なったというより戻ったというべきか。
もともとぶどう農家だったから、ぶどうについては素人ではない。
長梢剪定ももちろんできるのだ。
ぶどう専業になるにあたり、これからあと何年働きたいかなあと考え、
85歳まで農業をやりたいと思ったらしい。
しかし、85歳でぶどう栽培をするには作業性が問題だ。

ちょっとわかりにくいけど、主枝から枝が出て一個ずつぶどうが
なってるのがわかるかな? その先の枝は棚に這わせてまっすぐ伸びてる。
ぶどうは胸の高さのところにつけるから、摘粒も収穫も全部胸の高さでできる。
産地周りで中腰でぶどう棚の下歩いて腰が痛くなった経験上、この高さが
すんばらしいことがわかるんだけど、理解してもらえないかなー。
ぶどうは棚栽培のため、年間の作業は全部上を向いて行われる。
若いうちはいいが、年をとると少し、というか、かなりしんどい。
剪定も全部自分でしなくてはならないから、大規模にはできない。
地域にはぶどうの休耕地がたくさんあり、耕作放棄地が増え続けている。
だから、作業が辛くてやめてしまう人でも働けるような場所を作りたい。
つまり、大規模栽培が可能な、誰にでも、パートさんにでも
作業ができるようなぶどう畑を作ればいいと考えた。
そうするにはパートのおばちゃんでもできる剪定、
背の低いおばちゃんたちが顔の前で作業できる高さの棚、
ジベレリン処理で作ることのできる品種、このみっつをクリアすればいい。
ぶどう畑というのは一度棚を作るとそれを修正するのは難しい。
五十嵐さんは最初から上記のビジョンを持って棚を作った。
このぶどう畑では、シャインマスカットが見たこともない棚で作られている。
60歳になって、今までのぶどう栽培の経験を元に、
ぶどうが抱えている問題をクリアする栽培方法を思いつき、
それを粛々と実践し、うまく行ったら増やしていくのだ。
そうすれば、雇用も増え、地域の休耕地は減り、皆が笑顔になる。
これさあ、すんごいことよね。
これこそが、会社勤めをし、問題解決力を身につけた大人の
定年退職後の農業のあり方ではないだろうか。
なんちて、めちゃくちゃ感心したわたくし。

ちなみにこれが長梢剪定の棚。そしてこれがルビーオクヤマ。
今までこの品種のことを愛してやまなかったのに、シャインに心を奪われるなんて、
わたくしのバカバカバカ! って感じですんません。
五十嵐さんの畑で地域のおばちゃんが元気よく働き、
変わった棚のぶどう畑がどんどん広がっていくといい。
そのためにも、シャインマスカットはもう少しの間
値崩れしないで高値であっていて欲しいわたくし。
山梨でも山形でもめっちゃ作ってるから、あと10年くらいかなー。
その10年の間に、がんばれ! 五十嵐さん!
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