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政権発足から1年後の2013年12月26日、安倍信三首相が靖国神社を参拝しました。このニュースは国内外で大きく取り上げられていますが、インドネシアではどのような報道がなされているのでしょうか。インドネシアのクオリティペーパーとされる『コンパス』紙の記事を中心にご紹介します。

安倍首相の靖国神社参拝から一夜明けた27日、インドネシアの各メディアもこのニュースを取り上げました。『コンパス』紙はカラー入りの写真を掲載し国際面で大きく扱っています(紙面は冒頭の写真を参照)。以下はその翻訳です。

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キャプション:12月26日木曜日、靖国神社を私的参拝し宮司の先導のもと祈りをささげる安倍信三首相(上から2人目)。今回の安倍首相の私的参拝では中国と韓国という2つの隣国からの怒りを招くと同時に、日本の親密な同盟国であるアメリカも失望を表明することとなった。

安倍首相の参拝、抗議を招く
アメリカも日本への失望を表明

東京、木曜日-私的参拝であり、近隣諸国の感情を傷つける意図はないと強調するが、12月26日の安倍信三首相の靖国神社訪問は主に中国と韓国という2つの隣国の怒りを買った。アメリカも同様に失望を表明した。

「今回の参拝には批判も多いが、戦争犯罪者をたたえる意図があるとの誤解に基づいている」と参拝終了後、安倍首相は記者に語った。

安倍首相によれば、今回の靖国神社参拝は戦死した人々の霊に祈りをささげ、(日本)国民が再び戦争の惨禍によって苦しむことのないように取り組む決意を「伝える」ためのものであるという。

この議論を呼んだ靖国神社への参拝は日本の複数のテレビ局によって生中継された。日本の首相による参拝はおよそ7年ぶりとなる。

2006年にも同様の参拝が当時の小泉純一郎首相によって行われた。

安倍首相は、日本の指導者が自国のために戦死した人々に参拝し、敬意をあらわすことはごく自然なことであると強調した。また、中国と韓国という隣国と良好な関係の構築は重要なことであると表明した。

安倍首相はさらに、この点に関して機会を与えられればすべてを説明する用意があると述べた。

明治時代の1869年に建立された靖国神社は第2次世界大戦時に日本軍が行った侵略の象徴とみなされている。この神社は250万人の戦没者に祈りをささげる場所であると同時に、1948年に処刑された東条英機など14名のA級戦犯を含む数百人の戦争犯罪者が祀られている。

加えて、日本は1970年に中国とのある合意に達したと言われている。この合意は明文化されていないが、在任中の日本の指導者の靖国神社参拝もしくは訪問を禁止する内容だという。

今年8月にも安倍首相は議論を巻き起こしている。数十名の日本の政治家が靖国神社を参拝した際、首相自身は参拝には参加しなかったが供え物を奉納したためだ。

隣国の厳しい反応

中国は安倍首相に対する失望と怒りから北京の日本大使を呼び抗議を行なった。中国の王毅外相は安倍首相の行為は日本を「非常に危険」な方向へと導くものだと指摘した。

「日本は安倍首相の行為における深刻な政治的結果の全責任を取るべきだ」との同外相のコメントが中国外務省ウェブサイトに掲載された。

韓国政府もまた日本の大使を呼び出し説明を求めた。 韓国の劉震龍文化体育観光部長官は安倍首相が行った今回の参拝に強い遺憾の意を表明すると同時に、時代錯誤の行為であると述べた。

「われわれは(安倍首相の)靖国参拝について、嘆きと怒りを抑えられない」と同長官は強調した。

アメリカ政府も東京のアメリカ大使館を通じて懸念を示す声明を発表した。声明の中でアメリカ政府は、日本の指導者たちは近隣諸国との緊張を悪化させる行動をとっていると指摘した。

「米国は、日本と近隣諸国が過去からの微妙な問題に対応する建設的な方策を見いだし、関係を改善させ、地域の平和と安定という共通の目標を発展させるための協力を推進することを希望する」と声明には記されている。

今回の靖国神社参拝に対する悪影響を懸念する声も現れ始めている。

北京の日本大使館は中国の在留邦人に向けて注意を喚起する電子メールを送った。メールでは抗議行動やデモなどが起きた場合の警戒や中国人と接する際には言動に注意することなどを呼びかけている。

 日本の共同通信も、安倍首相の靖国参拝への影響を懸念するある日本メーカー幹部の声を伝えている。
 
「今回の靖国参拝でどのような影響が出るかは分かりませんが、この問題がさらに拡大しない事を祈るばかりです」と同幹部は語った。

2013年12月26日付『コンパス』紙9面

ネット上ではインドネシアの国営ニュースエージェンシーであるアンタラ通信社が北京とソウルから中国と韓国の見解を伝えています。僕が探した限りでは、東京発の記事は見当たりませんでした。

