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2009年11月

農家が減少しているから行政も規模縮小・・これでいいのか?

政権交代以来、新政権は様々な動きを見せているが農林行政についてはまだその全体像は見えてきていない。戸別保障制度もその詳細についてはまだわからないことが多いし、はっきりした評価を下せる段階にはない。しかし、現時点では農業の振興につながるかどうかははなはだ疑問だ。やる気のある農家を伸ばす制度とは思えないからだ。末期治療中の患者の命を少々延ばすくらいの効果しかあるとは思えないのである。
いま、巷でよく聞く文言ではあるが、マニフェストに書いてあるからといって愚直に実行しようとするばかりでなく、国民の声をしっかり反映させた上でやるべきことはやりながら必要のない項目については思い切って削ったらいいと思う。いっそ、マニフェストこそ予算と同じやり方で「仕分け」をやったらいいのではないだろうか(いきなり本題から外れた話からはじめてしまったが、これについてはどうしても一言言っておきたかったので・・・)。

さて、私の住む地域でもご他聞に漏れず生産者の高齢化が進み、後継者不足によって生産者数及び農地面積の減少が止まらない。一般の人がイメージしがちなのは親が農業をついでほしいと願っていてもいまどきの若い息子が「農業なんてやってられねーよ」とばかりに都会を目指す、というものだろうか。いや、こういうイメージは農業に触れたことのない人にとってももはや古いイメージだろうか。とにかく、最近良く聞くのは若い後継者がやりたがらないというものではなく、「こんなつらくて儲からない仕事は、子供にやらせたくない」という農家の声なのである。
今まで何度か農業が儲からないと言ってきたが、それは「ちょっとおかしいぞ」と思ってもすぐには大きく舵を切れない日本人の性質にもよるところはあると思う。世の中が大きく変わっても、昔の考え方、制度を引きずっていて、にっちもさっちもいかなくなってきているのだ。ものの流通のしくみが変わり、農作物の単価が下がってきていて、小規模の農家が集約的にやる農業ではただ普通に「いいもの」を作って農協に出荷するだけでは儲からなくなっている。時代の変化に対応できずに行き詰ってきているのは農業に限ったことではないが・・・。

そのような背景を受けて、われわれ農業関係の行政は農地面積・生産者数の減少防止、農業粗生産額の向上に向けて努力しているわけだが、構造的な問題もあり、それが実っているとはいえない。お前たちの努力が足りないのだろうといわれると返す言葉がないのだが、自分たち末端の人間だけでどうにかなるものでもなく、それに連なる県の上層部、政府のトップにいたるまで一体となってやっていかねばどうにもならない状況だろうと思う。

そんな中、民主党政権による仕分けを待つまでもなく、われわれのような指導をする立場の人員がどんどん削減されていっている。農業全体の規模が小さくなってきているのだから、それに割く予算も人員も減らしていいのだろうという論理だ。確かに、生産者の数自体が減っているのだからそれに対応する人員も少なくて済むという考え方はわかりやすい。しかしそれは、全体の状況が以前から変化のないまま相似形で縮小してきているといえるならそうだろうが、この厳しい時代に生き残っている農家は生き残るべくして生き残っているのだ。それらをすべてひっくるめて同じ密度で接してきたわけではない。高い密度で接してきた農家の総数は全体の面積と同じ割合で減少してきているわけではないので、職員にかかる負担は本当はかなり増大してきているといえる。行政であれば、全員に公平に接するべきだという意見もあるかと思うが、私の職場を例に挙げるとたった4~5人で数千~万単位の農家を相手にしていては、全体に均等な対応をしていたのではそれこそほとんどものの役に立つ仕事はできないのはお分かりいただけると思う。

それに、本当に自給率の問題に危機感を持っているのなら、逆にもっと力を入れるべきだろう。面倒な条件をつけた補助金でその場しのぎをするのではなく、本当に儲かる仕組みづくりなど農家の意欲を向上させる政策に知恵を絞り、予算を回す。当然、そのための手足となる人員も必要となるだろう。そういった対策はオートメーション化はできないからだ。そういうところをケチって、人員や予算を減らしてばかりだと農家自身も「農業政策には力を入れてくれない」とばかりにやる気をなくしていくばかりではないのか。
いま、行政だけでなく農協すらそういう考え方で営農指導ができる人員をどんどん減らしていっている。農協は行政以上に現場に密着し、農家の顔が見える範囲で仕事を進めていかねばますます信頼を失っていくばかりだと思うのだが、いまは農協もそういった自分の姿を見失っているとしか思えない。もちろん、現場の第一線で本当に頑張っている職員は農協にも多数いるが、現在の人員ではどうしても現場へ出て行く回数は少なくなり、「あんたらもなかなか来んけど、農協も最近さっぱりや」という声も良く聞くのである。行政も農協も人件費をケチるあまり、本当に大事なものを置き去りにしていないか?

こういう仕事をしていると、中山間地の農家さんなどを尋ねたときは他人の訪問に飢えているためかお茶や茶菓子を出されて長時間引き止められることがある。そしてこういってくれる人もいる。
「あんたらが来てくれると思うから、しっかりつくらんといかんと思うし、また次も作ろうと思うんや」
これによって減少を止められている農地面積はわずかなものだと思うし、その分自分たちの人件費や交通費がかかっていると思えば費用対効果は極めてよくないと思うが、こういう仕事をやっていて良かったと思える瞬間である。
それでも、農業生産の規模に合わせて人員を減らすべきだろうか?

費用対効果を考えれば、人員削減はその通りやるべきなのだろう。民間企業なら致し方ない選択だと思う。しかし、そう言った損得勘定だけで測れないサービスをするのが行政なのではないだろうか。もちろん、行政であってもやるべきではない「無駄」もあろうが、ここで天秤にかけられているのは、日本の将来である事を忘れてはならない。

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