解散総選挙の結果を受けていくつかの新聞では結果を嘆き、 これから始まる政治を懸念する声が上がった。その一部をここに挙げる。
- この国の民主主義は死んだ
- 自民党独裁の最悪の事態
- もう何も言えなくなった。恐ろしいことだ。
- 専横的にならずに謙虚に
- 小泉流は気に入らないことがあるとちゃぶ台をひっくり返す ような横暴な手法で支持できない
わたしも結果を見たときは落胆を通り越して呆れ、これから行われる政治を 想像してあまりの恐ろしさに顔面蒼白になった。ちなみに、否定的な意見が 多いのは、肯定的なコメントの内容があまりにお粗末だったから。 まともな意見もいくつかあったが、大部分は頭が痛くなるようなものだった。 え?どんなものかって?挙げたくはないがいくつか引っ張ろう。
- いいと思ったのは、おれは死んでもいいと言ったこと。 格好いいなと思った
- ネットでみんなが自民党を支持していた。何となく行かなきゃ
- なんかクールというか格好いいじゃない
- 景気を回復させてくれると思った
何度みても頭が痛くなる。こんな奴らがいるから専制政治を許してしまうのだろう。 頭が痛くなるコメントを挙げたのは20代前半のフリーターが主だったが ( これは驚くことではないと思う )、中には大学生や40歳以上の社会人であるにも かかわらず「なんとなく」あるいは「みんなが入れているから」 という理由で投票していることにかなり驚いた。この点で、たとえ自民独裁に ならなかったとしても、日本の政治は「お先真っ暗」と言えるかもしれない。
日本の民主主義の危機
「この国の民主主義は死んだ」という一言は疑いようもない事実だ。 自民だけで衆議院議席の2/3を占めるということはどんな法案であれ、 成立してしまうことを意味するからだ。たとえば平成の治安維持法といわれた 人権擁護法案があるが、これを成立させることも可能だし、消費税を10%どころか 「欧米を見習って」などを理由に任意の税率に引き上げることも可能なのだ。 法案は最終的には衆議院の採決が成立か否かを決定する。 たとえ参議院で否決されても衆議院で2/3以上の賛成が集まれば成立するのだ。 「なんとなく」だとか「格好いいから」とか「みんなが投票しているから」 などという理由で投票した馬鹿者に問いたい。 あなたたちは治安維持法の下で生活したいのか?
また、今回の選挙から「ウケ」を狙えば勝てるということが判明したことも 問題だ。投票した理由を見ると20代はともかくとして、40歳以上の世代でも 「格好がいいから」とか「TVで派手にしゃべっていた」からといった理由で 投票している国民がいることがわかる。つまりは耳障りのいい言葉を並べて、 見栄えのいいパフォーマンスを取れば選挙に勝てるといっても過言ではない。 こんなことでは民主主義などあったものではない。
切り捨て政策の加速
小泉は「効率化」だとか「コスト削減」を訴えるが、その結果生じた 失業者の雇用対策はまともに行われていない。これは失業率が未だ4.4%も あることから明白である。また、痛みを分かち合おうなどと言いながら redistribution の仕組みはまったく変わっていない。昨日参照した CECDのレポートを見ると所得上位10%と下位10%の格差は4.9倍 ( 米国は5.4倍 ) にも達しており今後も増大していく傾向にあること。可処分所得平均の 50%以下の所得しかない人が15.3% ( 世界第5位。同じく増加傾向 )もあること から経済弱者を視野に入れていない、むしろ切り捨てる方向性であることがわかる。 小泉は先日の記者会見で「消費税率は上げない」発言をしたが、 某内閣のときに消費税率が5%に引き上げられた歴史をみれば 当てにならないことは言うまでもない。
それは嘘っぱち
消費税が誰にでも平等に課せられる税金というのは嘘っぱちだ。 なぜならば、金額の重みというのは所得の大きさで変動するからだ。 たとえば、日本における貧困所得者 ( 年収238万以下 ) と年収2000万以上の 高所得者では、所得税を引かれた後であっても購買力に格段の差がある。 所得税を引かれた後はそれぞれ 214万以下、1260万以上になるが両者の 購買力が同じだという人はどこにもいないだろう。両者が同じ買い物をして 20000円を使ったとすると消費税として2000円を払わなければならない。 この2000円は貧困者と高所得者で同じ価値だろうか? 高所得者の中には「たかが」と笑い飛ばす人もいるかもしれないが、 ぎりぎりのなかで生活をする貧困者は2000円について真剣に悩むだろう。