中国、安倍首相の靖国参拝を強く非難

北京(アンタラ・ニュース)-中国は木曜日の安倍信三首相による靖国神社参拝を日本軍による過去の侵略を美化する行為だとして強く非難した。

「日本の指導者の行為に対して強い抗議と厳しい非難を申し入れる」と中国外務省の秦剛報道官は安倍首相の靖国神社参拝を受け、北京で緊急声明を発表した。

中国は今回の件に関して日本に強く抗議するとしている。

靖国神社は日本の戦没者およそ250万人の墓地とされる。その大部分は一般の日本兵だが、第二次世界大戦後に戦争犯罪で処刑された複数の政府高官も含まれている。処刑された高官たちは70年代に靖国神社に祀られた。

「日本の指導者の靖国神社参拝は日本軍による侵攻の歴史と植民地支配を美化するものだ」と秦報道官は語った。

中国共産党は、1930年代に中国へ暴力的な侵攻を行なった日本に対する深い憎しみを利用することで国民の支持を高めようとしてる。

日本軍は第二次世界大戦勃発以前からその間にかけて東アジア諸国に侵攻し、敵に対して非常に残忍な行為を行なった。その例として、戦史でもまれに見る残虐な事件である南京大虐殺が挙げられる。

中国政府研究者の推定によれば、中国では先の大戦で2060万人が亡くなったとされる。

2013年12月26日「Antara」
China kecam keras kunjungan Abe ke Kuil Yasukuni
http://www.antaranews.com/berita/411233/china-kecam-keras-kunjungan-abe-ke-kuil-yasukuni

韓国も靖国神社参拝を批判

ソウル(アンタラ・ニュース)-韓国は日本首相の靖国神社訪問に時代錯誤的な行為だとして憤りを表明した。

「近隣諸国の憂慮と警告にもかかわらず、安倍首相が靖国神社を参拝したことに失望と怒りを禁じえない」と劉震龍文化体育観光部長官は記者に語った。

「今回の参拝は韓日関係だけではなく北東アジアの安定と協力を根本から損なう時代錯誤的な行為」と同長官は語った。

この声明は安倍首相の靖国神社参拝から数時間後に発表された。靖国神社は日本兵250万人の最後の安息の地であり、この中には戦争犯罪者との判決を受けた軍関係者も含まれている。

劉長官は靖国神社について、1910年から1945年にかけての日本による朝鮮半島統治時に朝鮮民族を苦しめた者たちが祀られていると語った。

「日本が国際平和に積極的に寄与したいならば、過去を否定し侵略を美化するのではなく、まず第一に深い反省と謝罪を通じて近隣諸国との信頼を築くべきだ」と同長官は語った。

2013年12月26日「Antara」
Korsel juga kecam kunjungan ke Kuil Yasukuni
http://www.antaranews.com/berita/411241/korsel-juga-kecam-kunjungan-ke-kuil-yasukuni

以下は主だったメディアの電子版の見出しです。基本的に上記のコンパス紙とアンタラ通信社の記事の内容と大差はありません。ポイントは「中国と韓国の激しい反発」です。靖国神社参拝をインドネシアの視点から報道した記事はひとつもありませんでした。

  • 「安倍首相の戦争神社参拝は外交に影響」(Republika)
  • 「中国、日本首相の戦争神社参拝を非難」(Republika)
  • 「中国、日本首相の靖国参拝を非難」(Suara Merdeka)
  • 「日本首相、中国と韓国国民の感情を傷つける意図はない」(Pikiran Rakyat)
  • 「安倍首相の靖国神社参拝、韓国と中国が怒り」(Pikiran Rakyat)
  • 「靖国神社では14名の戦犯を賛美」(Pikiran Rakyat)
  • 「日本首相、靖国戦争神社に参拝」(Jakarta Post)
  • 「日本首相の戦争神社参拝、近隣諸国の怒りを買う」(Jakarta Post)
  • 「中国、日本首相の靖国神社参拝を非難」(Metrotvnews)
  • 「中国紙、安倍信三首相は『悪魔の讃美者』」(Metrotvnews)
  • 「日本首相の靖国神社参拝に非難が殺到」(Okezone)

そして、本日12月28日、インドネシアのクオリティーペーパーとされる『コンパス』紙が今回の安倍信三首相の靖国神社参拝に関する社説を掲載しました。以下に全文を紹介します。

『コンパス』紙社説:安倍信三首相の靖国参拝問題

12月26日木曜日、日本の安倍信三首相による靖国神社参拝は中国と韓国という2つの隣国の反発を招いた。

1869年の明治時代に建立された靖国神社は太平洋戦争(1941-1945年)時の日本軍による侵略の象徴とみなされている。それが理由となり、今回の安倍首相の参拝を、中国と韓国は太平洋戦争時に日本が占領した国々に苦痛と困窮を与えた日本の戦争犯罪者に対する敬意の現れであるとみている。

今回の参拝に対して反発する中国と韓国はそれぞれ、北京とソウルの日本国大使を呼出し抗議を行なった。

中国の王毅外相は安倍首相の行為は日本を「非常に危険」な方向へと導くものだと指摘する一方で、韓国の劉震龍文化体育観光部長官はこの行為を時代錯誤の行為であると述べている。

