恋するプリテンダー(ウィル・グラック)

 こういうちょうどいい感じのロマンティック・コメディなかなか最近なかったからよかったね、という評判だったと思うのですが、ジャストそんな感じでした。

 ただ最後の「映画ならではの無茶」は無茶すぎていかがなものかと僕も思いました。

☆☆☆

他なる映画と1、2(濱口竜介)

 いろいろな示唆に富んだ文章がまとめられていましたね。特に僕が虚を突かれた思いで読んだのは、「カット頭とカット終わりをどうしているか」のくだり。

 自主映画を撮ったことがあれば(特に8ミリフィルムで)分かっていただけるかもしれないが、カットってただ繋いだだけでは物語にならないんですよね。文字通り、それは「話にならない」レベルでのことだけど、フィルムも高いから辛抱して最低限の分量しか撮影しないで、現像から戻ってきたものをいざ繋ぐと、どういう場面なのか全然成立していない、ということが普通に起こる。その経験をしてからだと、TVで普通に放送されているなんということはないドラマの1シーンであっても、確かな撮影と編集の技術があってのことなのだとよく分かる。という何十年も前のことをハッと思い出したのですね。

 映画って、つい演技とか物語といった観点から感想が述べられがちですが、濱口監督作品については、物語とかテーマ以前にも、観ているだけで惹きつけられる何かが(確かに)ここにはある!と感じる。その理由の一端が監督自身の口で説明されている気がしたのです。要は技術から立ち上がるなにか。考えてみると、映画とは膨大なカットの集積から成り立っている訳で、そのことに改めて立ち返る、思いを致すことになる文章群でした。

 ところで濱口監督レベルの人でも「映画を観ていて寝てしまう」経験がある、ということに勇気づけられる人は多いのではないでしょうか?感想で言及している人がたくさんいて笑ってしまった。

☆☆☆1/2

ザ・フラッシュ(アンディ・ムスキエティ)

 まあ面白かったのですが、冒頭の病院から赤ちゃんを救い出すような「小さな世界」での大活躍に留めてほしかった。というか、フラッシュだけが活躍する映画でよかったのになと思いました。

 結局のところ、ジャスティス・リーグ第2章みたいな規模になるようなならないような、マルチバースになるようなならないような、という構えの大きな物語になってしまうので、しかも内容がこれでもかと盛りだくさんだから、正直お腹いっぱいすぎて、もういいかなとなりました。2時間半程度の長い時間を持たせるために脚本で手数を増やしたのか、それだったら90分強くらいでコンパクトな話にしてもよかったのではと思います。本末転倒ではないか。歴代バットマン、スーパーマンが登場するのは楽しいといえばまあそうだけど、スーパーガール登場の意味合いも結果微妙だったし、スパイダーマンへの対抗意識(というかスタジオの要請?追っかけでやっても二番煎じは否めないし…)だったのか、それってヒーロー映画の面白さの本質ではないよなあ、と思いました。

☆☆☆1/2

フォールガイ(デヴィッド・リーチ)

 これまでの監督作について、『アトミック・ブロンド』や『ブレット・トレイン』など、予告や物語からは食指が動かなかったものの実際見てみると面白かった作品が多かったので、今回は逆に期待していたのだけど今一つ盛り上がらなかったかな、というのが正直な感想です。

 「スタントマンがとある犯罪計画に巻き込まれて、そのスキルを活かして窮地を脱する」という物語は、スタントマン出身でいまや一大アクション会社の社長でもある監督が作る、という時点で枠組みがもうメタの上にもメタなんだけど、それが悪い意味で枷になったという印象。

 もうちょっと詳しく言えば、どんな映画でももちろん安全策を確保した上でスタントシーンやカーチェイスをしている訳だけれど、観客が観ている時は「物語内では文字通り命がけで戦っている」という前提だからこそ手に汗を握って作品に没入している訳ですよね。それがこの作品では、「という設定でこんな工夫を凝らしてみました。それではご覧ください!」というプレゼンテーション付きで各シーンを見ているようで、その緊張感のなさ(真剣そのものだとは思うけれど)が画面の外まであふれ出してしまったのか、壮大なかくし芸大会を見せられているようで何だかしらけてしまったんですよね。本気のアクション映画とどこに違いがあったのか、ルックの問題なのか説明できないのですが、全編「映画ソフトのおまけで付いてくるアクションシーンのバックステージ集」みたいなぼんやりしたトーンに見えました。

 映画そのものは、ライアン・ゴズリングのとぼけたチャームに随分助けられていたと思います。本当は『F/X 引き裂かれたトリック』みたいに、映画の裏方の人がその特殊なスキルを活かして問題を解決する、というシンプルな話が見たかった気がします。

☆☆☆

オオカミ狩り(キム・ホンソン)

 よもやのホラー展開でしたが、韓国映画のサービスとしての残酷バイオレンスはエクストリームすぎてあまり好きじゃないのです…

 ところで、犯罪者が下種だったり、裏で企んでいる組織が必要以上に下品だったり、ヒロインの女刑事が汗かきスウェットでボディライン強調しすぎとか、いろいろな要素に東映風味を感じたのですが、まあそういう路線なんでしょう。(それと、韓国映画でいえば『魔女』シリーズ的な展開を意識していると思いました。)

 意外なことに監督は『技術者たち』の人だったんですね。あれは結構好きだったけどな。

☆☆☆1/2

ミッチェル家とマシンの反乱(マイク・リアンダ)

 フィル・ロード&クリス・ミラーらしいいかにもアメリカンな家族のロードムービーなのですが、突飛なトラブルをあり得ないほど無茶な方法でくぐり抜け、その結果家族が絆を取り戻す、という話なので端的にいって映画クレヨンしんちゃんだなと思いました。親離れ子離れの話でもあるので、もっといえば『オトナ帝国』だなと思います。

 これはただの思いつきという訳でもなくて、実写含め2D、3D何でもありのごった煮の表現は明らかに『マインド・ゲーム』オマージュですが、湯浅政明という点でもクレしんにつながっていますよね。クライマックスでのお母さんの大車輪の活躍は、リミテッドアニメ的なケレンと呼吸で演出されているから、全体として日本アニメへのリスペクトを感じました。

 それはさておき、最初はこの映画の所謂「SFアクション」としての部分は、主人公の少女の妄想、あるいは進学を控えての自分の将来に対する漠然とした不安のメタファーとして描かれるのだろうと思っていたのですが、物語内現実として実際にAIロボットが侵略してくるから思わず笑ってしまいました。自分が子どもでも盛りだくさんな内容だから楽しかったと思うけど、親目線で観るとやっぱりそのようなシチュエーションを先取りして想像してしまって思わず涙してしまいました。

☆☆☆☆

白猫、黒犬(ケリー・リンク)

 ケリー・リンクは、日々の由無し事と奇想天外なファンタジーという取り扱う事象の振幅が広くて、同じ一つの物語にそれが両立する綱渡りの巧みさをこそ味わうべき作家だと思うのですが、今回は(童話というモチーフにも関わらず※)もっぱら観念的なSFや幻想小説の領域で勝負していて、従来の作風が好きな自分としてはあてが外れた感じになりました。「スキンダーのヴェール」は唯一過去作に通じる雰囲気があったかな。作家としては同じことを繰り返してもつまらないのでしょうけれども…

☆☆☆1/2

※作者でいえばもっと「雪の女王と旅して」みたいな作品なのかなと思ったんですよね。