郵政民営化で税金の節約というのはやはり嘘っぱちだ。 付け加えるならば、郵政公社は独立採算であるから人件費などの運営に必要な 経費は全て公社自体が負担している。税金は使っていないのだから経費節減には 結びつかないのだ。民営化により誕生するのは営利のみを至上目的とする 企業であるから、全国に一定水準以上のサービスを提供しつづける義務は一切ない。 ゆえに、不採算地域からは撤退する。地域住民は郵貯、簡保のサービスを 利用できなくなるだけでなく、年金の受け取りにも困ることとなる。 郵政公社の収入の2/3は郵便貯金と簡易保険であるから、この2つを取り除くと 郵便事業だけで全国のサービスを維持するのは不可能なようだ。 郵政民営化を行った国はドイツとニュージーランドがあるが、結果は6割以上の 郵便局が閉鎖され、国民の生活が不便になっただけだった。より地形が複雑で 人口の過密化と過疎化が顕著な日本では、地方の生活水準の低下は より激しいだろう。もう一つ考慮することとして、アメリカなど 多くの国々で郵政職員は国家公務員、つまり郵政事業は国が運営をしているのだ。 失敗した先例があるにもかかわらずなぜ民営化を強行するのだろう。 また、なぜ諸外国は国営・公営のままなのだろう。
その他の公務員も減らさなければいけないというのも嘘だ。 小泉は公務員が多すぎて財政を圧迫していると主張しているが、 日本の公務員はむしろ少ない部類に入る。日本の公務員の人件費はGDPの 6.6%に過ぎない。アメリカやフランスは10%を越えていることと、 日本の人件費は海外に比べると高いことを合わせて考えると どれだけ少ないか想像できるだろう。実際その通りで単位人口あたりの 公務員数はアメリカの半分にも満たない。現場でも消防官、労働基準監督官 警察官は不足しているくらいで、地方自治体の役所でもサービス残業が 頻繁に行われているくらいだ。役所のサービスの質が悪いとか手続きに 時間がかかりすぎる理由は、2つある。一つは職員が怠けていること。 もう一つは人手が足りないために処理が追いつかないことだ。 現状は後者だ。ここからさらに公務員を削るって? 小泉がどれだけ馬鹿で有害な政治家であるかよくわかる。 サービスの更なる低下を招くことはあれど向上することは決してない。
必要なのは削減ではなく交換である。すなわち、窓際にふんぞり返って 新聞読むだけの明らかな税金泥棒はとっとと首にして、換わりに仕事が できる人材を連れてくるのだ。
自分の特権は必死で守る小泉自民党
過剰な公務員 ( 小泉が喚いているだけで実際には不足しているのだが ) を削減する前に優先して削減するべきものがある。 小泉がひたすら隠して守ろうとしているものだ。それは自分たちが持つ 「お金をもらう」特権である。歳費特権と議員年金だ。歳費特権では 議員一人に年間6000万円以上が使われている。 これは平均所得476万円の10倍よりも遥かに大きい。議員年金は年間約130万 を保険料として10年以上支払うことで65歳から年額412万を受給できる というものである。ちなみに在職期間が長いと保険料も増える。20年在職すれば 年間500万を受給できる。平均所得帯の厚生年金の掛け金は年間約69万円で、 40年間払いつづけても需給額は年間約280万円であるから、 議員年金が優遇されすぎていることに気付く。さらに付け加えると、 同じ年金暮らしでも議員年金の場合は平均所得帯に、厚生年金の場合は 貧困所得帯になる。厚生年金は倍以上の掛け金を払っているにもかかわらず、 年金の需給額は議員年金の半分程度しか受け取れないのだ。 なんと理不尽なことだろうか。
さらに、政党助成金というものが支給されるので、国会議員はこれによって 交付金を受け取ることができる。この交付金は使い道を問われない。 企業買収に使おうが、ビンテージワインにつぎ込もうが、ベンツコレクションを 作ろうがまったく問題にされない。実際、買収に使った議員もいたようだ。 もちろん、経費は別に出るし ( 歳費特権 )、給与も別だ。 つまり、国会議員は数千万の所得のほかに国から特別に 「お小遣い」をいただけるわけだ。なんとおいしい特権だろうか。 小泉らはこれらの特権を隠し、あるいは気付いているものに対しては もっと悪い奴らがいるぞ ( 削減対象の公務員や郵政公社だ ) と嘘をついて 目を背けさせることで自分たちの特権を必死で守っているのである。 理不尽な特権など削除するに限る。違うかい?
