演技者5人中1人が「自分あるいは仲間が性上納を強要された」
『ハンギョレ21』[2009.07.13第768号]
[表紙物語]単独入手した韓国芸術人労働組合183人へのアンケート調査…
PD・企業家・政治家など10人余りの「加害者リスト」も存在
▣イム・ジソン/イム・インテク
故チャン・ジャヨンさんの死でその一端が明らかになった芸能界の性上納・接待の実情が、具体的な数値で確認された。残酷な真実だった。演技者183人を対象にアンケート調査した結果、19.1%に当たる35人が「自分、あるいは仲間が性上納を強要された」と明らかにした。5人のうち1人の割合だ。このような事実は、『ハンギョレ21』が単独入手した韓国放送映画公演芸術人労働組合(以下、韓芸組)の「人権侵害実態アンケート調査」を通じて明らかになった。チャン・ジャヨン事件以降、増幅してきた芸能界の人権侵害疑惑が数値で確認されたのは、今回が初めてだ。
「接待の強要」も34.4%に達し
»演技者5人中1人が「自分あるいは仲間が性上納を強要された」(イラスト/チャン・グァンソク)
韓芸組は今年の4月、タレント支部組合員を対象に、人権侵害の実態調査を行った。第2、第3のチャン・ジャヨン事件を防ぐためだった。全タレントの95%達する2000人余りにアンケート用紙を送り、183人の回答が得られた。韓芸組は実態調査と共に「深層アンケート調査」も実施した。性上納・接待・暴行などの人権侵害を受けた演技者に、加害者の名前を書かせた。これによって韓芸組はPD・企業家・政治家など10人余りの「加害者リスト」も確保した。生き残った「チャン・ジャヨン」たちが作成した「第2のチャン・ジャヨン・リスト」だ。
今回の実態調査では、まず「人権侵害や金品の要求を受けたことがあるか(重複回答可)」と質問した。これに対して調査に参加した演技者のうち24.6%(45人)が「直接被害に遭った」と答えた。本人が直接被害に遭わなくても、仲間の被害事例について聞いたことがあるという回答は68.2%(125人)に達した。
続いて具体的な被害類型についての質問(重複回答可)に「性上納」を指した者は、回答者の19.1%に当たる35人だった。「接待の強要」を指した者は34.4%に達する63人だ。これ以外に△金品の要求78人(42.6%)、△暴言・暴行18人(9.8%)、△人格への冒涜72人(39.3%)などもあった。
今年の3月に自殺したチャン・ジャヨンさんが残した文書には、自分が受けた暴行・性上納・酒席での接待の強要などの状況や、PD・企業家・新聞社の代表など、加害者の名前が余すところなく書かれていた。チャン・ジャヨンさんは文書に「私は弱くて力のない新人女優です。この苦痛から逃れたいです」という文章を残した。
韓芸組の深層アンケート調査の結果は、また別の「チャン・ジャヨン」たちが人知れず苦痛に満ちた時を過ごしていることを確認させた。それらの具体的な「加害者」たちの名前を記憶していた。韓芸組は確保した「加害者リスト」まで公開はしなかったが、そこには10人余りの名前が挙がっていると伝えた。加害者の職業は放送局のPD、作家、放送局の幹部、芸能企画社の関係者、政治家、企業家などだ。被害に遭った芸能人は加害者の名前や所属、地位などの情報を書き出した。
重複した名前10人余りを整理した「リスト」
ムン・ジェガプ韓芸組政策委議長は「かなり多くの女優が加害者を明らかにし、そのうち重複した名前が多くいたので整理してみると、10人余りになった」と表明した。PDの場合、地上波放送局3社のPDがすべて挙げられ、そのうちすでに金品の要求などで処罰されたことがあるPDも含まれていた。ムン議長は「リストがあると言っても、被害者たちが出てこないので、具体的な状況を明らかにすることは難しい」、「外部に公開しないまま韓芸組レベルで加害者に警告をする対応のやり方を検討中」だと話した。
