2024-12

2021・8・22(日)サントリーホール・サマーフェスティバル初日
アンサンブル・アンテルコンタンポラン演奏会
細川俊夫の「二人静」日本初演他

     サントリーホール  6時

 フランスの現代音楽演奏オーケストラ、アンサンブル・アンテルコンタンポラン(EIC)が、音楽監督マティアス・ピンチャーとともに来日。

 実に久しぶりに聴く「外国のオーケストラ」だ。30人強の小編成オーケストラながら、これは紛れもなく欧州の腕利き楽団である。メリハリ、音の粒立ち、ギザギザした音の美しさ、音の表情の濃厚さなど、すべてが日本のオーケストラとは異なる特徴を示す。
 プログラムの第1部、演奏会形式で日本初演された細川俊夫の新しいオペラ「二人静」の演奏では、いっそうその印象を強くするだろう。

 ━━波打つように起伏が繰り返されるオーケストラの音は、日本のオーケストラが演奏すればなだらかに息づくものになるだろうが、欧州のオケによるそれはもっと激しい、波しぶきがリアルに飛び散るような音になる。
 これは武満徹の作品などでもしばしば感じられたことだが、日本的な音楽が、外国の指揮者とオーケストラにより演奏された際の音の変化の面白さは、また格別なものがある。そしてこの細川俊夫の音楽も、極めて劇的で、鮮烈なものに姿を変える、と言えるかもしれない。

 このオペラ「二人静」は、2017年の作曲で、同年12月にパリでピンチャー指揮EICにより初演されている。能の「二人静」を基に、平田オリザが台本を書き、歌詞は英語と日本語とが使われている。今回は日本語字幕付き原語上演だ。

 地中海の浜辺、弟を亡くしつつも何処よりか泳ぎ着いた難民少女ヘレンに、肉親を殺害された静御前の霊が合体するという物語で、細川特有の海の音楽が全篇を彩り、最後は風の響きを交えつつ寂しく余韻豊かに消え行くという幽遠で美しい終結に至る。
 ヘレン役のシェシュティン・アヴェモが純な歌唱を聴かせ、いっぽう静御前役の能声楽の青木涼子は、抑制した形ながら、能に近いスタイルの発声で凄味を利かせていた。

 演奏会形式なので、2人の声楽ソリストは指揮者両側のやや舞台前面にそれぞれ位置したまま歌った。ただこの方法だと「静御前がヘレンに近づき、背後からその方に両手を置いた瞬間から2人が合体する」という光景が無いことになるので、ヘレンが「ワタシハ シズカ」と歌い出すくだりが何となく唐突な印象を生んだように感じられたのだが、いかがなものか? 作曲者も台本作者も現場にいたのだから、それなりの意図があったのかもしれないが。

 プログラムの第2部では、同じくピンチャーの指揮するEICに、日本の奏者たちによる「アンサンブルCMA(サントリーホールの室内楽アカデミーが母体)も参加して、マーラーの交響曲「大地の歌」がグレン・コーティーズによる管弦楽縮小版編曲で演奏された。ソリストはテノールがベンヤミン・ブルンス、アルトが藤村実穂子。この編曲版でもテノール・ソロのパートは相変わらず聞き取りにくいが、これはもう、作曲者の責任であろう。

 サントリーホールのサマーフェスティバルにしては近年珍しく客の入りがいい。2つの作品とも、カーテンコールは非常に長く、客電が上がってからもなお拍手が延々と続いていた。

コメント

「二人静」の演出について

「二人静」の演出について、確かコロナ対応での詠出になるというようなことをどこかで読みました。初演時の映像がYoutubeのEIC公式頁で公開されていますが、この場面ではやはりヘレンの肩に背後から静が手を置き、ということが確認できます。
https://www.youtube.com/watch?v=ZHck3LCJ7zM

予めこちらを観て当日の演奏に接しましたが、やはりとりわけこうした作品の場合、ライブの緊張感に勝るものはないと感じました。

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