インプリンティングに走った小泉
前述のように公務員削減は行うべきではなく、また郵政公社民営化の必要もない。 いま優先して行うべきは何か、また公約として掲げられているものの 必要性はあるのかを考慮すれば判別がつくであろう。しかし、小泉は 「国民の賛成多数」を得て独裁体制を作り上げてしまった。 成功の秘密は、国民の多くが政治に無関心あるいは縁遠いものと考えている ことに注目したことにある。コメントを見れば解るように、大学生でさえ 「格好がいい」とか「クールに見える」という理由で投票し、 フリーターにいたっては「投票するつもりはなかった」、40~50歳代でも 「格好いい」という始末。ここから、政治に無関心か政治はつまらないもの と考えている国民が多いことを読み取ったのだろう。今回の小泉の行動は 随所に「ウケ」狙いと思える点が見えた。スピーチでは一つ一つの台詞が短く ヒーローのごとく耳障りのいいモノだった。自分を正義に他を全て悪に 仕立て上げた。自分に投票すれば改革の勇士の一人になれるような物言いだった。
広がる divide
わたしが感じていることは、デバイドが複数の分野でどんどん広がっている ということだ。生活水準はもちろんだが、顕著なのは最近ようやくTVなどの メディアで取り上げられるようになったデジタルデバイドだ。 情報を扱える者と扱えない者の差が実に激しい。一方ではメディアに踊らされる ままに「作られた流行」に流され、メディアの鸚鵡返ししかできない者もいる。 両者の差は、あまりにも大きい。前者はメディアが流す情報のままに行動し、 メディアから流れる情報は絶対的に正しいと信じて疑わないのだ。 自己PRもマニュアルそのままで ( つまり誰のを見ても同じ ), ディベートなど 当然できぬ。外れているものや知らないものは「異端」というレッテルを貼り付け、 徹底的に排除しようとまでするのだ。まさしく金太郎飴ロボットで、 これほど不気味なものはない。
他方では、必要なものに関する情報を調べて自分にあったモノを探し出し、 自ら情報を調べて物事の真偽を判断して論ずることができる人がいる。 探究心・追究心があるので、自分から知識の輪を広げていくようだ。 彼らは言われたままに動くのではなくて、大抵の場合は命題を考察し 解決方法を考えてから動く。時には失敗するが、そのときは結果を分析し 失敗から学び取って成長していく。話してみると ( debate with them ) なるほどそういう考え方もあるのか!と新しい発見があることもある。 ブログを回ってみると今回の選挙について触れているサイトがいくつもあったが こちらに属するであろう方々は様々な資料を探して、それぞれが 持論を論じていた。多くは郵政民営化に反対するものであったが、 とても説得力がある内容で、郵政民営化賛成派のトンデモ説とは一線を画していた。
自ら成長できる人間と言われなければ動かない人間の差はあまりにも大きい。 取り返しのつかなくなる前にとよく耳にするが、もはや取り返しのつかない 事態になってしまっているのかもしれない。これは階層化社会の始まりともとれる。
専制政治の果てに
階層化と切り捨て政策がこのまま行われていくとしたら、そこは住みやすい国に なるのだろうか? 国民が安心して過ごせる国があるのだろうか? わたしはそうは思えない。そこは殺伐として、誰もが周りを蹴落とす機会を狙う ような社会だろう。国政は一握りの強者の特権を守り、利益を助長するために あるのではない。弱者であっても安心して暮らせる社会を作るためにあるのだ。 小泉はこの逆を行う政治家である。小泉が鞭を持って自分たちをひっぱたくような 社会がいいと思うならそのまま黙っているといい。彼はきっと実現してくれる。 でも、もしあなたがそんな社会はまっぴらごめんだと思うなら、安心して暮らせる社会がいいと思うなら声を大にして 主張するべきだ。「歪んだ改革は今すぐやめろ」