なぜ映画の背景はボケているのか?被写界深度についての考察
- 2014/11/10
写真や映像の関係者はよく被写界深度(Depth of Field)という言葉を使います。簡単に言えば「ピントが合う範囲」のことです。被写界深度が深い(Deep focus)とか、浅い(Shallow focus)と言います。
◆被写界深度が深い画(Deep focus)
被写界深度が深いと、すべてにピントが合います。日本の映画業界では「パンフォーカス」と呼びます。
◆被写界深度が浅い画(Shallow focus)
被写界深度が浅いと、背景がボケて、主役が引き立つ画になりますし、変化に富んでメリハリのある面白い画になります。このようなボケ表現(Bokeh)は写真でよく使われますが、映画の中でも背景がボケたショットをよく見かけます。今回は「なぜ映画の背景はボケているのか?」という考察をしてみたいと思います。
映画用語でロングショットと言えば、広い範囲を画面内に収めるショットを指します。人物は全身が映ります。フルショット、ワイドショット、ルーズショットもほぼ同義語です。
映画でも、このようなショットでは背景はあまりボケません。多くの場合、すべてにピントが合っています。その理由は、ロングショットの役目と大きく関係があると思います。ロングショットは基本的に「観客に状況を伝える」ために存在しています。ですから、必然的にパンフォーカスか、それに近いものになります。
映画では人物の上半身を映すショットがよく登場します。ここではミドルショットと呼ぶことにします。ウエストショットやバストショットなどと呼ぶこともあります。これらのショットは会話シーンなどでよく使われます。映画の中でもよく出てくる構図です。
このようなショットでは多くの場合、背景はボケています。また、「肩なめ」などと呼びますが、別の人物の後ろ姿越しで撮影する場合、その後ろ姿もボケます。1人の人物だけにピントを合わせることで、「今はこの人物に注目してください」という明確なメッセージを観客に伝えます。観客の意識を、特定の人物に集中させることができます。
映画の中にはさらに顔に寄ったアップが登場します。顔のアップを多用する映画監督もいますが、一般的には映画の中で本当に重要な瞬間に使用されます。例えば、主人公が恋に落ちる瞬間や、何かを決意する瞬間などです。顔のアップは極めて感情的なショットです。観客は顔のアップから強いメッセージを受け取り、「この人物はなにを考えているのだろう?」「何を感じているのだろう?」と考え、感情移入します。
顔のアップでの被写界深度は極めて浅く、ピントが合う範囲は10cm程度かもしれません。人物の「目」にはピントが合っていますが、「肩の輪郭」はすでに少しボケています。背景は、さらに大きくボケます。観客の視線を人物の表情に誘導するためには、浅い被写界深度の方が効果的です。
ボケのある画を見ると、「ミニチュアのようだ」と感じることがあります。これも重要なことです。私たちは、小さいものを撮影すると被写界深度が浅くなることを経験的に知っています。逆に、巨大なものや広大な風景を撮影すると、パンフォーカスになることも知っています。
◆パンフォーカス
◆ボケあり
ボケを加えると、大きなものでもミニチュアのように見えます。つまり、巨大な宇宙船やロボットをCGで描く場合には、ボケ表現は使用されません。
映画的なボケの表現は、アニメ作品にも応用されています。好例として新海誠監督によるZ会「クロスロード」を紹介します。この120秒の作品の中に、さまざまな実写的な表現を見つけることができます。レンズに付着したホコリや、レンズディストーションまで再現されています。被写界深度によるボケ表現も、実写映画のように使用されています。
作品のスタイルによって程度の差はありますが、映画的なボケ表現はアニメ作品でも一般的になってきています。一方、背景に全くボケを加えないスタイルのアニメもあります。
よく「絞りを開放すれば被写界深度が浅くなる」とか「望遠レンズでは被写界深度が浅くなる」といったカメラの仕組みは語られます。しかし、「なぜ被写界深度を浅くする必要があるのか?」という芸術的な観点は、あまり話題にされません。今回は、映画の中で被写界深度がどのように利用されているか考察してみました。