チャン・ジャヨンさんの死が一過性の事件ではないことは、相次ぐ事件も伝えている。チャン・ジャヨンさんの衝撃が冷めやらぬ中、新人歌手を強姦し、動画を撮って脅迫したプロダクションの代表が警察に摘発された。6月26日、ソウル地方警察庁広域捜査隊は、所属する新人女性歌手の離脱を防ぐために「性的暴行動画」を撮り、酒席での接待を強要した芸能プロダクションの代表、キム某(47)氏を拘束した。
この事件の被害者は20歳の歌手志望者で、2007年にキム氏と契約を結んだ。その後、プロダクションが指定した住居で監視されながら暮らしていた女性歌手は、挙句の果てに地方公演先のホテルで強姦され、プロダクションはその場面を撮影するという蛮行を犯した。警察はキム氏が「投資するには、性関係を結んだ動画を撮っておかなければならない」と女性歌手を脅迫したと伝えた。動画撮影後も、キム氏は女性歌手に持続的に性関係と性上納を要求した。女性歌手が拒否すれば暴行を加えたり、専属契約書を持ち出して数億ウォンの違約金を強要したと伝えられている。今回の実態調査の結果、63人が示した「接待の強要」も、この事件に登場した。キム氏は自らが運営する江南所在の酒場で、新人女性歌手に放送局関係者、企業家、政治家など「高級客」の接待をさせた。
»チャン・ジャヨンさんは今年の3月7日、自宅で自殺した(左側)。彼女は「この苦痛から逃れたい」と訴えた。7月3日、故チャン・ジャヨンさんが所属していたプロダクションの社長が日本で拘束され、韓国に送還された。写真/(左から)聯合・ハンギョレ=キム・ギョンホ記者
3社移籍しても、全社で不当な要求
高校時代に雑誌のモデルとしてデビューしたAさんの最初のプロダクションの社長は、「お前の何を信じて売り出せばいいんだ」と自分の愛人になるように迫った。40代の社長は、高校生の新人女優に性上納を執拗に要求した。Aさんが拒否すると、プロダクションは彼女に仕事を与えなかった。契約期間の2年間、Aさんは何の仕事もできなかった。Aさんはその後、3つのプロダクションに移籍したが、どこも彼女に不当な要求をした。2社目は、有名なスターも所属する中堅プロダクションだった。そこではマネージャーがスポンサーの提案をした。Aさんがあるドラマにキャスティングされ、ミーティングまで終わらせた状況で、マネージャーが「映画会社のある役員が君を見て気に入ったから、個人的に会おうと言っている」と伝えてきた。なぜその人に会わなければならないのかと問いただすと、マネージャーは「そうしなければ仕事ができない」と脅迫した。結局、Aさんはスポンサーの提案を拒否し、ミーティングまでしたドラマからはその配役が消えた。
有名女優と同じプロダクションに入った新人女優、Bさんの場合は、接待の要求に素直に応じたところ、とんでもない目に遭った。ドラマ出演のために顔を覚えてもらうことも兼ねて、監督との宴席に出ようというプロダクションの連絡を受けてのことだった。プロダクションやドラマ制作者などはBさんに持続的に酒を飲ませた。そして一緒に踊ろうと抱きついてきた。Bさんは逃げ出した。翌日、プロダクションはBさんを怒鳴りながら「契約金の3倍を弁償しろ」と要求した。当事、ショックを受けたBさんは、今まで特に演技活動をしていない。
このような事例は、数人の芸能人の不幸な出来事ではなく、芸能界の「公然の問題」であることを今回の実態調査は立証している。
