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2011年9月

イチゴは苗半作というけれど

私がよく指導に回らせてもらっている地域のイチゴ農家では「イチゴは苗が半作や」という言葉が良く聞かれる。これはつまり、イチゴの栽培は苗作りがうまく行けば、その作は半分終わったようなものという意味である。

それだけイチゴの苗作りはややこしく、長丁場である。まだ収穫最盛期の2月頃から次年度用の元親株を仕込む。県やJAで育成したウイルスフリー苗を購入し、そこから親株を作り、その親株から定植用の苗を作るのである。

ウイルスフリー苗とは、その名のとおりウイルスからフリーつまり病原性ウイルスを持たない株のことである。茎の先端の芽の部分、その中の本当の意味での先端部分を生長点と言うが、その生長点にはウイルスが入り込めないことを利用してその部分だけを取り出して無菌的に培養して育成する。ただし、ウイルスに感染しないという意味ではなく、少なくとも試験管内ではウイルスをまったく持たないというだけのことではある。試験管内にはウイルスが入り込めないようになっているが、外の世界に出て、ウイルスに触れることがあれば容易に感染するのである。

イチゴの園芸品種におけるウイルス病はそれだけで枯死に至ることはまずありえないが、ウイルス感染した株はそれに体力を消耗するため、品質や収量が低下する。普通に栽培しているとアブラムシ等の媒介によってウイルスに感染するため、ウイルスフリー苗を更新せずに自家育苗で苗の更新を続けていた場合、数年で生産力が低下してくることが知られている。

最近のイチゴ品種は、食味や見た目優先で育成されていることが多いせいか、病害抵抗性の強い品種は少ないように思える(これは勝手な印象なので、違う場合はご指摘ください)。以前の品種では、雨よけ育苗を導入してから疫病という病気はほとんど見る事がなく、育苗中は想定の範囲外だったが、今主力となっている品種ではハウス内で育苗しているにもかかわらず発病が増えてきている。また、見た目の症状がこれとよく似たたんそ病というのもあり、この二つの病気はそれぞれに対応する薬剤が違うので話がややこしくなるのである。もちろん、育苗期間中はこの二つの病気に対して予防的な薬剤散布を行っておくことは必須であるが、発病の兆候を早めに見つけて感染が拡大する前に取り除いておくことも大事である。これを毎日苗の手入れをしていても敏感に見つける人と見つけられない人とが存在することが問題なのだが・・・。

また、苗作りでは病害虫防除以外でも早め早めの対応が重要である。まずは肥料の過不足の見極めが大事だろう。肥料は過剰でも不足でも病気になりやすい要因となる。葉の色、形、展開の速さなど普段から十分に観察しておき、過不足の判定を行う。主に窒素の過不足が大きいが、これは主に芯葉の色と形で判定する。これが濃くてねじれていると過剰、全体としては適度な緑を保ちつつ、芯葉のうちは若竹色であれば理想的である。これが全体に色あせてきて、芯葉の展開が遅れてくると今度は不足と判断する。それ以外の養分については全体の印象、芯葉と外葉の色の違い、黄化した葉のどこから色が抜けてきているのかなどが判断材料になる。
単純に窒素不足であれば肥料を追加すればいいし、微量要素の欠乏であれば原因がはっきりしていればそれらの単肥の葉面散布で対応すればよい。どの微量要素かはっきりしない、あるいは複合して要素欠乏が出ていると思われる場合は複合微量要素肥料を葉面散布すればいいのである。

しかし、何度も言っているように、これらも生産者自身が気づかなければ何にもならない。もちろん私もたびたび巡回させていただいているが、せいぜい月に一度程度の頻度であるので、どうしても気づくのが遅れる。しかも、毎日見ているわけではないので、私が見ている状態がそこの普通なのかどうかわからない場合もある。生産者が、JAや普及センターが見てくれるからとそれまで自分で対応することを放棄したり、怠慢な対応をしていた場合、たいていそういうところの育苗はうまく行かないのである。そういう人は体外毎年育苗を失敗する。

まとめると肥培管理も病害虫防除もその他の作業も早め早めに対応し、小さな変化にも気づくのが早い人が育苗を成功させている。また、何かあった時の対応もこちらが指導させていただいたことをしっかり覚えていて、次からは自分の技術として応用できている人もいるくらいである。

とにかく、イチゴの育苗はこれまでにあげた事に気をつけていただくと成功する確率はきわめて高くなる。育苗に成功するということは、本圃での成功も約束されたようなものだ。イチゴは苗半作というが、半作どころか7部作くらいのような気がしてならない。

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減農薬は農薬を戦略的に無駄なく使うことでも実現できる

今回は農薬を効率よく使う方法について述べてみたい。表題には少々刺激的な言葉を使ってみたが、要するに無駄なくポイントを押さえ、先手先手で防除を行えば結局は農薬の散布回数を減らすことができると言う当たり前の話である。