◆被写界深度が深い画(Deep focus)
被写界深度が深いと、すべてにピントが合います。日本の映画業界では「パンフォーカス」と呼びます。
◆被写界深度が浅い画(Shallow focus)
被写界深度が浅いと、背景がボケて、主役が引き立つ画になりますし、変化に富んでメリハリのある面白い画になります。このようなボケ表現(Bokeh)は写真でよく使われますが、映画の中でも背景がボケたショットをよく見かけます。今回は「なぜ映画の背景はボケているのか?」という考察をしてみたいと思います。
1. ロングショット
映画用語でロングショットと言えば、広い範囲を画面内に収めるショットを指します。人物は全身が映ります。フルショット、ワイドショット、ルーズショットもほぼ同義語です。
映画でも、このようなショットでは背景はあまりボケません。多くの場合、すべてにピントが合っています。その理由は、ロングショットの役目と大きく関係があると思います。ロングショットは基本的に「観客に状況を伝える」ために存在しています。ですから、必然的にパンフォーカスか、それに近いものになります。
2. ミドルショット
映画では人物の上半身を映すショットがよく登場します。ここではミドルショットと呼ぶことにします。ウエストショットやバストショットなどと呼ぶこともあります。これらのショットは会話シーンなどでよく使われます。映画の中でもよく出てくる構図です。
このようなショットでは多くの場合、背景はボケています。また、「肩なめ」などと呼びますが、別の人物の後ろ姿越しで撮影する場合、その後ろ姿もボケます。1人の人物だけにピントを合わせることで、「今はこの人物に注目してください」という明確なメッセージを観客に伝えます。観客の意識を、特定の人物に集中させることができます。
3. 顔のアップ
映画の中にはさらに顔に寄ったアップが登場します。顔のアップを多用する映画監督もいますが、一般的には映画の中で本当に重要な瞬間に使用されます。例えば、主人公が恋に落ちる瞬間や、何かを決意する瞬間などです。顔のアップは極めて感情的なショットです。観客は顔のアップから強いメッセージを受け取り、「この人物はなにを考えているのだろう?」「何を感じているのだろう?」と考え、感情移入します。
顔のアップでの被写界深度は極めて浅く、ピントが合う範囲は10cm程度かもしれません。人物の「目」にはピントが合っていますが、「肩の輪郭」はすでに少しボケています。背景は、さらに大きくボケます。観客の視線を人物の表情に誘導するためには、浅い被写界深度の方が効果的です。
4. ミニチュア感
ボケのある画を見ると、「ミニチュアのようだ」と感じることがあります。これも重要なことです。私たちは、小さいものを撮影すると被写界深度が浅くなることを経験的に知っています。逆に、巨大なものや広大な風景を撮影すると、パンフォーカスになることも知っています。
◆パンフォーカス
◆ボケあり
ボケを加えると、大きなものでもミニチュアのように見えます。つまり、巨大な宇宙船やロボットをCGで描く場合には、ボケ表現は使用されません。
アニメにおける応用
映画的なボケの表現は、アニメ作品にも応用されています。好例として新海誠監督によるZ会「クロスロード」を紹介します。この120秒の作品の中に、さまざまな実写的な表現を見つけることができます。レンズに付着したホコリや、レンズディストーションまで再現されています。被写界深度によるボケ表現も、実写映画のように使用されています。
作品のスタイルによって程度の差はありますが、映画的なボケ表現はアニメ作品でも一般的になってきています。一方、背景に全くボケを加えないスタイルのアニメもあります。
まとめ
よく「絞りを開放すれば被写界深度が浅くなる」とか「望遠レンズでは被写界深度が浅くなる」といったカメラの仕組みは語られます。しかし、「なぜ被写界深度を浅くする必要があるのか?」という芸術的な観点は、あまり話題にされません。今回は、映画の中で被写界深度がどのように利用されているか考察してみました。
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