しかし、絶対的な権力関係の下で権力者の不当な要求を拒絶することは簡単ではない。今回の調査で回答者の62.3%(114人)に該当する演技者が「性上納をはじめ、各種の不当な要求を拒否したため、キャスティングで不利益を被った」と答えた。競争が激しい芸能界で、「キャスティングの不利益」はもっとも効果的に芸能人を締め付ける。これ以外にも16.9%(31人)は人格への冒涜を、9人は陰湿な攻撃・脅迫を、7人は暴言・暴行を拒否の対価として受けた。
「対応したところで、変わることはない」
状況は深刻だが、「公然の問題」はなかなか水面上に現れない。「なぜ法的対応をとらないのか」という質問に対する回答を見ると、芸能人の残酷な絶望があらわになる。53.5%(98人)の回答者が「したところで変わることはなさそうだから」と法的な対応をあきらめたと答えた。残りの20人(10.9%)は「2次被害が怖くて」、14人(7.7%)は「方法がわからなくて」できなかったと答えた。実際に回答者のうち女優の4人は「法的な対応をしたことがあるが、余計に被害を被った」と答え、無駄な憂慮ではないことが言える。「法的な対応で被害救済を受けた」という回答は、2人(1.1%)に過ぎなかった。
法的対応をあきらめる内情は複雑だ。「イメージ」で食べている芸能人にとって、「私がこのような被害に遭った」と暴露することは容易ではない。「法的な対応ができない最大の理由」を問う質問に、まず75人は「キャスティングで不利益を受けるのではないかと怖かった」と答えた。34人は「身上の情報が公開されるのを憂慮した」と答えた。11人は加害者の報復を恐れた。仲間からの非難や爪弾き、ネット上での炎上も人権侵害に立ち向かう勇気を失わせる。
ムン・ジェガプ議長は「現在、性上納、接待など、プロダクション側の要求をすべて拒否してもスターになれる可能性はほとんどない」と語った。地上波放送局のある芸能PDは、「よろしくお願いしますと挨拶してくる新人は、1日だけでも数え切れないほど多い」「金もコネもない新人は、スポンサーになってやるという企業家、出演させてやるという放送局・プロダクション関係者に対して弱者でしかありえない」と話した。
そのため、芸能人たちは苦しんだ。回答者の33.3%(61人)がうつ病になっている。平均的に一般人の15%がうつ障害を抱えていることに比べ、2倍以上の高い数値だ。23.5%(43人)が不眠症、12%(22人)は対人忌避症を患っていると答えた。持続的な不安感を訴えた者も32.3%(59人)だった。13人はアルコール中毒にまで進んだ状態だった。「自殺」だけに表れていた芸能人たちのうつ病の実態だ。この3年間で自殺した女優のイ・ウンジュ、チョン・ダビン、チェ・ジンシルさんなどもうつ病を患っていた。
33%がうつ病、12%が対人忌避症
そのため、すでに芸能人は人権侵害に対して無気力になっている。実態調査で「人権侵害や不当な要求が継続的に発生する理由」を問う質問に、35.5%(65人)は「人権侵害や不当な要求は、どうしようもない大衆文化芸術界の古い慣行」だと答えた。10人中、3人以上が人権侵害を慣行として受け入れたのだ。ある女優は、「古い慣行だという認識があるので、周辺の仲間が性上納などの被害に遭ったようでも、下手に立ち上がることができない」と話した。知っていても内密にする雰囲気だということだ。加害者の処罰自体が軽いという批判もある。回答者のうち62人は「加害者に対する司法処理が不十分なため」誤った慣行が続いていると答えた。4月24日に行われたチャン・ジャヨンさん事件の中間捜査結果の発表でも、大手新聞社の代表など、有力者の名前が抜けた「竜頭蛇尾」との指摘がなされた。55人は「集団的に解決しようという演技者の努力が不十分だった」と自省した。「キャスティングを狙った演技者個人の利己主義」のせいだとした者も57人いた。