しかしながら、私たちはこうした自身を被害者と位置付ける中国と韓国の見解はひとつの側面からの視点であると気が付かなければならない。この問題にはもうひとつの側面、すなわち安倍首相の見解も存在しているからだ。今回の靖国神社参拝には戦争犯罪者を称える意図は全くないと安倍首相は言う。戦死した人々の霊に祈りをささげ、(日本)国民が再び戦争の惨禍によって苦しむことのないように取り組む決意を「伝える」ためのものである、と。

留意するべきは、靖国神社は現在戦争犯罪者とみなされている数百名のみではなく、同時に戦争の犠牲者となった250万人を祀る場所でもあるという点だ。さらに、安倍首相によれば、国のために命を捧げた人々に敬意をあらわし、彼らのために参拝することは日本の指導者として当然であるという。「そして、私は平和のために祈りました。日本が再び戦争を引き起こさないためにも」「中国と韓国の感情を傷つける意図はありません」と安倍首相は語っている。

全ての行動は様々な面から評価することができるが、参拝の時期が不適切であったことは認めざるを得ないだろう。日本と中国が東シナ海の領土問題で対立が深まるこの時期になぜ、安倍首相は靖国神社を訪問しなければならなかったのか。アメリカが参拝の実施時期に懸念を表明した理由もここにある。

私たちもアメリカと同様、日本と2つの近隣諸国がこのセンシティブな問題を克服する建設的な方法を見つけ、地域の平和と安定を維持するための協力と良好な関係を今後も守っていくことを願っている。

 2013年12月28日付『コンパス』紙6面

【管理人コメント】
個人的な感想を一つ。今回参照したインドネシアメディアの記事では靖国神社の参拝を基本的に日中韓の問題として捉えているとの印象を受けました。もっとも僕も全ての記事に目を通したわけではありませんので、ご連絡いただければ随時情報を追加していきたいと思っています。 

【2013年12月29日追記】
安倍首相の靖国参拝、各国の批判止まらず「日本のオウンゴール」

 安倍晋三首相の靖国神社参拝に対する海外からの批判や懸念が止まらない。28日には、これまで静観していたアジア太平洋諸国の有力メディアからも“火の手”が上がった。...

 日本の友好国インドネシアの有力紙コンパスも28日付の社説で、中国が東シナ海上空に設定した防空識別圏や沖縄県・尖閣諸島問題で緊張が高まっている中、参拝が行われたことに言及し、「タイミングは適当ではなかったと認めざるを得ない」と論評した。

『スポーツ報知』(2013年12月28日) 
http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20131228-OHT1T00097.htm

『スポーツ報知』(電子版)記事からインドネシア関連部分を抜粋。スポーツ紙にいちいち反論する気はないが、こういう記事が出ると手前みそながら自分のブログ記事にも―翻訳の巧拙はさておき―少しは意味があったのかと感じざるを得ない。「批判」という2文字に全てを押し込めないで、『コンパス』紙の冷静な論調をきちんと読者に伝えてほしい。

お詫び:ソースをよく読むと共同通信社の配信記事でした。上記の記述を一部取り消します。大変失礼いたしました。

【2014年1月4日追記】

冷静な反応目立つ東南アジア諸国

安倍晋三首相らによる靖国神社参拝をめぐり、中国と韓国は年初から機関紙の論評や会見で安倍首相批判を行ったが、第二次大戦で日本の占領統治を受けるなどした東南アジア諸国では、安倍首相の立場に理解を示す冷静な論調が目立った。

インドネシアで最も影響力のあるコンパス紙は、12月28日付の社説で安倍首相の参拝について、東シナ海の領土をめぐる日中の緊張が高まっているこの時期に行ったのは「適切なタイミングでなかった」としつつも、「(靖国問題で)自らを被害者と位置付ける中韓の主張は一面的な見解だ」とクギをさした。

その上で、今回の参拝は戦死者の霊に祈りをささげ、日本国民が再び戦争の惨禍に苦しむことのないように取り組む決意を伝えたとする「安倍首相の見解」を紹介した。

同紙はさらに、「靖国神社には、現在は戦争犯罪者と見なされている数百人だけでなく、戦争の犠牲となった(各国の)約250万人も祭られている」と指摘し、国に命をささげた人々のために参拝することは日本の指導者として当然だとする安倍首相の立場にも言及した。

2014年1月4日付『産経新聞』(電子版)【関連部分のみ抜粋】
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140103/asi14010321060004-n1.htm

(↑『コンパス』紙の社説について、という趣旨のツイートです。念のため)

【お断り】
今回の記事には皆様から多くのコメントを頂いていますが、その目的はインドネシアの報道の紹介です。本筋から離れた政治的議論は別の場所でお願いします。また、コメントは大歓迎ですが、最低限のマナーを守った上で投稿して下さい。

【2014年4月21日追記】

【コンパス紙社説】
インドネシア「コンパス」紙社説 日本語訳まとめ
「中日間の緊張」-コンパス紙社説(2013年8月29日)
【尖閣問題】「安倍首相の安堵すべき表明」-コンパス紙社説(2013年10月7日)