1 病害虫防除の基礎的作戦立案について
1)基本的位置づけ
まず、防除を目的別にわけて位置づけ、何のための防除なのかを考えて実行することである。
(1)基本(必須)防除
毎年必ず行う防除。時期が来ればほぼ発生するものが対象。
(2)臨機(確認)防除
気象条件など年によって発生量が変動し、また被害がなかったりするもの。
(3)重要防除
発生すると被害が大きく、重要な意味を持つ防除。
(4)非重要防除
被害を受けてもたいしたことはなく、重要性の低い防除。

この中で、基本←→臨機、重要←→非重要とが相互関係にあり、ア.基本×重要・・毎年発生し、被害も大きい、イ.基本×非重要・・毎年発生するが被害はそれほどでもない、ウ.臨機×重要・・毎年発生するわけではないが発生すれば被害が大きい、エ.臨機×非重要・・年によって発生に変動があり、被害もそれほどではない、のように4つのゾーンに分けて考える。

2 防除実施の基本
(1)毎年発生し、被害の大きい病害虫は基本・重要防除として発生の時期にあらかじめ防除を行うことを基本とし、遅くとも発生初期には防除する。
(2)年により発生に差はあっても、被害が大きい病害虫は発生を確認したらできるだけ早めに防除を行う。
(3)実際には、圃場(田畑)を丁寧に観察して、早めに状況をつかみ、体系的な防除を行い、その結果から防除体系の見直しを行う。地域により、病害虫の発生状況や薬剤の効果に微妙な差が出るからである。

3 農薬の特性について
1)殺菌剤について
(1)治療効果があり選択的
 ここぞというときに使用するとっておきと考える。発生してからの散布でも効果が期待できる。
(2)治療効果があり汎用的
 複数の病害が発生してからでも効果が期待できるが、(1)の薬剤ほど劇的効果は期待できない。
(3)予防効果があり選択的
 毎年発生する重要な病気について、発生時期などに定期的に使用する。
(4)予防効果があり汎用的
 様々な病気について、菌の密度を抑えることを目的に発生前から予防的に使用。耐性菌が出現する可能性は低い。

2)殺菌剤選択のポイント
生育初期は上記(4)の農薬を基本として、重要病害対象に(3)の農薬を組み入れる。病気の発生が増えてくる生育中期~後期に(1)または(2)の農薬で収穫までにしっかり抑える。
農薬に対する耐性菌(農薬が効かない、抵抗性のある菌)発達を避けるため同一系統の薬剤を連用・多用するのは避ける。違う名前の薬剤でも同一系統のことがあるので注意する(例:ベンレートとトップジンMなど)。

3)殺虫剤選択のポイント
毎年発生する重要害虫には定植・播種時に粒剤を施用する。その後は圃場を丁寧に観察し、対象となる害虫は何か、作物はどのくらい生育しているか(生育ステージ)、防除時期を正しく判断し、薬剤を選定した上で発生初期をとらえ、早めの防除を心がける。薬剤抵抗性の発達を避けるため、異なる系統の薬剤によるローテーション防除を心がける。

4)展着剤選択・使用のポイント
(1)農薬の財形によって選択
乳剤では少なく、水和剤・フロアブル剤では普通に使う。ただし、フロアブル剤は状況によっては少なくて良い場合もある(濡れの良い植物など)。
(2)作物によって選択
濡れの良い作物では少なく、濡れの悪い作物(水をはじくネギなど)では多く。
※濡れの悪い作物の例 水稲、麦、キャベツ、ネギ、サトイモ等
※中程度の濡れの作物 トマト、ナス、メロン、イチゴ、ブドウ等
※濡れの良い作物 キュウリ、インゲン、ミカン、リンゴ、モモ等
(3)農薬の溶かし方
1)少量の水に溶かしてから薄めていく。バケツ、ビニール袋などを使用する。
2)薬剤を溶かす順番は特に指定のない場合、展着剤→乳剤→フロアブル剤→水和剤
3)アルカリ性薬剤、銅剤は混用不可の場合がある。アルカリ性薬剤とは石灰イオウ合剤や石灰ボルドーなどのこと。銅剤は有機銅や無機銅のこと。キノンドー、コサイドボルドー、Zボルドーなどがあり、薬剤名が○○ドーとなっていることが多いが、成分をしっかり確認すること。ドーとついていないからといって銅が入っていないとは限らない。例:ヨネポン、ジーファイン水和剤など。

4 農薬散布のやり方
1)葉から30~40cmの距離でしっかり吹き付ける。
2)草丈の低い作物(イチゴ、パセリなど)は葉裏にもかかるよう下からしっかり吹き付ける。
3)天気予報には注意する。散布後の雨は効果を低減させる。できれば半日程度乾きつかせる。気温や風の有無などにもよるが、最低2時間~できれば4時間ほど乾きつかせる。
4)二度がけはしない(特に大面積の場合)。薬液が余った場合、最初に戻ってもう一度散布するとそこが乾き始めていた場合、2倍の濃度で散布したのと同じ事になる。このため、薬害や農薬残留の面で問題となることがある。

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