多くの若者や子供が芸能人になることを夢見ている。今年の5月、87回目のこどもの日を迎え、『少年韓国日報』が小学生300人を対象に行ったアンケート調査で、女子児童が選んだ将来の夢の1位が歌手、タレントなどの芸能人だった。同じ時期、我々は芸能人183人が証言した人権侵害の現実を見た。この克明な矛盾をそのままにしておけば、チャン・ジャヨン事件のような不幸な出来事が続くしかないだろう。
キム・ウンソク韓国放送映画公演芸術人労組委員長インタビュー
「問題を知らせることも、死ぬほどつらい」
»キム・ウンソク韓国放送映画公演芸術人労組委員長。写真『ハンギョレ21』チョン・ヨンイル記者
2008年5月、彼は剃髪した。芸能人の基本出演料の引き上げ、福利厚生費の支給などを放送局に要求したのだ。そうしてキム・ウンソク(42)韓国放送映画公演芸術人労働組合(以下、韓芸組)委員長は、11代委員長に就任して1ヵ月後に「申告式」を行った。就任から1年が経った頃、「チャン・ジャヨン事件」が起こった。彼は国内で初めて、芸能人を対象にした「人権侵害実態調査」を行った。7月3日、ソウル汝矣島にある韓芸組の事務所で彼に会った。彼は「加害者リストをどう処理するか悩んでいる」と語った。
-実態調査の結果、自分や仲間が性上納を要求されたという回答が、芸能人5人のうち1人という状態だ。この結果をどう見るか。
=率直に言うと、昨日今日の問題ではない。私もやはり放送人になって24年になるが、新人のときからよく聞いた話だ。かつては何もかも内密にして、実態を明らかにすることができなかった。今回の実態調査で、一部でもその数値が確認できた。
-アンケートを実施した理由は。
=チャン・ジャヨン事件が契機となった。このようなことに被害者個人が立ち上がることは難しい。良心宣言をしたくても、これは女優人生だけでなく、残りの人生までかけなければならない問題だ。だから、芸能人個人ではなく、労組レベルで実態を明らかにするべきだと考えた。
-芸能人が話したがらない問題であるため、調査は難しかったのではないか。
=返信用封筒まで入れて、アンケート用紙を郵便発送した。答えることが難しい質問が多かったと思う。それでもそれほど低い回収率ではなかったと思う。仲間の一人はアンケート用紙に「匿名で質問に答えたが、特定の日にあった事件について書けば、自分が誰かわかるのではないかと心配だ」と書いていた。
-深層アンケートを通じて加害者リストを確保したそうだが。
=(リストは)ある。だが女優が加害者の名前を書きながらも、正確に書けば自分の身の上が明らかになるのではと非常に不安がっている。
-リストをどう処理する計画なのか。
=幹部たちと議論している。我々に捜査権があるわけでなないので、措置がとれずにいる。国家人権委員会とも話し合っているが、まだリストを渡してはいない。悩んでいる。もし加害者として挙げられた人の中で、密かに攻撃された人がいれば問題になりかねないので、気をつけなければならない。
-チャン・ジャヨン事件関連の捜査状況をどう見ているか。
=まだ若い女優が自殺までするなんて、どれだけつらかったんだろう。残念だ。考えてみると、死なずにこのような問題を世間に知らせることも死ぬほどつらいだろう。事件の捜査に期待をしたが、そのようなレベルまで捜査がされていないので残念だ。プロダクションの社長も召還されたので、捜査を再開して確実に明らかにしてほしい。
-性上納などの加害者たちに一言言うなら。
=優越的な地位を利用して弱者に何かを強要することが、これ以上あってはならない。加害者たちも家族がいるはずだ。自分の娘、自分の妹がそんな目に遭ったと立場を変えて考えてみろ。もうこんな不当な要求をしてはならない。チャン・ジャヨン事件の捜査によって、加害者に警鐘を鳴らせればと思う。
イム・ジソン記者、イム・インテク記者