2024-12

2016・1・18(月)METライブビューイング ベルク:「ルル」

   東劇  1時

 昨年11月21日MET上演のライヴ映像。ドローイング・アニメの大家ウィリアム・ケントリッジの演出が話題となったプロダクションである。

 彼の最初のMET演出だった「鼻」(ショスタコーヴィチ)の舞台は、現場で観て大いに感心したものだが、第2作の「ルル」はそれよりも更に、はるかに微細で雄弁なつくりになっているようである。どこまでが大道具で、どこからがアニメの投映なのか分からないほどの精妙な舞台だ。

 登場人物の心理や、舞台で見せぬ部分は、アニメで表現される。原作のト書きでも映画が使われる個所があるが、そこなどはまさにアニメ投映の見せ所といえよう。
 ラストシーンでは、物陰で殺されたルルは姿を見せず、彼女の安息に満ちた顔がアニメで投映されてドラマが終る、という仕組だ。
 ただ、やはり「鼻」と同様、METのあの広大なナマのステージで観てみないと、その真価は十全に理解できない類のものではないだろうか。

 題名役はマルリス・ペーターゼン、歌唱力は相変わらず素晴らしい。どちらかというとシリアスなルル像だが、特に最後の場面、尾羽打ち枯らした姿となり、「たとえ銀貨1枚でも」と男に哀願するあたり、見事な演技力である。
 ゲシュヴィッツ伯爵令嬢役では、スーザン・グラハムが珍しく汚れ役を演じた。悪くはないが、どうもあまりピンと来ない演技である。幕間での案内役デボラ・ヴォイトとの掛け合いはまた漫才のようになって楽しかった。

 シェーン博士と切り裂きジャックはもちろん同一歌手が歌い演じるが、ここでのヨハン・ロイターは存在感充分。
 老人シゴルヒにはフランツ・グルントヘーバーが登場、もう80歳近いが、立派である。もっともこの役はたしか往年の大歌手ハンス・ホッターが90歳近くなっても歌ったはずで、高齢のドイツ人歌手には持って来いのキャラクターかもしれない。
 猛獣使いとサーカスの力芸人を歌い演じたバリトンが、井上道義さんによく似ていると思ったら、あのバイロイトの2013年の「指環」でアルベリヒを歌っていたマルティン・ヴィンクラーだった。あの時よりも、今回の舞台の方が生き生きとしているようである。

 アルヴァ役はダニエル・ブレンナという人が歌い、これは「注目の若手のMETデビュー」だったそうだが、あまり冴えない。
 総じて、みんな歌は完璧だが、ペーターゼンを別として、人物描写は思ったほど生き生きしたものではなかった。脇役の中には、やや手持無沙汰の演技を見せていた人もいる。このあたりに、アニメでは超一流ではあっても、プロの演出家ではないケントリッジの演出の限界があるだろうか。

 指揮は、当初予定されたジェイムズ・レヴァインに代わってローター・ケーニクスという人が受け持っていた。録音で聴く限りは無難な出来に感じられるが、本質的なものはナマで聴いてみないと分からないだろう。とにかく、よく喋る人である。

 休憩2回を含み、上映時間は3時間54分。
 こういう、オペラファン以外にはあまり知られていない名作が、解りやすい字幕つきの映像で広く紹介されることは、実にありがたい。

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